3話 旅の始まり
俺はミラージュと別れ、自室に入った。
ベッドとタンス、テーブルに椅子と一般的な宿屋の部屋だ。
特にすることも無いので俺はベッドに横になって、頭を整理することにした。
「魔王討伐か...」
俺達が魔王と戦った時は、かなりの苦戦を強いられた。いくら魔王といえど、5人の勇者パーティを相手に1人で迎え撃つことはせず、配下を2人連れていた。
魔王は勇者アランと俺。配下2人はニーナ、ミラージュ、シンの3人と分かれて戦った。
俺たち2人よりも魔王の方が強く、苦戦を強いられていたが、ニーナ達が配下を倒し、合流できたお陰で何とか勝つ事ができた。魔王の配下が言うには、過去最高の力を持つ魔王だったらしい。誰か1人でも欠けていれば、負けたのはこちら側だっただろう。
客観的に見ても、当時の俺が強いことは明白だ。だが、1人で魔王に太刀打ち出来るほどじゃない。
今の魔王の強さが未知数だが、俺が1人居たところで勝てるとは思えない。勇者一行でも負けるくらいなのだから。
そもそも、俺は本当に世界を救う人間なのだろうか。前に賢者が言っていたように、世界の敵である可能性も捨てきれない。勿論、俺の意識は世界を陥れようなんて考えは全く無い。ただ、アランを刺し殺した勇者殺しの事件。あの件の詳細が解明されないと、俺自身への不信感は拭えない。
「まずは、俺の身の潔白を証明するのが先だな...」
魔王に勝てるかは別として、世界を救うに相応しい人間なのか、自分自身を確かめる必要がある。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
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翌朝、目が覚めたので村の広場に向かった。
「あら、丁度よかった。今から食料の配給が始まるところよ。アンタも並びなさい」
広場にはミラージュ、そして村人達が集まっていた。30人は居るだろうか。
「なあ、自給自足で生活してるんだろ?俺たちが貰っていいものなのか?」
「いいのよ。この近辺の魔物倒したし。村長にも許可もらってるから」
貰って当たり前みたいな態度をしているが、ミラージュは最後尾に並んで、余った食料を貰おうとしている。他人を気遣える、根は優しい人間なのだ。
食料を貰い、薬草や装備品を購入してから俺たちは一度宿屋に戻った。
俺が部屋に入って数分経つと、ノック音もせずに扉が開いた。
「ほら、さっさと準備しなさい。次の街に向けて出発するわよ」
「ミラージュは支度が早いな。先祖のミラはいつも支度が遅かったんだぞ」
「...あら。私の偉大な先祖を馬鹿にしているのかしら」
「いや、懐かしいなと思って。まあ半分は馬鹿にしているが」
「いつか天罰が下るわよ」
「あいつは黒魔術使いだから、天罰ってより呪いだな」
そんなことを話しながら、俺たちは村を出た。
辺りは魔物の気配が全くせず、体が本調子じゃない俺は少し安堵した。
「で、これからどうするんだ?」
「ひとまず、仲間を増やすのとアンタの力を取り戻すのが最優先ね。仙人峡に向かいましょう」
「仙人挟はシンの故郷だったな。確かにあそこは武術の達人が多いから、仲間探しも出来るし、訓練もできそうだ」
「その通りよ。ただ、仙人挟に行くのはある目的があるからなの」
「目的って仲間と俺の訓練以外にもか?」
「シンに会って色々と情報を聞くの」
「シン?生きてるのか?いや、いくら何でも亡くなってるだろ。俺が封印されてから200年近く経ってるんだぞ」
俺が封印された時にシンは24歳だったはずだ。あいつは人間だから、寿命はとっくに迎えてるはずだ。
「私も会ったことがある訳じゃない。ただ、仙人の力を習得した彼は、人間の寿命を超えて仙人に近い存在になったって聞いたわ」
「確かに、前行った時に元武術の達人っていう120歳のお爺さんは居たな。会えたら嬉しいけど、確実な情報じゃないなら期待はしないでおくよ」
「そうね。信じられるのは自分の目で見たものだけだもの」
そう言う彼女の目には強い意志を感じた。
一年ぶりの更新です。
少し進めていきたいと思います。