#3
「初めましてカースドさん。私はアマネの父のヒロノ・モーリヤです。今日は存分に召し上がってください」
「あっどうもカースドっす。本当に本当に遠慮なく飲み食い良いんっすかね? 怒りません?」
「どうぞ、どうぞ存分に」
2人はにこやかに握手をする。
ガツガツガツ、グビグビグビ、ガツガツガツ、グビグビグビ、「プハー」カースドさんは本当に遠慮する事無く次々に料理とお酒を口に放り込んでいく。
「うめー、これもうまー、アレフさんこれお代わり、この酒うんめー」
カースドさんの食事姿を見て、父さん、アレフ、メイド全員が軽く引いている。
「ふー腹一杯だわ、ご馳走様でした」
「そうだ、カースドさんの冒険の話が聞きたいのですが」
「アマネ君。そんなに俺様のカッチョイイ話が聞きたいかね? しょうがねーなー耳の穴かっぽじってよく聞きな」
「はい」
父さんやアレフもカースドさんの話に興味が有るようで黙って話を聞く。
「次々に襲ってくる魔物を切り倒して最深部で魔物のボスを倒して王冠を見つけたんだよねー。いやーあれを見つけた時は痺れたね、流石は俺様って感じで」
カースドさんは秘境の神殿で倒した魔物や見つけた宝の話をしてくれた。この人はとんでもない冒険者なんだ凄い。
「アマネ、お前はそろそろ下がりなさい。ここからは大人の時間だ」
「えー、もっと話が聞きたかったのに……分かりました、カースドさんの冒険談楽しかったです。ありがとうございました」
カースドさんに一礼をして食堂を後にする。
「カースドさんはまだ、いけますかな?」
ヒロノは口元に手をやりグラスを呷るしぐさをする。
「ええ、タダ酒ならまだまだいけますよ」
程よくお酒が進んだところで、アレフ以外の人払いをした。
「カースドさん素敵な指輪ですな拝見しても?」
カースドが赤と青の二色に輝く特殊な魔法石の付いた指輪を外すと色は無くなり透明な魔法石になった。
ヒロノは手袋をはめて指輪を受け取り色々な角度から見てみる。ポケットからルーペを取り出し、魔法石の中を見てから台座を見てみる。魔法石と台座とには評議会の紋章が刻まれている事を確認した。
「ふー。本物ですか、ありがとうございました。この事は決して他言いたしません」
ヒロノは丁寧に指輪をカースドへと返却した。
カースドが指輪をはめると透明な魔法石は再び青と赤の二色に輝きだした。
ヒロノがこの食事会に参加したのには訳があった。一つ目はカースドの指輪の確認と指輪が本物であった場合、顔を繋ぐ事二つ目はモーリヤ家に近づいた本当の理由の確認だ。
「アマネからは賭けの話は聞いておりますが、当家へお越しいただいた理由は他にもあるのでしょうか?」
ヒロノはカースドに顔を近づけ真剣に問いかける。
カースドはタダ飯とタダ酒に目が眩み当初の目的を忘れていた。カースドは考える……うーん? 天井を見上げ真剣に考えが思い出せない。
「いやタダ飯とタダ酒を貰いに……あっ……忘れてた。アマネとクデロペを冒険者として鍛えたいから許可を貰いに来たんだった」
「アマネを冒険者として鍛える? またご冗談を、あの子は武器も魔法も使えませんよ。分かっていると思いますが我が家は、呪われしモーリヤ家ですよ」
ヒロノはニコニコしながら返答をする。
「いやマジでマジで、素手でも魔物は倒せるし。駄目だったら俺がアマネに引導を渡すんでその時、冒険者以外の道を進ませればいいっしょ」
「わかりました。アマネをよろしくお願いします。クデロペ君の両親にも私の方から少し口添えしておきます」
ヒロノは商人らしく瞬時に様々な事を計算して答えを出した。
「あざーっす。じゃあ明後日からビシビシ行きますんで」
翌朝、父さんから呼び出されて執務室へと向かう。
コンコンコン
「失礼します。父さんお呼びですか?」
「カースドさんの事なんだが」
僕が退席した後にカースドさん何かやらかしたのかな?
「お前も冒険談を聞いて分かってると思うがあの人は凄い冒険者だ。私の方でも確認済みだ。そのカースドさんがお前を冒険者として鍛えたいと言ってきた」
「えっ本当ですか?」
「ああ本当だ。儂もアマネがカースドさんの弟子になり冒険者の修業をしても良いと思っておるが……カースドさんがお前は冒険者の素質が無いと判断した時は、きっぱりと冒険者への夢をあきらめ商人としての道を進むか?」
「はい。冒険者の素質が無ければ冒険者への夢は捨てます約束します」
これまで僕の冒険者になりたい夢を否定していた父さんが初めて認めてくれた。頑張って絶対に冒険者になる。
「おーアマネ昨日どうだった?」
「うん、僕弟子になった。カースドさんは物凄い冒険者で明日から鍛えてもらうようになった」
「はぁー? 弟子? オッサンに? お前騙されてるぞ絶対、よし今日俺の親父達にオッサンの化けの皮剥いでもらおう」
いつもの訓練の後、カースドさんがやって来てクデロペの家で食事とお酒をご馳走になった。……で結果、クデロペもカースドさんの弟子になりました。
「ゴホン」
カースドは一つ咳払いをして始める。
「えー本日はお日柄もよくお忙しい中、私の為に集まっていただきありがとうございます」
何を言っているか意味が分からない。カースドさんの為じゃないのに。冗談なんだろうけど面倒くさい。
「ゴホン」
カースドさんはまた咳払いをした。
「えー本日より少年達を鍛える事になりましたカースドです。私の事は『超カッコいいカースド様』か『超強いカースド様』好きな方を選んで呼んでくれたまえ」
恥ずかしい呼び名にげんなりしてクデロペと話し合う。
「オッサンで」
「だからクデロペ、オッサンは駄目です。師匠でおねがいします」
「チッしょうがねえ師匠だ」
「なーにーそれじゃあ普通すぎー」
普通で良いのに。師匠の反応に無視を決め込む。
「無視かーい。まぁ良いや、で2人は何で冒険者になりたいの?」
「俺は親父達の様に強くなりたい」
「僕は色々な物や世界が見たいのとモーリヤ家の呪いを解きたいです」
師匠はうんうんと頷いた。
バシッ! ゴロゴロ
バシッ! ゴロゴロ
僕達はビンタを喰らい吹き飛び、転がる。
「オッサン何すん」
「そこはカースド様に憧れてでしょ」
ゲシ、ゲシ、ゲシと地面を踏んで叫ぶ。
「オッサンの事そんなに知らねえのに言うわけねーだろ」
クデロペの意見に賛成。師匠は物凄く面倒くさくて我儘な人なんだと認識した。