#1
遥か昔、剣士と賢者の冒険者は魔王の一柱を倒した。
剣士イリーナと賢者ラインハルトは最後の力を振り絞り、賢者ラインハルトは極大魔法<隕石落下>を放ち、剣士イリーナは聖力を体と剣に纏い剣技<滅魔百手>を放つ。
空に大小無数の隕石が出現し魔王へ向け隕石群が降り注ぐ、そこへ聖力を込めた前後左右上下の様々な角度から一瞬で繰出される百回の斬撃。
「グギィギヤャャャ……我・も・ただで・は・滅さ・ん……g%b*w$g@ШЮÅ」魔王の一柱は滅した。
パタンと大好きな英雄譚を読み終え閉じた。
「何回読んでもかっこいいな、僕も絶対に冒険者になってみせる」
その呟きを隣で聞いていたツティム兄さんが苦笑いを浮かべ頬を掻いている。
「アマネ冒険者に憧れる事をやめなさいとは言いませんが冒険者を目指す事はやめなさい。理解していると思いますが我がモーリヤ家は武器も攻撃魔法も使えないのですから」
モーリヤ家は英雄譚に出ていた剣士イリーナと賢者ラインハルトの末裔で、魔王の一柱が滅する前に発した言葉は攻撃に関す呪いだった。
武器と魔法による攻撃が出来ず、剣などの武器は持つ事が出来ない。しかし果物ナイフや石は見方によれば武器にもなるが持つ事が出来れば使用可能で武器として認識されていない。魔法に関しては攻撃魔法は発動する事が出来ず使えない、幾つもある防御魔法・支援魔法の内、一種類しか使えず、アマネは防御魔法の<障壁>が使えたのであった。
「それでも僕は冒険者になります。<障壁>もあるから防御は大丈夫だし、力と頑丈さには自信もあります。……いつか呪いも解けるかもしれません」
はぁぁぁぁ
ツティム兄さんは大きくため息をつき頭が垂れる。
「確かにアマネの腕力と打たれ強さは秀でていますが、素手で魔物は倒せないと思いますよ。これまで一族で呪いが解けた人はいません。ですから一族は商人として生きてきたのです。それにその英雄譚もどこまで真実が書かれているか判りませんよ、何ですか聖力とは? 聞いた事が有りませんしね」
そう言い残しツティム兄さんは休憩時間を終えて父さんの元へと向かって行った。
「もうそんな時間? やばい早く行かないとまた怒られちゃう」
急いで家を出て街の外にある雑木林へと走って行った。
「アマネ遅えぞ」
既に雑木林の空き地にはクデロペが待っていた。
クデロペはアマネより1歳年上の幼馴染で両親は冒険者、幼い頃より冒険者としての技術や知識を叩き込まれていて、その技術と知識をアマネに指導すると共に2人で訓練をしていた。
「ごめん、ごめんクデロペ本を読んでた」
「お前本当に本が好きだな。まあ良いや訓練始めるぞ」
2人はこの雑木林の空き地でいつも訓練をしている。
いつもの様に2人は木の枝に架けたロープを腕だけで登ったり岩を持ち上げたり魔物の素材について話し合ったり魔物や動物を狩ったり様々な訓練を行う。
「よし次は戦闘訓練だな」
2人は少し距離を取りクデロペは訓練用の刃を潰した剣を構えて、アマネは素手で対峙する。
「じゃあ始めるぞ、良いか?」
「いつでも良いよ」
アマネの返事を聞いたクデロペは一気に距離を詰め突きを放つ、アマネは上半身を反らし剣を躱しながら胴への回し蹴りを放つが、クデロペは左肘で蹴りを受け止めると上段から剣を振り下ろす。
剣が当たる前にアマネは<障壁>を発動すると次の瞬間、ガキン! と音がして剣は見えざる壁に阻まれた。
クデロペの体勢が崩れた所へ、すかさずアマネは胴への蹴りを放ちクデロペは吹き飛んだが自ら蹴りとは逆方向へ飛びダメージを軽減させていた。
「痛えーし、お前の壁硬いしダァー糞!」
「クデロペだって僕の蹴り殆ど効いてないよね」
2人はその後、何度か戦闘訓練をして今日の訓練を終える。
いつもの様に訓練をしていたある日。
男は雑木林の木の上から2人の少年を見ていた。
ガキのくせにあいつら凄いね、黒髪は全力出してなさそうだし。
男は心眼を発動した。
赤髪は……ごく微量だか聖力も持ってんな。黒髪の方は……ん? なんか色んなもんが絡みついてんな、あーあいつも呪われてるのか……試してみるか。
男は雑木林を抜け平原へ向かった。
何か居ねえかな? おー居た居た。
男は一匹のホーンウルフを見つけ威圧を放つと、怯えてプルプルと震えるホーンウルフを担いで雑木林へ戻って行った。
「よーし、あの2人を攻撃してみよう」
男はアマネとクデロペを指さすとホーンウルフはブンブンと首を縦に振り茂みから出て行った。
ガサ、ガサガサ……草むらから青い毛、鋭い牙、額の菱形模様から角が生えた魔物が出てきた。
「あれってホーンウルホフの青だよね? 大きくない?」
「だな……一体だけか挟み撃ちで行くか?」
「うん」
コン
アマネの伸ばした右の拳にクデロペが左手の拳を合わせて戦闘を開始する。
クデロペは剣を持ち、アマネは素手で左右に分かれてホーンウルフに向かって走り出した。
ホーンウルフも向かって来る2人の内、素手のアマネに狙いをつけて駆け出す。
そうなるよね僕の方が素手で弱そうだもんね。
アマネとホーンウルフの距離が一気に縮まり、ホーンウルフは大きな爪で襲い掛かるがアマネはサイドステップで爪を躱しホーンウルフの口元を殴って動きを止めると反対側から走って来たクデロペが切りかかった。
ホーンウルフは爪で剣を阻むがクデロペは腰を落とし剣を滑らせ柄頭で鼻を殴る。そこにアマネがすかさず脇腹に蹴りを入れ後頭部を殴りつける。
ホーンウルフはいったん距離を取り、鼻筋に皺を入れグゥルルルルとうなり声をあげ2人を睨み、後ろ足に力を込めダン! と地面を蹴り角で串刺しにする為に錐揉み回転をしながら物凄い速さでクデロペへ向かって飛びかかる。
アマネはクデロペとホーンウルフの間に入る。
「残念でした」
ガキィーン!
ホーンウルフはアマネの防御魔法<障壁>にぶつかり地面に転がった。
「よっしゃー死ねえぇぇ」
クデロペは転がるホーンウルフの喉元めがけて剣を振り下ろす。