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6話 帰宅と俺の家族

 大村くんの最後の一言で俺の心はすっかり沈んでしまい、その気持ちは、楽しみにしていたはずの放課後になっても変わることはなかった。

 この後のクリスマスパーティーのことを考えては、どうしても暗い感情が浮かび上がってきてしまう。


 しかし、それではいけないと、俺は自分を奮い立たせる。

 俺は頑張ってあの高篠さんに告白することができたんだ。

 あのとき勇気を出したことに比べたら、今の気持ちなんて大した悩みではないって。

 …何か根拠があるわけではないけど、前に進むために、そうやって自己暗示のようなものをかける。



 そう。捉え方を変えるんだ。

 思えば、大村くんはいつも俺に考えるきっかけをくれる。



 最近、高篠さんは俺と一緒に話している時の口数が少ないし、俺たちは3か月も付き合っているというのに、未だにキスの1つすらしたことがないのだ。

 いわゆる倦怠期ってやつだろうか。


 ――いや、違う。停滞期だ。そう思いたい。

 しかし、もしそうだとしたらその原因は…


 俺の行動力が不足していた事ではないだろうか。

 薄々気づいていながら、臆病な俺はその現実から目を背けていた。


 俺が一歩を踏み出すことで、高篠さんに嫌われて決定的な何かが起こってしまわないか。

 常にポジティブにいようと心がけている俺だが、特別成功体験が多いわけじゃない俺なんかではやはり、過剰なほどに意識するくらいでないと、前向きな気持ちを保つのは難しい。


 でも、それではダメなんだ。

 変わらなければならない。

 そう思った。




♢♢♢




 高篠さんは一度荷物を家に置いてからうちに来るということで、お互いいつものように別々に帰宅してから、後で俺が彼女のことを迎えにいくことになっていた。


 そもそも、今回のクリスマスパーティーへの招待も、彼女の親が仕事で遅くなるので放っておいたら彼女はイブを1人で過ごすことになりそうであるということを、何かの話の流れで偶々知ったから、という何とも消極的な動機である。

 我が家では毎年家族でクリスマスパーティーをしていたから、それが普通だと思っていた俺は、一人でぼっちで部屋に籠っている彼女の姿を想像したら、居ても立っても居られなくなったのだ。

 しかし、あの時の俺は、家族のクリスマスパーティーを抜け出して、高篠さんと2人で過ごすなんて発想は微塵もなかった。

 …まあ、高篠さんが1人になってしまうかもしれないという事実を聞き出しただけで奇跡と思いたい。


「蒼真、雫ちゃんと2人きりじゃなくてほんとに良かったの~?」


 帰宅してパーティーの準備をしていた母にそう声をかけられた俺は、そんなことをつい先頃まで考えてもみていなかっただなんて、口が裂けても言えないわけだけど。


 俺は彼氏として失格かもしれない。




 …いや、そんなことを考えている場合じゃないんだ。


 俺は高篠さんに楽しんで欲しくて、ただそれだけで招待したんだ。

 そのときの状況が2人きりかどうかなんて、些細なことだろう。


「お兄ちゃんに3次元の彼女って、ほんとにいたんだね♪」


 俺より少し前に帰宅した様子の、現在中2で俺の妹である碧が、そう茶化してくる。

 いつもの俺ならつい、「うるせ」とか言って、曖昧にしてはぐらかしてしまうところだけど…



 駄目だ。

 それじゃ、いつもの俺のまま。

 自分に自信の持てない、俺のままなんだ。



 高篠さんとは今はちょっと上手くいっていないけど、彼女が俺の恋人であるという事実に変わりはないのだから。

 だから俺は、小さな一歩を踏み出すつもりで、ここは強気に出ることにした。


「おう。すっごい美人だから、覚悟しとけよ」


 そう言って、碧に笑い返してみた。


「え~お兄ちゃん面食いなの~?」


 碧の見損なった、みたいなセリフが聞こえてきて、それが少し悔しかった俺は、思わず高篠さんの良いところを語り出してしまいそうになったが、今は彼女を迎えに行くことの方が先であったことを思い出す。


「準備まかせて悪いな。行ってきます」


 だから俺はまるで勝ち誇ったかのように笑いかけると、そんな俺のことを碧は少しだけ意外そうな目で見ながら、しかし快く送り出してくれた。

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