#5
僕達の願いを聞き手本を見せてくれる事になった。
「しょうがねーなー、俺様超優しいからなー、ちゃんと見てろよー」
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ
師匠が反復横跳びを始めると僕達は驚愕した。ギリギリ目で追える位の速さだった。
「凄い、速すぎ」
「凄えー」
「まぁこんな感じかな、どうした2人共アホみたいな顔して。俺様の速さにビックリしたのか。しかーし超速いカースド様の本気はこんなもんじゃ無いよ」
バシッ ゴロゴロゴロ
バシッ ゴロゴロゴロ
悲しそうな顔をした師匠からビンタを受けて転がった。
「超早いとか言うな、馬鹿にしてんのか。今まで一度も言われた事ねーわ、逆に長すぎーって言われるわ」
いや、よく分かりませんが自分で言ったんですよ。
「師匠泣くなよ」
「泣いてなんかいないし」
師匠、顔を真っ赤にして涙目になってますよ。
「次だ次! また2人でかかって来い」
さっきと同じ様に2人掛で攻撃するが掠る事も出来ない。
ビシッ
「ぐわっ」
ゴロゴロゴロ
バシッ
「ぐへっ」
ゴロゴロゴロ
時折、師匠のビンタとデコピンを受ける。その威力は吹き飛ばされ地面を転がり回る程で半端なく痛い。
で、何度も何度も僕達は師匠に向かって行ったが、何も出来ずにボコボコにされて地面に倒れこんだ。
「よし、俺様のストレスも少しは解消できたので次だ。クデロペは何でもいいから好きな魔法を、アマネは<障壁>しか無いから<障壁>を魔力が無くなるまでやって」
僕は<障壁>を張り続けてクデロペは<炎>と<雷>を交互に打ち続けて魔力が空っぽになった。
体力と魔力が空っぽになり頭痛と吐き気に襲われまた地面に倒れこみ動けなくなった。
「し、師匠もう無理です。動けません」
「俺も無理だ、吐きそう」
「まぁ今日は、この位にしようか。俺様も腹減って来たし帰ろっか」
師匠は僕達の襟を掴み引きずって街へ戻り、街中でクデロペを捨てた。
「クデロペまた明日な、今日はゆっくりと休めよーじゃーなー」
「おおーい2人共待て待ってくれー捨てて行くなー」
クデロペの声が遠くで聞こえる。
「師匠クデロペを落としてますよ」
「うん。クデロペの家、方向が違うからね。腹減ったから寄り道出来ないでしょだから捨てたの」
「今日も僕の家で食事をするんですか?」
「あれ?聞いていない?今日からアマネの家でお世話にるから」
「そうだったんですか」
ごめんクデロペ頑張って帰って。君なら出来る幸運を祈る。
「ただいまっす。腹減ったっす。はいアレフさんお土産」
僕はお土産じゃありません。師匠はボロボロになった僕をアレフに渡した。
「お帰りなさいませアマネ様、カースド様。すぐに食事のご用意を致します。カースド様のお部屋の準備は整っておりますので、お部屋へご案内致します」
師匠の弟子になって暫くしたある日の朝、いつもの様に街の外の雑木林へ行くと見慣れない馬車が置いてあった。しかも馬車には馬が繋がれていない。
「何だあれ」
「何でしょうね?」
近づいて馬車を調べる。馬車の中は豪華に改造されていてベッドなどが置いてあった。
「アマネこっちに来い」
馬車の外側を調べていたクデロペが呼んでいる。
「何?何かあった?」
「これ師匠だよな」
クデロペは馬車の後方の側面を指さす、そこには師匠の自画像が描かれていた。
「おー完成したか、超グレートカースド1号」
「わっ師匠」
突然現れた師匠に驚く。
「おい、師匠どうしたんだこれ?」
「これはね、アマネの父さんが修業に必要な物は何でも用意してくれるって言うからお願いした。モーリヤさん気前良いよね。俺モーリヤ家の子供になろうかな。アマネ、カースド兄ちゃんって呼んでごらん」
「いえ遠慮します。本当の兄さんも居ますので」
師匠は顎に手を当てて考えている。
「じゃあアマネの弟で。アマネ兄ちゃん」
「嫌です」
しつこく僕と兄弟になろうとしてるのできっぱりと断った。
「おい、この馬車、馬が居ないんだけどまさか?」
「正解だよクデロペ。お前達がこの馬車を引く。……その推理力、お前探偵にでもなるつもりか?」
「推理力って師匠の考えそうな事くらい分かるわ」
確かに暫く師匠の弟子をしてるとその位分かる様になってくる。考え方が少しおかしいし自分大好きだし。
「今日からは山籠もりだ。2人の親にはちゃんと伝えてあるから心配ないよー。非常に厳しい修業を始めるから2人共覚悟しろ。出発だ」
そう言って師匠は馬車の中に入って行った。
「師匠がいつもと違って真面目な感じだったよ。本当に厳しい修業になるのかも」
「面白れぇ、あっさりとクリアしてやるぜ。行くぞアマネ」
物凄く重たい馬車を引いて山へ向かって走り出す。
暫く馬車を引いて草原を走る。
「アマネ気づいているか? あそこにティラノが居るぞ」
「うわ、何でこんな所にあんなのが居るの?逃げ切れるかな?」
「いや俺達こんな重たい馬車を引いてるから無理だろ」
ドンドンドン
「師匠、師匠」
「うっさいなー、何?」
「何じゃねぇよ。ティラノがこっちに向かって来てんだよ」
「はぁ?ティラノ?そんなの下位の竜種じゃん2人でやってみてよ。これも修業だー行けー」
師匠は面倒くさそうに答えた。
「くそっ、修業だって行くぞアマネ」
「う、うん。……僕達死ぬのかな?」
「わからねぇ、でもやるしかねぇ」
ティラノは体長10メートル位、赤褐色の硬い鱗に覆われた凶暴な肉食の魔物だ。
ティラノは大きな頭を下げて突き出して突進をして来る。
僕はいつもの様に右手の拳を伸ばす、クデロペが左の拳を合わせて戦闘を開始する。
「行くぞアマネ」
「うん」
アマネとクデロペはティラノに向かって走り出した。
「クデロペ魔法をお願い」
「任せろ」
クデロペが幾つもの<炎>をティラノに向けて放つ。えっ、ティラノの表面を焦がす程度で突進は止まらない。
「駄目だ、まるで効いていない」
「僕が<障壁>で止める」
ドゴーン
<障壁>にぶつかりティラノは止まった。
ギャウ?ティラノは見えない壁に戸惑っている。
「アマネ肩を借りるぞ」
ティラノが戸惑っている隙にクデロペはアマネの肩を踏み台にしてティラノの頭の上に登った。
「うおぉぉぉりゃぁぁぁ」
ガキィーン
クデロペの剣は硬い鱗に弾き返される。
「くそっ鱗硬すぎだろ、剣が全く刺さらねえ」
ティラノの注意がクデロペに向いたところで顎の下に潜り込み身体ごと殴りつける。
ゴン
「痛っ、硬すぎるよこっちの拳の方が壊れそうだ」