#8
翌朝、僕達は昨日の食料のお礼を言う為にベッコ村へと向かった。
村の中に入ると10数人の村人が集まって慌ただしく話し込んでいる。数人の村人は村の中を走り回っている。
「おはようございます」
「おはようっす」
「あーおはよう。おや見かけない子達だね」
杖を突いたお爺さんが挨拶を返してきた。
「俺はクデロペ、俺らはあそこの山で冒険者の修業中」
「ほう、冒険者の修業してるのか凄いのぅ」
「僕はアマネです。ところで皆さん何か有ったんですか?」
「それがな、昨晩この村に泥棒か盗賊が入ったみたいなんじゃよ、明後日の祭り用に倉庫で保管しておいた食料と酒が倉庫から無くなってのぅ」
「えっ?」
「はい?」
泥棒? 盗賊? 何を言っているのだろう? 僕達が貰って行ったのに。
「あーそれはですね、モグモグ……」
クデロペが僕の口を塞ぎ話を遮る。
「アマネ少し黙っていろ」
「えーっと、この中に村長のヨシダさんは居る?」
「儂がこの村の村長のペントじゃ。ヨシダなんて名では無いぞ」
「ん?」
「まじかぁ」
目の前にいる杖を突いたお爺さんが村長さんで名前はペントさん? ヨシダさんじゃなくて? どういう事?
「じゃ、じゃあさ、この中でカースドって人、知ってる? 顔はいつもニヤケてて黒髪を後ろで束ねて体格は細マッチョ」
集まっている村人を見渡す。
「いや、そんな奴知らんなぁ」
村人全員が口を揃えて師匠を知らないと断言した。これは多分いや間違いなく騙された。
「そうか君らは人探しをしとったんか、しかしこの村にはヨシダとやらもカースドとやらはおらんのう」
「そ、そうみたいだな他を探すよ。それじゃ」
「ちょ、クデロペ」
クデロペは僕の襟首を掴み急いでベッコ村を出てる。
「騙されたね」
「ああ、……あのクソ師匠、やってくれたな」
全速力で走り、野営地まで戻った。
バンッ!
「おいクソ師匠起きろ」
クデロペは勢い良く扉を開いて寝ている師匠の襟を掴みガクン、ガクン揺らす。
「師匠起きてください」
「うん? 2人共おはよー」
目を擦りながら適当に挨拶をしてくる。
「おはようじゃねーんだよ。クソ師匠、なに弟子に盗みをさせてんだよ、お前はアホか、アホなのかぁ」
クデロペは語気を強めて師匠に詰め寄り、更に手に力を込めて強く師匠をガックン、ガックン揺さぶる。
「えへっ、バレた」
師匠は悪びれもせずにベロを出して照れたように笑っている。
「バレたじゃないですよ師匠。クデロペどうしましょう?」
「よしクソ師匠を簀巻きにして村に突き出そう、それしかないだろ」
クデロペは師匠が逃げられない様に全身をロープでグルグル巻きにしていく。
「おーいクデロペ君、首までロープが架かって苦しいんだけど」
師匠はそう言うけどニコニコしていて全然苦しそうではない。何故なの?
「はっはっは。2人共何か忘れてなーい? 村から食料とお酒を持って来たのは俺様では無い君達だ、それに調理をしたのも君達、かたや俺様は出された料理を食べただけ、捕まるのは君達じゃない?」
うわーあくどい笑顔になってます。
「それは師匠が指示したからじゃないですか。僕達は知らなかったんですよ」
「アマネ1つ良い事を教えてあげよう……人を無闇に信じるなー何が起こるかわからんぞーだっはっはっはっー」
師匠は簀巻きの状態でキリッと顔を決めそう話す。人を信じるなって普通、弟子は師匠を信じますよ。あーこの人、普通の師匠じゃなかった。
「普通、師匠の言う事は信じるだろうが!」
「パンパカパーン。そこで2人に提案がありまーす。この事は3人の胸に大事に、大切にしまっておこうよ」
「お願いですから、いい思い出話しみたいに言わないで下さい」
「じゃぁさ、ここは考え方を変えて、報酬を先に貰ったと言う事でどうだろう?」
「は?報酬を先にある貰う?」
ふっふっふ、よし食いついたぞ、これまでいくつもの難しい話を纏めて来た交渉人カースド様の出番だ。
カースドの交渉とは思い付きで行き当たりばったりで、適当に嘘を吐いて丸め込もうとするだけだ。上手くいけば相手を騙せ、上手くいかなくても力で解決する方法で本来交渉力は持っていが本人は交渉人気取りになれるのだ。
「君達はいずれ冒険者になる。ベッコ村が何かしらの危機が迫るとすると村は冒険者組合に依頼を出すよね、そう! その依頼を君達がその依頼を引受けるのだ。報酬は難易度にもよるが簡単な場合、今回の食料と相殺してタダで受ければ問題なしなのだ。だっはっはっはっはー」
簀巻きの師匠が声を大きくして提案してきたけど……
「違う気がするけど、それで良いのかな?クデロペどう思う?」
「あっ1つ言い忘れたけど、犯罪者は冒険者登録出来ないよー」
そんな規定は無いと思うけど2人は知らないだろ。ププー
「そうなのか、アマネここは師匠の提案に乗って報酬を先に貰ったって事で行こう。いずれあの村を救えば良いんだ」
「う、うん。でもベッコ村が何の問題も発生せず依頼を出さなかったら?」
「それは……先の話だ今は考えないでおこう」
勝った。完全勝利です。やっぱり俺様は凄い。どんな問題でも解決する俺様の名は敏腕交渉人カースドです。
カースドは頭の中でアホな自己紹介をしていた。
なんとなく騙されてる様な気がするが結論が出たので、僕達は朝食にした。
「ご馳走様でした。おい、クデロペなんだい、さっきの食事の量は。少なすぎるだろーが」
クデロペは今ある食料を計算して料理を作ったから量は多くない。
「いつまでここに居るか分からんし、もうベッコ村か食料は貰えないんだぞ、狩もどれだけ取れるか分からんし、少しずつ食べるしか無いだろ」
うんうん。クデロペの意見が正しいと僕も思う。
「うーんどうしよう。あっそうだアマネ、家に帰ってたっぷりと食料貰って来て。それと酒も忘れるな。って事でクデロペ残りの食料を全部使ってもう一度朝食だ」
えー家まで食料を取りに帰るの? でも師匠が言うからやらないわけには行かないしね。修業がしたいのに。
「おい師匠、俺は食後どうしたら良いんだ?」
「うーんどうしよう? 1人で穴掘る?」
「いや、1人は無理だろ。そうだアマネ1人だと危ないから俺もついて行くわ」
「まぁそれで良いか」
師匠の適当な答えを聞いたクデロペは二回目の朝食を作り、3人で2回目の朝食を食べた。