表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛さない約束でしたが  作者: 成瀬
4/6

愛を願ってしまった日

 結婚式の翌朝、カイロスは変わりなく王城へ出勤したが、セレーネは違った。


「奥様‥‥身体は起こせますか?」

「お医者様をお呼びしますか?」

「いえ‥‥‥大丈夫よ‥‥しばらく、このままにしておいてもらえるかしら‥‥」


 ベッドから起き上がれなかったのである。リリーとエリカによって身なりを整えてもらうと、上半身を起こした状態のまま、ベッドで昼食を摂ることになった。

 全身が殴られたように痛い。特に腰が。とはセレーネの心の声である。

 

 夕方にはようやくベッドから出て、お風呂に入れてもらい、髪や肌を整えて着替えたところで、カイロスが帰って来た。セレーネはエリカとリリーに支えられながら、エントランスへの階段を下りる。が、下りきる前にカイロスが玄関を跨いだ。


「‥‥お、お帰りなさいませ、カイロス様‥」

「セレーネ、何があった‥!?」


 明からに満身創痍なセレーネに、カイロスは階段を駆け上がった。カイロスが家を出るまでにセレーネは起きてこれなかったので、彼女の状態を知らないカイロスである。結婚一日目にして何があったのだと、焦って駆け寄り、セレーネの手を取る。


「いえ、あの‥‥」


 昨夜のせいです。とは言えないセレーネが困ったように言い(よど)むと、執事のエリックがわざとらしく咳き込んた。


「旦那様」

「はやく言えエリック!」

「旦那様と奥様では体格も、体力も異なるのです。」

「それがなん‥‥‥!」


 思い当たったのかカイロスはセレーネを凝視すると、ひょいと自分の片腕に座らせるようにセレーネを抱き上げた。


「カ、カイロス様?」

「‥‥‥‥」


 こんなに軽々と片手に乗せられるようなセレーネに、大分無理をさせてしまったのではないかとカイロスは自戒する。ただしその表情がかなり凶悪であったため、セレーネは何か拙いことをしたかと謝罪を口にした。


「あ、の、カイロス様?私何かお気に(さわ)るようなことを‥申し訳ございません‥‥」

「なぜ君が謝る。悪いのは俺の方だ。」

「カイロス様が?」

「ああ。君に無理をさせたようだ。夕飯は寝室でとろう。」


 カイロスはエリックに目配せすると、セレーネを抱き上げたまま歩き出した。セレーネが焦って「歩けます」というが「落とさないから乗っていろ」とカイロスは有無を言わさない。掴めるところのない、セレーネはどうしようもなく、ぴとっとカイロスにくっつくしかなかった。


「すまなかった。こんなに身体に(さわ)ったとは。」

「いえ、私の体力が無いのがいけないのです‥‥」

「では許してくれると?」

「許すだなんてそんな‥‥私は婚約した時からカイロス様のものです。」

「‥さすがに今日はしないが、また君に触れてもいいのだな?」

「もちろん、です‥」


 とうとうセレーネが真っ赤になって俯いた。カイロスはほっと息をつくと、セレーネの額にキスをして、その日は並んで寝るだけに留めた。


 それから、カイロスは帰宅するとセレーネを抱き上げるようになった。最初は少しばかりの抗議をしていたセレーネだが、カイロスが全く動じないのですぐに折れた。


 会話が増え、セレーネは良く笑うようになっていった。公爵夫人として、騎士団関係者のご婦人方を招いたお茶会を皮切りに、セレーネは徐々に社交界へ顔を出すようになっていった。


 カイロスは寝る前には必ず、欲しいものはないか、不足しているものはないかと聞くが、セレーネが何かをねだる事は無かった。最初こそ、カイロスは理由を付けてセレーネにドレスや宝石を贈っていたが、結婚して一年も経つと、夫が妻へ贈り物をするのに理由などいらない!と開き直った。



 その頃には、カイロスは自分の気持ちに気付いていた。セレーネを見ると抱きしめたくなり、セレーネに触れると胸が苦しくなる。穏やかに細められる星空の瞳を見ると、溢れ出て止まらないこの感情は、愛であると気付いていたが、自分から言い出した「愛は抱かぬように」という言葉が枷になる。


 「承知いたしました」と返した彼女の声も良く覚えていた。

 彼女がどんなに自分に笑いかけても、きっと彼女は自分を愛しはしない。その現実が、苦しくて苦しくて、仕方が無かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ