出来るだけゆっくり目を覚ます。
校舎より二人が落ちた。二人が落ちて一人が起き上がった。茂みより覗ける人影は例の如く血みどろで、いずれにおいても主人公ではあり得なかった。
そこに駆け寄る者はいなかったが、知らぬ間には当事者が友人役としてただ今それを語っている。
「ああ失敗。これで満足か。君がしっかりと死に顔を決めておかなかったから。」
「別に心中物を書きたかった訳ではないからね。当然さ。」
「だから君は一人で落っこちて、彼女もまた一人で落っこちた。」
目的は有って理由は無く、決まりきった窓を地上より覗き見る。
「現にあそこ、ほら、あの窓際の少女はそれとは別に、可能な恋愛の契機として必要なだけ可視的にうずくまっている。」
「じゃあ、私は行くよ。」
殊勝なあなたはそれを再三眺め見ては言い出せぬ面持ちで落っこちる。
「約束通りここに来たんだ。プロットなんて用意してはいないし、用意してはいけない。君もそれを約束してくれるね。」
「元より暑くて何も考えてはいませんよ。度々見知ったシーツの寝相が邪魔をして、私達は直立しているはずもどうして満足に歩けぬのでしょうか。」
ああ、未だ彼にとって彼女は判然とせず、日記において不鮮明な分にずっと持続している。
「良いんだね。私は話しているだけでいつかは満足に語られる身分であるけれど、君はといって、私を愛してくれている保証もないのだろう?」
「その内、彼女は彼を愛した。と記述されますよ。それでは駄目ですか。」
「駄目だ。絶対に。」
ああ、これを言う内も聞く内も既にすっかり満足しつつある。辺りはもうそろそろ足早に解像度を取り戻し、その頃には彼女もすっかり別の誰かに取って変わられている。
どうにもこの教室はこれ以降人数の増えることが無いとは絶対に保証されていて、それだから芝居掛かって書き入れるところの黒板も当然崩れ落ちるものとばかり思っていたのである。それもそのはずで、彼女はすっかり崩壊し掛かっている。だけれど語弊があるとすれば、両者は触っても触られていないという限りにそれ以上先に進めなかったのである。いずれも記号として取るに足らず、それはそうした無味乾燥としては尚も鮮明に記述されていたのである。
ああこの間、確かに何か嘘を付かれただろう。
黒板の文字が一人告げる。
「また後で起こします」