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自己紹介をした

 僕には母親がいない。

 僕が生まれた時にはもう病気を患っていて、僕が小学校六年生の時くらいに亡くなった。

 良い母親だったと思う。優しくて、僕はきっと母のことが好きだった、のだと思う。

 

 それからは父に育てられてここまでやってきた。

 ただ、昔は少し厳しかった父はすっかり丸くなって、それがいいのかどうかは分からないけれど、僕はそれ以降少しだけ甘やかされるようになった。


 だからこうやって僕の部屋は僕の好きな物で溢れているし、僕は好きに生きていられる。

 父はすごい人だ。感謝しかない。

 大人になったら親孝行をして、今までお世話になったぶんを返したいなと思う。


 あるいは、そう遠くない未来に。

 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 とかそんなことを考えていたのがつい最近のことだった。

 高校生になって少し余裕が生まれたのか、やりたい放題だった中学時代とは違い少しは家のことを僕も何とかしようかとか思っていたのだが、本日父が再婚したという報告を受けた僕は、ちょっとだけ僕のそれなりの覚悟いらなくね?なんて思った。


 いや、もちろん親孝行はするつもりだ!

 いつかきっとする!

 マジで!本当に!


 そのために色々水面下で動いてはいたのだが……。


「はじめまして凛太朗君。私、桃山香織(ももやまかおり)っていいます。あっ、今は安土香織かな?いきなり母親ができて困惑してると思うけど、どうか仲良くしてくれたら嬉しいかな」


 そう言ったのは僕の母親となる人らしい、父の再婚相手であるちょっときつめの目をしたお姉さんだ。

 隣にいる桃山栞奈に負けず劣らずのいい身長をしているし、とってもきれいな人だなぁと素直に思った。


「で、こっちが……」

「桃山……安土栞奈です。よろしくね……えっと、凛太朗君?」


 香織さんに促されて桃や……いや安土か。なれないなこれ。

 安土栞奈が自己紹介をした。

 

 僕はとりあえず深呼吸をして、


「あ、安土凛太朗です。よろしくおねがし、がいします」


 ……いや噛むとか滅茶苦茶恥ずかしいおい。

 こういう時くらい普通に自己紹介させてくれよ。


 二年になった時の初めにした、クラスのみんなに自己紹介するときくらい恥ずかしい……。

 あの時も盛大に詰まり、噛んだりしながらなんとか頑張った。


 くっ、嫌な思い出に心臓が持たない。 

 さっきから張り裂けんばかりの煩さだったのが、さらにどっと変な汗まで出てきやがった!


 僕がそうやって自分と葛藤していると、この場が若干だけ気まずい雰囲気になっていっているのが分かった。

 いや、それもそうか。ぱっと見できる女って感じの母――継母?だが、こんな状況そりゃ誰だって緊張するか。


 はぁ、そう考えれば、少しだけ楽になってきた、かもしれない。

 僕は香織さんの隣にいた父に話しかけた。


「えっと、ご飯はどうする感じなの?」

「ん、あぁ、本当ならもう少し早く家を出て外食が良かったんだが、栞奈ちゃんの仕事が長引いてしまったみたいでな、今日は香織さんが食事を作ってくれるらしいからそれをみんなで囲もう」

「すみません。思った以上に時間がかかってしまって……」

「大丈夫だ栞奈ちゃん。香織さんの料理を食べたいと常々思っていたからな。いい機会だ」

「嬉しいです。今夜は豪華にしますよ武人さん」

「あぁ、楽しみだ」


 安土栞奈は自分のせいで外食が出来なかったと少し落ち込んだ様子を見せたが、父の発言にほっと胸を撫でおろした。

 

 というか、すごいな。この二人僕達息子娘の前でなんかちょっといちゃついた雰囲気を出してきた。

 こんだけいちゃっとしててしかも結婚までしてしまうなんて、どうして僕は父がこうやって再婚するまで何も気づかなかったんだ?

 影も形も、そんな素振りでさえも分からなかった。


 あ、学校から帰ったら僕はずっと部屋にいるからか。

 休日も主に部屋から出てこないし。

 

 ――あれ、僕ってとんだ親不孝者なのでは!?


 すごいなんか、気づかなかったことにしたいなこれ。

 自分がそんな薄情な人間だなんて知りたくなかったわ。


「さて、料理はもうできているから、冷めないうちに食べましょう。皆でね」


 皆、か。

 いつもは二人だったけれど、今日から、今からは四人になる。

 

 不安がないかと聞かれれば少しは……いや嘘。

 それはそれは滅茶苦茶あるが、不安以外があるとすればそう。


 この状況に。

 僕は少しだけ、温かい何かを覚えた。



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