stibnite ~ ネクラ少女と灰色鉱石(3)
一年ほど前の事。
私が住んでいたのは日本と言う国だった。
都会の中で一日中働き、家に帰って寝る。
そしてまた次の日に出勤をする。
私はそんな「普通の日本人」だった。
そんな日々を過ごす中で私は強く感じることがあった。
くだらない。面倒。
繰り返す日々に意味を感じなかった。
毎日生きているのが苦痛だった。
だからSNSサイトに書き込んだ。
「人知れず死にたい。」
後ろ向きだが、本心だった。
意味がなく生きるくらいだったら、
このまま生涯を終えるなら。
いっそ意味もなく死にたい。
いっそ今死にたい。
そう思っていた。
勿論、死ねる勇気は無かった。
勿論、死ぬ気はなかった。
言葉にしかできない。
そんな日常。よくある事。
だけど、その言葉が叶ってしまった。
書き込んだ翌日。
目が覚めると私は知らない場所にいた。
そして、目の前にいた男がいた。
青年と言っても差しさわりがない好青年。
私が目覚めたところを見て、
「おはよう」とさわやかにほほ笑んだ。
私はその状況が把握できずに、
きょろきょろと周りを見回す。
そんな私に対して青年は苦笑しながら
信じがたいことを言った。
「あなたは死にました。」
その言葉に私はぽかんとした。
理解が出来なかった。
そもそも、そこにいる理由も分からないし、
男が言っている言葉も理解できていない。
それを察した青年は微笑みながら言った。
「突然そう言っても、分かりませんよね。」
それから、和やかな空気を纏う青年は色々なことを説明してくれた。
死にたい。
と言う言葉が神に届いたということ。
日本では死んだことにされているということ。
実際には死んでいなくて、
この教会で修道女として余生を送って欲しいということ。
そして、彼は後はもう答えられない。
と寂し気に言った。
ごめんね。とも。
私は何も言えなかった。
突然の事で何も言えなかったのもあるし、
青年は誤ってまで言えないと言っていたことを追求することが、
申し訳ないと勝手に思ってしまった。
ただ本音を言うと、
突然こんなことが起きて少しワクワクしている自分が居たかもしれない。
だからこそ何も言えなかった。
むしろ「だ…大丈夫です。」と言ってしまった。
こうやって言ってしまうのは日本人だからだろうか。
ただ、その好青年が「良かった…」って微笑んでいたから。
まぁ良いかなって思ってしまった。
そんなこんながあって私は教会で過ごす生活が始まった。
流されやすいなと反省した半面、
少しドキドキワクワクしてたあの頃が懐かしい。
その後何があるか分かって無かったくせに。
今思い返すと恨めしい。あの時の自分が。