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封印刑の勇者殺し  作者: スズキジン
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8話 襲撃と作戦

ダイトは集落の入り口へと続く小道、そして階段を駆けていた。


「くそ、やっぱ遠いな」


道場は峡谷の奥深くに建てられており、集落と離れている。峡谷の底に位置しているため、谷の上部にある集落とは、縦横どちらも距離がある。


「下手に飛ぶこともできないし、このまま走るしかないか」


まだ魔法は使いこなせないものの、ある程度体は動かせるようになった。その為、跳躍していけば走るより時間を短縮できる。


だが、訓練場周辺は手入れが行き届いておらず、道の作りも甘いので、下手に跳んで衝撃を与えれば道が崩れる危険があった。


「壊して行って、着いてみたら一大事でも何でもありませんでしたってなると怖いからなぁ。まあ、コウジ先生が居れば何とかなるだろ」


コウジは治癒の術が最も得意だと話していたが、戦闘に関しても恐らくかなりの達人だろう。それに、現段階ではダイトよりもコウジの方が何倍も強い。


「この音が敵襲の音だとして、もしコウジ先生が先に負けてたら、俺も勝てないんだよなぁ」


そんな最悪の想定をしながらも、最大限のスピードで村の入り口へと走っていた。走っている途中も、相変わらずドン、ドンという音が響き続けていた。


走ること数分、ようやく村の入り口が見えてきた。ここに来るまでに、いくつもの住人の洞穴を見てきたが、誰1人として居る様子がなかった。すでに避難しているのだろう。


「やっぱり魔物か...」


入り口からは4匹の魔物が侵入して来ていた。入口よりも更に先から戦闘音が聞こえているから、全ての魔物を捌ききれず、侵入を許したのかもしれない。


「はあ、走ってだいぶ消耗してるけど、こいつらくらいなら俺1人でも」


ダイトは背中に掛かった鞘から剣を抜く。

この剣はこの村で貰ったものだ。備品として何本か置いてあったが、剣士が居ないため、持ち腐れをしていたらしい。


「ありがたく、使わせて貰うぜ」


侵入して来た魔物は、同じく剣を持ったゴブリンだ。人よりも小さいが、力は人より上で、武器を持っている為、油断できない相手だ。


ダイトは足に力を溜め、ゴブリンに向かって瞬発的に飛ぶ。


「シャアァァァ!」


ゴブリンはこちらに気付き、体を構える。


「遅いっ」


突進したまま、剣を横に振り抜き、ゴブリンの体を一刀両断する。


「よし、封印から出た当初とは比べものにならないな」


自分のレベルアップを感じつつ、その場で剣を振り、剣に付いた血を振り払う。


「キシャアッッ!!」


残る3匹のゴブリンが同時に向かってくる。


ダイトは先ほどと同じく、ゴブリンに向けて跳び、一匹を倒す。が、残るゴブリンから剣を振り下ろされる。


一匹の攻撃を剣で受け止めつつ、もう一匹の攻撃は体を避けて回避する。


自分の位置をゴブリン二匹が直線上に並ぶ場所へと変え、足に力を溜める。


先程よりも強く地面を蹴り上げ、横一直線に跳び、2体同時に両断する。


「やっぱ複数相手だと手間取るな」


4匹の無惨な死体が地面に倒れている。だが、どの個体も苦痛な表情はしていない。それはダイトの攻撃が、相手の命を一瞬のうちに絶っているからである。


「燃やしてやりたいけど、後回しにさせてもらうな」


以前から、ダイトは魔物を倒した後は火の魔法を使い、遺体を燃やしていた。その行為は相手の命に敬意を払うという、ダイトの信条からきている。


だが、今のダイトは魔法を使いこなせる訳ではなく、コウジの元へと急がなければならない。


「よし、早くいこう」


コウジがいるであろう先へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


集落の入り口から少し離れた場所に、2つの影があった。一つはコウジである。


「コウジ先生!」


周囲には、白い胴着を来た多くの人間が倒れており、それと同時におびただしい数の魔物の死体も転がっていた。


「...ダイト様、駆けつけて下さったのは嬉しいのですが、ここはお逃げになった方が懸命です」



凛とした表情と姿勢を崩さないコウジだが、道着は破れ、傷口からは血が滲んでいる。


「あの魔物、相当なやり手です。恐らく魔王軍の精鋭...」


コウジは目線を魔物へと移す。ダイトも追って魔物を視認した。


「あいつは...ガルーダ!?」


鳥人間の様な見た目をしており、美しい羽、鋭いくちばしを持っている。コウジとは反対に多少の傷は負っているが、どれも些細なものばかりだ。


「あいつは昔、俺たちが倒したはずだ」


ガルーダはかなりの力と知恵を持つ魔物で、当時の魔王軍において偵察部隊長をしていた。魔王城へと攻め入る前に戦った相手だ。


「おや、我が父を存じているのですか?我は魔王軍偵察部隊長、ガルロスと言います」


魔物は流暢に話す。自分の勝ちを確信しているからこそ、話す余裕があるのだろう。


「あいつの子孫かよ。まずいな、ガルーダと同等の実力があるとすれば、今の俺じゃ勝ち目はない」


「私が時間を稼ぎます。どうかお逃げ下さい」


コウジが再度、戦闘に向け体を構える。


「...いや、逃げたところでコイツの速さなら追いつかれてころされるのがオチだ。もう倒すしか生き残る道はない」


「ですが正直なところ、2人がかりでも倒せるとは思いませんが...」


「ああ。だからシンのところに行って、力を借りるんだ。あいつ自身は戦えないと思うが、パワーアップの術を隠し持ってるかも」


「もしそんな術があったとしても、それが一瞬のうちに完了する代物でない可能性もありますよ」


「もう、それに賭けるしか無いと思う」


ダイトは覚悟を決めた目でコウジに言う。


「分かりました。ダイト様が戻ってくるまで耐え忍ぶとしましょう」


「ん?いやいや、逆だよ。コウジ先生がパワーアップして戻ってくるの」


「私が?」


コウジはキョトンとした顔をする。


「今の俺よりも強いコウジ先生が力を上げた方がまだ勝ち目があるだろ。俺、技術はあるから何とか耐え続けてみせるよ」


「...わかりました。ただ、シン様の場所まで往復するだけでも5分はかかります」


「最低5分以上耐えればいいんだな。了解」


「...ご武運を」


コウジは集落の中へと戻っていった。


「これだけ長い間話しておいて、怪我人を逃すだけとは待ち損ですねぇ」


ガルロスはがっかりした表情を浮かべた。


「何だよ。2人がかりでお前を倒す作戦でも練ってると思ったか?」


「私は、種族問わず私に全力で向かってくる者が好きなんです。その人数は多ければ多いほどイイ」


「お前は根っからの戦闘狂だな」


「ふふ。さて、そろそろかかって来なさい。いつまでも待つほどお人好しじゃないですよ。いや、魔物好しでしたかね」


ガルロスは翼と両腕を広げ、こちらを誘う。


「分かったよガルロス。泣きべそかくなよ!」


ダイトは素早くガルロスに向けて斬りかかる。


ガルロスに向け剣を振るうが、難なく攻撃をかわされてしまう。


「その程度では当たりませんよっ!」


思い切り蹴飛ばされ、岩に衝突した。


「ぐっ」


ダイトは倒れたが、ゆっくり立ち上がる。


ダイトには、作戦が二つあった。一つはコウジが力を上げて戻ってくること。二つ目は大きな音や煙を上げてミラージュに戻ってきてもらうことである。


「俺を舐めてくれてるお陰で、時間稼ぎしやすいな」


ダイトは魔法発動の準備をするため、先ほどから左手に魔力を溜め続けていた。数分魔力を貯めれば、戦闘中も一度くらいは使える。コウジが戻るまでの時間稼ぎをしつつ、魔力を溜めていた。


「てか、ミラージュのやつ本当にどこ行ったんだよ」


「おや?何か魔力を溜めてますね。私の目からはバレバレですよ」


「ははっ!もう少ししたら喰らわせてやるよ」


ダイトは再び攻撃に入る。複数の剣技を喰らわせるが、どれも魔物の持つ狂人な爪に防がれてしまう。


「おお、動きが良くなりましたよ。その調子です」


「うるせぇ、教官気取りかよ」


ダイトは今、安堵していた。ガルロスが本気を出していないにしても、ガルーダよりは弱いことに気づいたのである。それでも格上の存在には違いないが。


「ガラ空きですよ!」


再び、蹴りを入れようとするガルロス。しかし今回の蹴りは剣で防いでいた。


「そう何回もやられねぇよ!」


ダイトはカウンターで翼を切りつけた。


「飛べない様にするつもりですか?大丈夫。あなた相手に空中戦はしません」


空中を飛ぶ魔法が使えない今、ガルロスに飛ばれれば対処法がない。


「ありがたいね」


しかし、ダイトはガルロスを空中へと蹴り上げた。


「おっと、私を飛ばすとは非凡な力を持ってますね」


ダイトも脚力を使って、地を蹴り宙へと飛ぶ。


ダイトがガルロスと同じ位置にたどり着いた時。


「ファイアァ!」


ダイトが左手を上にかざすと、地面から直径2mほどの火柱が、地面から立ち昇った。


しかし、その火柱はガルロスとダイト2人を飲み込んだ。


「炎魔法ですか!なかなかの威力ですが、効くほどのものじゃないですよ!」


ガルロスは目を瞑りながら声を上げる。


しかし、火柱が解け、ガルロスが目を開けると、ダイトは姿を消していた。


「...?自滅覚悟の魔法でしたか?しかし、あの程度で消滅する程弱くはないでしょう」


「当たり前だろ!」


どこからか、ダイトの声が聞こえた。


「どこに隠れました!出てきなさい!」


その時、ガルロスの真上から、剣の一撃が放たれた。


「ぐお!?」


ダイトの一撃は、先程とは比べ物にならないほどの重みを得て、ガルロスの頭を打った。


ガルロスとダイトはそのまま地上へと墜落した。


「がはっ、あなた、先の炎魔法は私へ向けたものじゃないですね?」


ガルロスは立てずにいるが、ダイトはすぐに立ち上がった。


「あれは俺を更に上空へと送る為のものだ」


先の火柱は、円形であったがダイトに当たる部分、つまり半円のみ更に上空へと伸び、もう半円はガルロスの少し上で止まっていた。


「半円づつ、魔法の威力を変えたというのですか」


ダイトに当たる部分は火の力を弱め、立ち昇る勢いのみを強くしていた。それにより、火柱に乗ってダイトはガルロスよりも数十メートル上に昇ることができた。


「普通の剣技じゃ傷一つ負わせられなかったからな。墜落する時の加速を利用させてもらった」


「くく、なかなかこれは応えましたよ」


ガルロスは徐々に立ちあがろうとしていた。


「ま、衝撃が強くなっただけで、斬ることは出来なかった訳だが」


地上に降りた今、ダイトがガルロスを追撃しようと、攻撃が効くことはない。ただガルロスが立ち上がるのを見守るしかないのだ。


「まさかアナタにこんなにもダメージ与えられるなんてね。賞賛に値しますよ」


「そりゃどうも。今回限りの一発技だけどな」


流れまでセットしたこの技でガルロスを倒せなかった時点で、ダイトがガルロスを倒す道は絶たれたと言える。


「まあまあ楽しめましたよ」


ガルロスは完全に立ち上がり、遊ぶことをやめダイトに明確な殺意を向ける。


「ああ。俺も修行後に実践を積むことが出来て良かったよ」


「アナタは負けて、これから殺されるのですよ?何故そんなに余裕そうなんですか?」


「俺は負けた。俺はな。」


ダイトがそう言った時、2人の後ろから声が聞こえた。


「お待たせしました!」


道着は破れたままだが、見違える程に強者のオーラを纏ったコウジがそこには居た。


「さっきの...これが目的でしたか」


ガルロスはダイトを睨む。


「おかえり先生。その様子だと俺の目論見は成功した様だな」


「ええ。一時的なものですが、これで十分に戦えます。後は任せてください」


コウジの顔は絶対に勝てる、という自信に溢れていた。


ダイトは戦いの邪魔にならないよう、素早くその場を離れた。

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