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封印刑の勇者殺し  作者: スズキジン
9/13

9話 救援と決着



遡ること数分、コウジは戦いから離れ、急いでシンの元へと向かっていた。


「早く戻らなければ、ダイト様が...」


仙術は自分にも使用できる為、自身に治癒の術をかけながら走る。


シンの棲家へと差し掛かった時、洞穴の入り口にシンの姿があった。


「おーい、準備は出来てるぞ」


「準備?もう今の状況を理解しておいでですか?」


「まあ大体な。周辺の気を感じ取ればおおよその見当はつく。それより、早く手をよこせ」


シンは手のひらをコウジへと向ける。


「まさか、本当に瞬時に強くなる方法があるんですか?」


コウジは直ぐに手を握った。


「ある。正確には、俺の力をコウジに合うように変換して渡すだけだ」


「な、なんですかこれ」


コウジの肉体に、ものすごい勢いで膨大なエネルギーが送られてくる。


「本人自身の力で己を強くしなければ、本当の強さは手に入らない。これは邪道中の邪道だ」


「しかし、これ程のエネルギー、今までの私とは比べ物にならないほど強くなりそうです」


「まあ、肉体とエネルギーは別物だから、完全に俺の力を使いこなせる訳じゃないが、それでも今よりは格段に強くなるぜ。俺の命、大事に使えよ」


「命...?まさか自らの命と引き換えに...」



「さあ、行ってこい。アイツが殺される前に」


次の瞬間、シンは膝から崩れ落ち、その体からは、生命活動が感じられなくなっていた。


「...託されましたよ」


コウジはすぐにその場を去り、ダイトの元へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あなた、先ほどまでとは様子が違うようですが」


ガルロスは少し焦った表情を浮かべた。


「ええ。この集落にいる英雄の力をお借りしました。それでは参ります」


コウジは身構えると、すぐに攻撃に入る。


「ぐぇ!?」


ガルロスの腹に拳が当たり、硬い鱗に覆われた腹が凹む。


続けて蹴りを入れ、ガルロスは耐えきれず吹き飛ぶ。


「すげぇ、コウジ先生。あのガルロスに最も簡単にダメージを...」


ダイトは離れた場所から戦いを見守る。


ガルロスは、後退りしながらも、なんとか倒れずにいた。


「ぐっ、ここまでやるとは」


ガルロスは吐血しているが、コウジは間髪入れずに攻撃を当て続ける。


「くっそぉ!」


ガルロスはなんとか攻撃の隙間を見つけ、大きく腕を振り、コウジの左腕を切り裂く。


「コウジ先生!」


「ダイト様。ご心配なく」


切り裂かれたはずの左腕には、衣服の裂傷こそあるものの肉体は傷一つ無かった。


「有り得ない!確かに皮膚を切り裂いた感覚がありましたよ!」


ガルロスは納得のいかない様子で激昂する。


「確かに裂かれましたが、裂かれた瞬間から治癒しただけです」


「ば、ばかな。そんなの、不死身と変わらないではないですか」


「今までの私ならこんな芸当は出来なかったでしょうね。治癒の力も、精度も格段に向上したので、そのおかげでかと」


「...本当は逃げるような真似はしたくないのですが、仕方ありません」


ガルロスは後ろへ下がり翼を広げ、空へ逃げようとする。


「おい!待て!」


ダイトは叫ぶが、コウジはただ、空へと飛び上がるガルロスを見上げていた。


「なんだ?うまく飛べな...」


ガルロスは宙から墜落した。


地に伏せたガルロスは、すでに身動きが取れなくなっていた。そんなガルロスにコウジは近づいた。


「貴方の腹に攻撃を当てた際、言うならば毒を仕込ませていただきました。治癒の術の応用で、羅患の術と言います。最初は貴方の強固な鱗に阻まれてこの術も効きませんでしたが、今は違いましたね」


「化け物が!」


ガルロスは言葉遣いを荒げるが体は動かない。


「この術を使うのは武道家として、よろしくない手段でしたが、貴方はすでに多くの人間を殺しています。そんな相手に手段は選びません。

...しかし、貴方は人と戦う際、相手に敬意を払っているように感じました。それを評して、苦しまないようすぐに命を取ります」


コウジは拳を思い切り振り上げる。


「...ふっ、完敗です。コウジと言いましたか。誰が不死の貴方を殺すのか、あの世で見ていますよ」


勢い良くガルロスの体に拳を当てると、その肉体は一瞬にして粉々に砕け散り、血飛沫が舞った。



「コウジ先生!やったな!」


ダイトは駆け寄る。


「ええ。もう辺りに魔物の気配もありませんし、攻めてきた魔物はこの方で最後でしょう。それより、シン様の元へ行きましょう」


「わかった。それと、どうやって強くなったのか、詳しく聞かせてくれないか?」


「ええ。道中話しながら行きましょう。なるべく早く行ってあげたいので」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シンの棲家へと着くと、地面にうつ伏せになっているシンの姿が目に映った。


「おい、シン...」


シンの力無い肉体に触れ、ダイトは目に涙を浮かべる。


「...シン様が亡くなったのは、私のせいでもあります」


コウジは強く拳を握る。


「それは違うぜ。シンが自分で選んだ道だ。先生のせいじゃない」


「まだ死んでないじゃない」


空から女性の声が聞こえてきた。

宙を見上げると、赤く長い髪を靡かせている見慣れた女性がいた。


「ミラージュ!お前、どこ行ってたんだよ?」


「ちょっとした野暮用よ」


ミラージュは空から急降下し、ダイト達の前に降り立つ。


「シン様が死んでいない?」


コウジは目を瞑り、シンに意識を集中し気を感じ取る。


「...! 確かに、肉体の生命活動は止まってますが、体に残されたエネルギーはまだ動いています」


「どういう理屈なんだ?エネルギーが動いているのに体は動かないのか?」


ダイトは状況を理解できず、頭にハテナを浮かべる。


「まあ、なんだっていいじゃない。早く処置しないと生き返れなくなるわよ」


「処置って何すんだよ?」


「今から体を燃やすわ」


「ん?何言ってるんだ?」


ミラージュが真剣な顔で変なことを言うものだから、素っ頓狂な声が出た。


「エネルギーごと体を燃やすの。そうすれば、危機を感じ取ったエネルギーは、どうにかその場から逃げ出そうと体を動かす。かもしれないのよ」


「よく分からんが、まだ助かるかもしれないんだな」


理解はできていないが、ひとまず助かる希望があることにダイトは安堵した。


「しかし、私にエネルギーの大半を渡したといえど、シン様のエネルギーはやわな物ではありません。相当な強い魔法でなければ、危機を感じさせることは出来ないかもしれません」


「ま、私の魔法なら十分でしょ。さっさとやるわよ」


ミラージュはシンに両の掌を向けると、目を閉じて、最大限魔法の威力を高めるために集中した。


「これはすごい。今まで感じたことのない程、大きな魔力を感じます」


「さすがミラの子孫だな」


「ちょっと、うるさいわよ」


ミラージュの周囲には風が流れ始める。


「グロースファイア!」


ミラージュの手のひらから、高密度の炎が発射される。シンの体は、瞬く間に火に包まれた。


「おい、こんなに強い魔法だと、普通にシンの体が燃え尽きるんじゃないのか?」


「その可能性はあるわ。ただ、これ以外方法が無いんだから仕方ないじゃない」


「信じましょう。シン様の鍛えられた肉体を」


争いが去り、鎮まりかえった集落で、ただパチパチと人が焼ける音が響く。


「...もう30秒くらい経ったんじゃないのか?」


炎が高密度すぎて、中の様子は見えない。


「うおおお!死ぬ死ぬ死ぬ!」


突如、炎の中から元気な声が聞こえてきた。


「この声は!」


ダイトは笑みを浮かべる。


「活発な生命活動を感じます!」


コウジも喜びを抑えきれない様子だ。


「なんとか成功したようね」


冷静を装う彼女は、胸を撫で下ろした。


炎の中から、少し焦げついた老人が飛び出してきた。


「マジで死ぬ寸前だったぞ!恩を仇で返しやがって!」


シンはミラージュに向かって激昂する。


「あら。生き返らせたのは恩返しにカウントされないのかしら?」


ミラージュは依然、態度を変えず言葉を返す。


「生きて会えて本当によかったよ。シン。ていうか恩って何したんだ?」


「ああ、ダイト。こいつに空を飛べるようになりたいから力を貸せって言われてな。ヒメル(飛行魔法)が使える様に魔法回路へエネルギーを流してやったんだよ」


「飛行魔法に関する魔法回路が詰まってたみたい。そこにエネルギーを流してもらって、魔力が通るようにしてもらったの」


「そんな方法があったのかよ。じゃあ、俺も同じ方法で使えるようになるのか?」


「いやそれは無理だな。原因が同じとは限らない。それにこいつは元々魔法に長けていたし、現時点でも高等な魔法を扱えた。そこまでの前提条件があってこそ出来た裏技みたいなもんだ。ダイトとは条件が違いすぎるんだよ」


「ちっ、そんな簡単にはいかないか」


「ところで、攻めてきた魔物は倒せたんだよな?話聞かせてくれよ」


シンはコウジの治癒を受けながら、事の顛末を聞いた。

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