#4
「それでも弟子は気を使えよー……まぁ良いやじゃあ初日なんで少年達の力量を測るために2人でかかって来なさーい。全力でね訓練用の剣じゃなく本物ね」
「やってみよう」
「ああ、オッサンをボッコってやろうぜ」
クデロペは師匠が物凄い冒険者だと言う事に半信半疑だった。
「いつでも良いーよー」
クイ、クイ、
師匠は、にやけながら手招きをする。
伸ばした右の拳にクデロペが左手の拳を合わせて訓練を開始する。
拳を合わせるのと同時にクデロペが剣を横薙ぎにする。
カースドは屈んで剣を躱すと続けざまに上段から剣を振り下ろされる。それも左足を引いて半身になり躱す。
次にアマネがカースドの背後に回り込み死角から脇腹に右拳の突きを放つがカースドは、その攻撃を見もせずに体をクイッと曲げてあっさりと躱す。
「アマネ下がれ」
アマネが離れたこと確認した。
「これでも喰らえ<炎>」
クデロペは自らダメージを負う事も覚悟で近距離から攻撃魔法<炎>を打ち込む。 が何故か炎は霧散した。
???何でクデロペの炎が消えたの?
クデロペも訳も分からず???状態になるが手を休めずに剣を振り続ける。
アマネは突きと蹴りで、クデロペは魔法と剣で何度も何度も攻撃するが一切当たらない。それどころか2人の攻撃はカースドを掠める事さえ無い。
数十分後、
ハァハァハァ、ハァハァハァ
2人は疲れ果てて地面に寝転がっていた。
「だー掠りもしねぇ」
「それよりも師匠は、あの場所から殆ど動いてないですよ」
師匠は満面の笑みを浮かべながらくるくる回っている。
「どう?俺様凄いっしょ、尊敬するよね? 憧れちゃうよね?」
「確かに凄えが尊敬と憧れは遠慮しとくわ」
クデロペの答えに師匠は驚き、こちらに視線を移してきた。
「師匠、尊敬と憧れは兎も角として凄いですね」
「うわー、俺様の凄さをあっさりウサギとツノにされたよ」
師匠は膝から崩れ落ち、ぶつぶつと独り言を呟く。
一時間後、師匠はやっと立ち直った。
「じゃあ次はあの木を板にして」
一本の木を指差す。
「いや無理だろ斧も鋸も無いのに」
クデロペが言うとおり道具が無いと、この木は切れないし板にするなんて無理です。
「取り敢えずやってみて」
クデロペは剣を斧の様に切ったり鋸の様に擦るが全然木は倒れない。僕は道具も何も持ってないので見てるだけ。
「オッサンどう考えても無理じゃねーか」
クデロペ、師匠をオッサンて呼んじゃダメだよ。
「あー面倒くせーよー。しょうがない手本を見せてあげようじゃないかクデロペよく見といてね」
師匠は短剣を取り出して木の前に立ち、短剣を振るうシュッと音が聞こえると木はドシーンと音を立てて倒れた。振るった剣が全く見えずクデロペも目を擦っている。
「次はアマネ、ちゃんと見ててろ」
師匠は短剣をしまい手刀で木を三枚の板にして、指で木の端を突き穴まで開けた。
「こんな感じ。後はその辺の蔦で木と木を縛って完成」
僕達は驚きのあまり立ち尽くす。
「し、師匠何ですか今のは? 手で木を切るなんて意味が分かりません」
「そうだそれに剣筋が全く見えなかったぞ。凄すぎだろ」
「だろ、俺様やっぱりすげーだろ。『超カッコいいカースド様』とか『超強いカースド様』って呼びたくなって来ただろ、遠慮せずに好きな方で呼んでくれたまえ。ぐわっはっはっはっはっは」
体を反らしすぎて空を見ながら高笑いをする。
「嫌だ」
「遠慮します」
僕達は板と板を集めた蔦で縛り一枚の板にした。
「おまたせしました。これで良いですか?」
「おお良いねーいい感じだ」
師匠は板に強化魔法を掛けて寝転んだ。
「今から2人の体力と連携を調べるぞ。アマネはそっちを持って、クデロペはこっちを持って」
「はい」
「うん」
師匠の寝転ぶ板を腰の高さまで持ち上げる。重たい、何これ師匠どんだけ重たいんですか?
「修業を再開しまーす。このまま草原に出て10キロ位走るんだ」
「お、おう」
「は、はい」
師匠の寝転ぶ板を走る為に頭の上まで担ぐとあまりの重さにふらついた。
「おいおい、2人とも走ってもないのにふらついてるよー」
「すいません」
「よしアマネ出発しよう」
僕達は走り出した。
「ねぇ2人とも腕や膝、全身を使って極力揺らさない事、呼吸を合わせて進めー」
「そうかこれは連携の訓練ですね」
「アマネ、これは違うと思うぞ」
何この乗り物、程よい揺れと爽やかな風。俺様は良い乗り物を手に入れてしまった。
カースドはそんな事を考えながら眠りについた。
「ハァハァハァ、師匠この辺りで良いで……」
「ハァハァハァ、ほらな。これは訓練じゃなくてオッサンが自分で歩きたくないだけだって」
ゴン、ゴロゴロゴロ
クデロペは持っていた板から手を離し師匠を地面に落とし、座り込んだ。
「痛っ、何すんだよー」
「オッサン寝てただろ」
クデロペは語気を強め睨む。
「はぁ? 寝てねーしお前らの連携を肌で感じてただけだし。ただ一つ言えることは……布団が有ると更に良いよね」
うん、師匠完全に寝てましたね。それに起き上がらないんですね寝転がったままで。
「師匠、クデロペその位にして下さい。僕が立派な冒険者になる為の訓練を始めましょう」
「そだねー2人とも覚悟しろ、これからが修業の本番だ気合を入れろ」
「はい」
「おう」
師匠はそのまま転がって板の上に乗った。
「よしアマネはそっち、クデロペはこっちを持って、さっきの雑木林の空き地へ戻るぞ」
「はぁ? オッサン今来たところだよ。これから魔物倒したり訓練を始めるんじゃねーの?」
「ううん、だって2人とも体力、速さ、魔力、技術どれも全然ダメダメだから取り敢えず基礎訓練からだよー。よしレッツゴー」
師匠は真顔で首を振りながらそう答えた。冗談ではないみたいです。
師匠を担ぎ、出発した雑木林の空き地まで戻ってきた。
「ハァハァハァ、到着」
「ハァハァハァ、着いたぞ」
「さっき言った通り2人ともダメダメなので技術面は後回しにして、それ以外を鍛えまーす。それじゃあ反復横跳びをやって」
僕達は休む暇もなく直ぐに反復横跳びをした。
「遅っ! 二人共遅い。亀かもっと早く」
「これが僕達の全力なんですがお手本を見せて下さい」
「えー面倒くさいよー」
「お願いします」
「手本見せろよ」
頭を下げてお願いをする。