#7
翌日、また木を切り倒し、切り株を引き抜いていく。
「この辺りで良いんじゃね、ちょうど開けてるし」
「そうだね」
開けた場所を整地して野営地とした。馬車を野営地まで運び、食事の用意をしていると師匠が起きてきた。
「おっはよー」
「おはようございます」
「師匠、ここで良いか?」
師匠は辺りを見渡した。
「うん、良いじゃん。普通の木こりの10倍仕事早いんじゃない? 2人共木こりになれよ」
「嫌です冒険者で」
「冒険者以外なるか」
そんな話をしながら3人で食事をした。
食後。
「はい、この道具を持ってついて来て」
スコップとバケツとロープを持たされ師匠の後に続き、更に山を登って行く。
「この辺りかな?」
野営地から結構登ってきた。
「さあ修業を始めるよー。ここを2人でガンガン穴掘っちゃって」
ザッ、ザッ、ザッ
ザッ、ザッ、ザッ
師匠に言われた通り穴を掘り進める。
「そろそろ1人が穴を掘って、もう一人が上からバケツを引っ張って土を捨てようよ」
「オッケーまず俺から穴を掘るわ」
交互に穴を掘り、バケツを引き揚げ、土を捨てるを繰り返す。
ふー疲れてきた。そろそろ5メートル位掘ったよね、一度師匠に確認してもらおう。
「どうですか? 結構掘りましたけど」
師匠は掘った穴を覗く。
「で何? この溝がどうかした?」
「は? 師匠が穴を掘れって言ったんじゃねーか」
ビシッ ゴロゴロ
「ぐわっ」
ビシッ ゴロゴロ
「痛え」
またデコピンをされて転がり回る。
「アホかー最低でもこの20倍は掘らないと意味ねーよ」
「ふへっ?」
「ひょっ?」
20倍と聞いて変な声を出してしまった。
「何変な声出してんの、2人はここに遊びに来たの?違うでしょ修業でしょ、たったあれだけ掘って強くなるの? 強くなった? なってないでしょー」
「そうですね、僕達は修業に来てました。やろうクデロペどんどん掘ろう」
「お、おう、やるか」
「先に言っとくと、ここでの修業は2人次第で変わるから現状いつまでやるかは判んないからそのつもりでー」
僕達は穴掘りを再開した。
あっぶねー取り敢えず2人は修業って信じたーよかった。……すまん2人共穴を掘る深さ20倍じゃなく本当は100倍以上なんだけどね、そんなん言えんけど。
数日後の夜。
「師匠ーあそこに置いてあった食料知らねえか?」
「2人共お疲れさん。食料なら腹が減ったから食ったよ」
「あの量、全部ですか?」
僕達が穴掘りに行く前は大量に食料はあった。
「うん全部、食い物の話してたら腹減ってきたクデロペ飯くれ」
あー師匠は気が付いていないんですね。ガックリと肩を落とす。
「飯くれじゃねーよ。何してんだよーあれ最後の食料だぞ、今日の夕食と明日からどうすんだよ。これから狩に行っても時間かかるからな」
「はぁ? 夕食ねーの? ふざけんなよ。どうすんだよ」
「逆ギレすんな」
本当、師匠は怒らないでほしいです。自分で食べたんですから。
パチン
どうするか考えていた師匠は何か閃いたらしく手を大きく叩いた。
「あっそう言えば。山の麓から少し離れた所にベッコ村が有ったでしょ、あそこの村長のヨシダさんと友達で『ヨっちゃん&カーちゃん』の仲なのね、それで食料貰うことになってから貰ってきて。でも夜だから挨拶とか無しで良いから、挨拶しちゃ駄目だよ夜知らない人来たら怖いでしょ。静かに貰って来てねー」
「師匠が行けば良いんじゃねーの」
「やだ面倒くさい」
首を横にブンブン振りながら拒否された。
「わかりました僕達で行きます。で村のどこにあるんですか?」
「知らん。倉庫とかにあるんじゃない? あっ酒も有ったら持ってきてね、くれぐれも静かにね。行って来い」
松明を片手に僕達は夜の山道を駆け下り草原を走りベッコ村へ辿り着いた。
「本当に無断で持って行っていいのかな?」
「師匠が言ってんだから良いんだろ、師匠の言うとおりこんな夜に知らない子供が訪ねて来たら怖いだろ」
「まぁ確かにね」
村の中に入ると家が10数軒立ち並び、ほとんどの家はあかりが灯っていない。寝ているのだろうね、お邪魔します。
村の中央には井戸があり、その周りに櫓が3つとボンファイア用の木が組まれている。静かに倉庫を探しているとなんだか泥棒してるみたいでドキドキしてきた。
村の中を進むと一番奥に倉庫が2棟建っていた。
扉には鍵が鍵が掛けられている。
「任せなさい」
ガチャリ
クデロペが針金を取り出し、手際よくピッキングで鍵を開けて中に入る。
おお本格的に泥棒っぽいドキドキする。一つ目の倉庫の中には畑や田んぼで使う道具や魔道具が置かれていた。食料じゃなかった残念。
2つ目の倉庫の鍵もクデロペは簡単に開けて中に入る。
中には沢山の食料と酒樽が積まれていた。
「よっしゃー食料ゲーット」
「どの位貰って良いのかな?」
「わかんねーけど持てるだけ持って行こうぜ、もし貰いすぎても怒られるのは師匠だし」
持てるだけの食料と酒樽を1つ持って、静かにベッコ村を出て野営地へ向かい走る。
「泥棒してるみたいでドキドキしたね」
「俺はドキドキと言うよりもワクワクだった楽しかったな」
「クデロペ楽しかったって泥棒とか盗賊にならないでよね」
「わかってるよ、俺達は冒険者になるんだ。魔物や魔獣を倒したりお宝見つけたり」
「クデロペ……ありがとうね。武器も攻撃魔法も使えない僕が冒険者に成りたいって言って笑わなかったのクデロペだけだったもんね」
少し照れくさいが思っていた事をクデロペに伝える事が出来た。
「何だよ急に恥ずかしいじゃねーか。……まぁお前が真剣だったからな。但し、パーティのリーダーは俺だからな。俺について来い2人で冒険者に成って色々やるぞー」
「うん。ついて行くよリーダー」
ゲシ、ゲシ、ゲシ。
野営地まで戻ると戻ると師匠が地団駄を踏みながら待っていた。
「遅い! 2人共遅すぎ、腹減って死にそうだわ」
いやいや師匠はご飯大量に食べてますよね。どちらかと言うと僕達の方がお腹空いていますよ。
しかし酒樽を師匠に渡すと満面の笑みを浮かべて僕達の頭を撫でてきた。
「君達は偉い凄いぞ。流石は俺様の弟子達だ。よくやった」
クデロペが手早く調理をしてやっと食事にありつけた。
「「「いただきます」」」
食後はいつもの戦闘や移動、魔力消費などの訓練をする、戦闘訓練では僕達の攻撃は一度も当たらない、そもそも掠りもしない。師匠のデコピンとビンタは一度も避ける事が出来ず、いつもの様にボコボコにされる。訓練終了と同時に倒れこんで眠った。