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8話 みんなでクリスマスパーティー

「…まあ、とりあえずそこの椅子にでも腰掛けて、待っててくれよ」



 やはり機嫌を損ねてしまったのだろうか、すっかり目を合わせてくれなくなってしまった高篠さんにそう声を掛けると、彼女は俺が手渡したハンガーにコートをかけて、その後静かにリビングへと移動して、俺が指さしたテーブルと一緒にある中で、一番隅の椅子を選んだ。


 コートを脱ぐと、上は紺色を基調としたカーディガンを羽織っていたことがわかった。前のデートのときには考えられなかった、女の子っぽい服装。白のスカートとの相性も良く、全体としてまとまっていながら可愛らしく、いつになく気合が入っているように感じられた。

 そんな彼女の姿を見て、ついそわそわしてしまうのは…

 ―――仕方のないことだと思ってほしい。



 だからじっとしていられなくなった俺は、母と妹に任せっきりだった準備の仕上げを手伝いつつ、それでも何度か高篠さんの方に視線をちらちらと向けてしまうのだった。


 ふと目線を彼女の方へと向けると、高篠さんは自分も手伝おうと思ったのか、椅子から立ち上がろうとしていたから、俺はそれを手で制した。

 …今の高篠さんが俺の傍に来てしまったら、俺の心臓は持ちそうになかったから。



 でも、そんな態度を取ってから、俺は高篠さんのことを拒絶してしまったと思い、激しく後悔した。




 結局、準備にはさほど時間がかからなかったのだが、完了すると同時に、タイミング良く父が帰ってきた。


「お帰り、父さん」


 いつも帰りが早いわけではないけど、毎年父さんはこの日だけは必ず、早く帰ってきてくれる。

 父さんは、俺とは違って気さくな人柄で、おそらく部下にも慕われているのだろう。

 もしかして、父さんが早く帰れるように、他の部下たちが毎年夜遅くまで仕事を頑張っているのではないかという不安もあるのだが…

 ―――きっと、いい会社に勤めているのだと思いたい。



 まあそんな風に、普通の家庭の父親よりも少し話しやすいであろう、我が家の父さん。


 しかし、そんな父の『初めまして』の挨拶に、肩をびくっとさせる彼女。


 ―――高篠さんは見るからに怖がっていた。



 それを察した父さんは、少しだけ距離を置いた状態で、無言で彼女に笑顔を向ける。

 すると、高篠さんも笑顔を返して、それからは普通に話していたけど…

 

 …さっきのはなんだったのだろう。



 それは、母や妹の碧には決して向けられることのなかった表情で。

 緊張というよりは、拒絶に近いと感じられたが…


 まあ、わからないものは仕方ない。

 とりあえず彼女も元通りに戻ったみたいだし、今という時間を精一杯、楽しむことにしよう。




♢♢♢




 他のご家庭のクリスマスパーティーが、一般的にどのようなものなのか、俺は知らない。

 だけど、我が家のそれは至ってシンプルだ。

 

 みんなで、普段より少し豪華な料理を食べる。

 お菓子を食べる。

 ケーキをみんなでわけて食べる。


 つまり、食べる。

 それがほとんどで、それ以上でもそれ以下でもない。


 あれ、以上と以下ってどっちも基準点を含んでいるから、日本語としておかしくない?


 …とまあ、そんなくだらないことを考えながら、ご飯を口に運ぶことができているのは、高篠さんが凄く楽しそうだったから。



 彼女は、幸せそうに、笑ってた。

 それは、俺がここ最近、ずっと見たいと願っていた表情で。



 だから、俺もさっきまでのちょっぴり気まずかったことは忘れて、笑顔でその時間を過ごすことが出来た。



 ずっとこんな時間が続いたらいいのにな、なんて思った。

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