8.めでたしめでたし
数日後。
ロイは職業斡旋所にいた。
窓口への列に並び、職員から紹介状をもらってその場を離れる。
「ロイさん」
子供の声がした。
ロイはゆっくりと振り向く。予想通りの人物が立っていた。
ロイは口元だけで笑う。
「お前か。何か用か? 金ならあいつが持ってるよ」
ナイルは厳しい目でロイを見る。
「報酬はもらいました。ロイさんに聞きたいことがあるんです」
ロイは一つ息を吐き、歩き出した。ナイルがついてくる。
雑踏を進みながら、ナイルが声をひそめて問いかける。
「……石を、どうしたんですか?」
ロイはちいさく笑った。歩みを止めないまま答える。
「ここにはない」
ナイルは渋面を作った。
魔石。あの小屋の青年の生業は魔石の売買だった。どこかから採掘し、加工し、売る。そこから一つ、ロイは持ち出していた。
アランと青年が話している間にかすめとることは、ロイには容易いことだった。
だが、魔石の移動を感知する仕組みがあったのは、予想外だった。
それをごまかせたのは、ナイルのお守りのおかげである。
とはいえ、よくよく確かめれば、魔石の数が足りないことはわかるはず。ロイはその前にと、早々に魔石を売り払っていた。
「なんでそんな……」
ナイルが怒りと困惑が混じった目でロイを見る。
ロイはそれをさらりと受け流す。
「俺はそうやって生きてるからな」
ナイルは泣きそうな顔でうつむいた。
ロイは横目でナイルを見る。
賢く、美しい、選ばれた子供。
役場にロイのことを訴えるのは簡単だ。けれど彼女はそうしないだろう。アランのために。
ナイルは顔を上げた。まっすぐにロイの目を見る。
「もし、今後もアランさんと関わるのなら、こんなことはやめてください」
「約束できないよ。嫌ならあいつの方が断ればいい」
「アランさんは、あなたを信用してます!」
高い声が雑踏に響いた。通行人の何人かが振り向いたことに気付き、ナイルはトーンを落とした。
「なら、あなたが離れてください」
「まぁ、それでもいいけどね。でもあのお人好しさは捨てがたいんだよなあ」
今回、青年がロイ達を解放したのは、アランの人柄も大きな要因だ。ロイ一人ならば、懐に隠した魔石は暴かれていたかもしれない。
ナイルはまたも渋面を作る。ロイは笑った。ポンポンとナイルの頭をなでる。
「お前は、アランとは全然違うな」
ナイルが何か言おうと口を開くと、別の声が遮った。明るく、よくひびく声。
「あっれーロイとナイル! 珍しい〜二人?」
いつのまにか、アランの働いている店まで来ていたようだ。
アランが麻袋を担ぎながら笑っている。
ロイは無表情をつくり、片手を軽くあげる。
くい、と後ろに引っ張られ、立ち止まった。ナイルの手が、ロイの服を引っ張っていた。
「……それなら、僕が見張ります。覚悟しといて下さい」
ロイは薄く笑う。
「ご勝手に。ゴーダの娘」
ナイルの手が緩むのと同時に、ロイは歩き出しアランに近づいた。
「ロイは仕事?」
「これからな。忙しいから呼び止めんな」
「え〜? すぐそこにいるのに声かけない方が感じ悪くない?」
アランはのんびりと答える。
ロイは適当にあしらうと、歩き出した。
今日は久しぶりに本職での仕事だ。待っているだろう。
後ろから声がした。
「ロイ! がんばってねー」
のんきな言葉に笑みがこぼれる。
振り向かず、ロイは歩き続けた。