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6.対決

 来た時と同様、戻るのも一瞬だった。

 目をつむってあけたら草むらの中だった、という印象だ。

 

 木の影から周りをうかがう。

 ロイ達も狼も見当たらない。銃が転がっているので、場所は合っている。

 アランは草むらから飛び出し、銃を拾ってかまえた。そのまま周囲をぐるりと見回す。

(いない……)

 物音も鳴き声もせず、静かだ。

(逃げたかな……)

 

 元々、狼が人を襲うことはあまりない。

 加えてこちらは三人であったし、アランが威嚇射撃をしたことで、狼も分が悪いと思っていてもおかしくない。

「いないのか?」

 低い声がし、アランは彼がいることを思い出した。

「そうですね。逃げたかもしれません。仲間を捜してきます」

 大柄の彼にそう言い、歩き出しかけて、慌てて戻った。

「ありがとうございました! またあらためてお礼はさせてもらいます」

「いや。礼などいらない。むしろこちらが何かしなければならないくらいだ」

 生真面目に答える彼に、アランは恐縮してしまう。

 ナイルのことに関しては、むしろ世話になっているくらいのものだ。

「今回も助けてもらいましたし充分です。よければ、これからもナイルと時々仕事をしたいです。いいですか?」

 彼はうっすら笑って、もちろん、と言った。


「……おい」

 そこへ、不機嫌そうな声がした。

「ロイ!」

「しっ! アホ、声出すなよっ」

 しゃがんだ姿勢で木に隠れながら、ロイが小声で言い放つ。目線で周囲をうかがっている。

「まだ近くにいるの? あの人は?」

「……主語がわかんねぇけど、あの小屋のおやじなら戻った。狼はたぶんまだいる……」

 そこまで言って、ロイはさっと草むらにもぐった。

 

 同時に、前方から草の動く音がした。

 アランは下げていた銃を構える。少し離れた場所に狼が現れた。

 引き金をひく。銃声が響き、狼の前足付近に着弾する。

 狼はひるみ、反対側の草むらへ戻った。

 アランはほっと息をつく。


「油断すんな! また戻ってくる!」

 小声だが強い口調でロイが告げてくる

「大丈夫だよー。一度銃でおどせば、めったに戻ってこないよ」

「来るんだよ。おかしいんだよアイツ」

 そう言ったロイは、アランの同行者に気付いた。

「……誰だ?」

「ああ! そうそう。この人、ナイルのお父さんでね」

「そうだ! あのガキどうした!?」

「ガキって! ひどくない? お父さんの前で」

「んなこたどーでもいいんだよっ」

「話し中申しわけないが」

 よく通る低音が、アランとナイルを黙らせた。

 父親が無表情で告げる。

「彼の言う通り、狼は戻ってくる。魔術の干渉を受けているようだ」

 

 アランは魔術にうといが、彼の冷静さが逆に事態の真剣さを伝えてきた。

 ロイも黙って彼を見ている。

「ロイ……だったか? 君は、ナイルからもらったお守りはどうした?」

「……割れた」

「そうか。役に立ったんだな」

「えっ何? ロイ、ナイルがくれたお守り割っちゃったの? もしかして、狼に投げつけたってこと!?」

「うっせぇなあああ。黙ってろよお人好し!」

 本気のイラだちを感じ、アランは口をつぐんだ。

 父親は冷静な態度で話を続ける。

「君達の持ってる魔石を狙ってきてるんだろう。どこかに置いて逃げた方がいいかもしれない」

 アランは胸元に目をやった。服の下にあるナイルからの贈りもの。

(これが……魔石だっていうこと?)

 本物の護りをくれたということだろうか。

 

 アランは首から紐をはずし、お守りを手のひらに乗せた。ただ石の感触があるだけのそれは、魔力があるのかどうかアランにはわからない。

(でも、ナイルがくれたものだ)

 少しずれた縫い目をなでながら、アランは迷う。


「ちょっと待った。俺たちは良くても、あのおっさんはどうなる?」

 ロイの言葉に、アランは小屋の青年を思い出す。アラン達がいなくなれば、小屋へ向かうのではないか。

「あんた、その銃で狼しとめられないか?」

 アランはすぐさま首を振った。

「それはだめだ! 侵入者は、オレ達の方なんだから」

「じゃあほっとくか?」

 アランは押し黙る。銃を持つ手が重く感じる。


「なら、倒れない程度に打てばいい。私が弾に魔力を込めよう」

 彼があっさりと言った。

 アランは意味が分からずきょとんとする。

 ロイが口を開いた。

「それが当たれば、なんとかなるってことか?」

「魔力同士が干渉して中和されるはずだ」

「そもそも、あんたが直接なんとかできないのか?」

「今の私には魔力がほとんどない。弾に込めるので精一杯だ」

 

 二人のやり取りを、アランは必死に整理する。

(えーと……あの狼は何だか知らないけど、魔力の干渉を受けてる。で、魔石に反応して追ってくる……。魔石を捨てて逃げるか、狼をしとめるかで……)

 ふと視線を感じ、顔を上げる。

 二人がこちらを見ていた。一人は呆れたように、もう一人は無表情で。

「おいお人好し。聞いてたか?」

「きっ聞いてたよ!」

「そりゃけっこう」

 ロイがアランの目の前まで近づいてくる。まっすぐに見て言った。

「どうする?」


 しばらく後。

 アラン達は草むらに見をひそめていた。

 

 大柄の彼は、少し離れた大木の影にひそみ、アランは銃をかまえて道を注視している。

 道の真ん中にアランのお守りが置かれていた。

 アランの背後には、ロイがナイフを持って反対側を警戒している。

 念のため、ロイのナイフにも魔力が込められていた。


「おいお人好し。しっぽに当てられねぇようなら、ためらわずに他の所当てろよ。俺はかすり傷ひとつ負いたくない」

「わかった。ありがとう」

「何でそこで礼を言うのか、あんたの神経がわかんねーよ」

 そこで、会話が途切れた。

 

 辺りは静かで、草が風にかすかに揺れる音だけが耳に届く。

 アランは自分の心臓の音が、早鐘を打っているようだと感じた。ゆっくりと深呼吸する。

 残りの弾は二発。予備はない。それでなんとかできなければ、とにかく逃げる。他の二人と、そういう話になっている。


(なんか、大変なことになっちゃったなあ……)

 本来なら、荷物を届けてサインをもらって、町に戻る単純な仕事だったはずだ。

 それが、届け先でイザコザがあり、狼におそわれ、なぜかナイルが現れて、今はナイルの父親を巻き込んで狼退治。

(ナイルは目を覚ましたかな)

 金髪美少年の兄、見たことのない場所、ナイルの努力、お守りの魔石……。


「そういえば、なくなったって言ってた魔石はどうなったの?」

 ロイが片目分だけ振り返り、すぐ背中を向けた。

「おっさんの勘違いだ。俺達の持ってた魔石が反応したんだろう」

 そうか、とつぶやき、再び沈黙がおとずれる。

 周りの気配を気にしながらも、緊張感は徐々に薄れてくる。


「来た」

 小さいが良く通る、父親の声が聞こえた。

 お守りからはだいぶ離れた木の影から、狼がゆっくりと出てきた。お守りの方向へ近づいてくる。

 アランは音を立てないよう、銃をかまえる。 

 狼を狙い、気配をうかがう。

 この位置ではまだしっぽを狙えない。しっぽが一番ダメージが少ないと見込み、ここを狙うことにしたのだ。

 

 狼はこちらには気付かず、まっすぐにお守りを見ている。そちらを向いていれば、アラン達とは視線が合わない。横からしっぽを狙える。

(そのまま、まっすぐまっすぐ……)

 祈るように心中で唱える。

 狼はゆっくりと、お守りに吸い寄せられるように歩き出した。

 アランは銃に指をかけ、狼のしっぽへ銃口を向けた。


(ここだ!)

 ぐっと引き金をひいた。

 と同時に、しっぽが残像を残して消えるのがわかった。

 気配を感じ、上を見る。

 跳躍。

 狼は大きくジャンプし、頭上を飛んでいた————アランの背後へ向けて。

 無意識に銃口を振り上げ、アランは引き金をひいた。

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