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5話 大村くんは今日も今日とて

 俺は高篠さんと付き合い始めたことを、クラスのみんなには打ち明けていない。


 …というか、誰と誰が付き合うことになっただの、わざわざ口にすることじゃないと思っているからだ。


 実際、俺はそういう他人の恋路にはそこまで興味がない。


 だが、その事実を知らないがゆえに…

 ―――俺は大村くんに、高篠さんのことに関していじられるようになってしまったのだった。




 大村くんのいじりは、彼が玉砕して俺が付き合い始めた直後から始まった。


「前までは見てるだけだったのに、お前最近高篠さんと仲いいじゃねえか」


 初めてそう言われたときは、思わずドキッとした。

 なぜなら、以前からこっそり高篠さんのことを目で追っていたことが、大村くんにはバレバレだったという衝撃の事実を知ってしまったからだ。


 ただ、彼が言うように、高篠さんと急によく話せる仲になったのは事実だし、だから俺はそれを肯定すると同時に、高篠さんと付き合い始めたことを彼に伝えようとした。


 しかし、俺に発言させる時間を与えず、彼はこう言ったのだ。


「ま、高篠さんとは全く釣り合っていないから、蒼真には到底無理だろうけどな!」


 ―――その言葉を聞いた俺は、『ああ、またこいつは俺の評価を下げたかっただけなんだな』と落胆した。




 蒼真、って俺のことを下の名前で呼んでくるのも厄介なんだ。

 周囲には仲が良いから軽口を叩いている、みたいなニュアンスを醸し出しつつ、絶妙に相手の株を下げて自分を上げるような嫌味を言う。

 それが大村くんのやり口なのだ。


 その後も大村くんに絡まれるたびに、俺は何度も真実を明かそうと思ったのだが…


『釣り合っていない』


 あの日から、その言葉は俺の心の中から決して消えてくれることはなかった。

 なぜなら…


 ―――それは俺自身も、事実であると思っているから。



 情けない話だ。



 ただの言い訳にしかならないが、そのことも高篠さんを1度きりしかデートに誘えていない理由でもある。


 3ヶ月でデートは1回だけ。

 一般高校生はそんなにお金がないから、デートの頻度としてはそれくらいが普通?


 …そう思いたい。





 俺と高篠さんは、学校の行き帰りは基本的にお互いの同性の友達と一緒である。

 まあ俺の場合、時間が合わないことも多くて、約束しているわけじゃないから、1人で帰ることも多いけど。

 よって、2人で一緒にいることがあるのはクラスの休み時間と、あとは放課後にスマホのメッセージアプリでちょっと喋るくらいなのだが…


 いつもいつも、顔色1つ変えずに淡々としている彼女は、確かに告白する前と比べたら格段に話しかけやすいのは間違いないのだけど、やっぱり俺のことを異性としては見てくれていないと思う。


 そして、この頃は…


 どういうわけだろう。

 彼女の笑った顔を見ることもあまりなくなったし、会話自体も減ってきている気がする…。


 どうしよう。


 俺、愛想をつかされてきてるのかな。




♢♢♢




 大村くんの、原口さんに対する妄想が聞くに堪えないので、つい長い間考え事をしていた俺だったのだが、


「なー蒼真」


 休み時間ももうすぐ終わりという頃合いで、今日も大村くんが話しかけてきた。


 俺が高篠さんのことを色々と考えている間も、ずっと隣の席で彼を中心とした男子たちがバカ騒ぎをしていたのだが、きっと大村くんは、とうとう最後まで自分の話に乗ってこなかった俺に対して、少し腹立たしい感情を抱いたのだろう。


「蒼真はほんと、彼女作ることに興味ないよなー?なあ、どうよ?最近仲良くしてもらってる高篠さんにでも思い切って告白してみたら?まあ俺がダメだったくらいだから当然無理だろうけどな。ハハハ」


 大村くんにつられてドッと笑い声が上がる。

 俺には何が面白いのかわからない。


 大村くんは事前に高篠さんに告白することを周囲に対して話題にしていた以上、フラれた事実を隠すわけにはいかなくなったので、いっそのことその件をネタにしているみたいだが、それでも彼の高いプライドは相当傷ついたことだろう。


 だから、高篠さんに対して冷たい人というレッテルを貼る。

 だから、俺みたいな群れの一員でない凡人を利用して、フラれた仲間を増やそうとする。


 そうすることで、自分の黒歴史を薄めようという意図があるのだろう。


「ま、ぼっちはぼっちなりにクリスマスを楽しんでくれや」


 そう言い残して、またしても俺に何かを言わせる時間を与えず、そのまま休み時間は終了となり、大村の周囲からは人が減っていく。上手いものだ。

 近くの席にいたってだけで彼の話のオチに使われて、大村くんたちクラスメイトにバカにされたことを俺自身、何も思うところがないわけじゃない。



 ―――それなのに、俺はまた何も言い返すことができなかった。



 実は、今日は高篠さんを初めて俺の家に呼んで、家族の恒例行事であるクリスマスパーティーに招待することになっている。

 だから、大村くんの言うようにクリぼっち、なんてことはないのだ。

 

 ―――しかし、彼のように、恋人と2人きりでイブを過ごすなんて発想が、俺にはなかったのも事実だった。


 俺はこれをきっかけに高篠さんともっと仲良くなりたいと思って素直に楽しみにしていたのだが…



 大村くんの言葉で、俺はやっぱり女の子ウケしない地味なヤツなんだなって再確認してしまう。

 そんな俺だから、高篠さんとの距離が最近開きつつあることも仕方ないのでは、と自分に問いかけて。



 気持ちが沈んでしまうのは、仕方のないことだろう。

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