十羽 お泊まり会
三人はそろぞれ親に許可をもらい、美穗の家に集まっていた。
「それじゃあ、まずは撮ったビデオやノートの確認をしようか」
「うん、まだ夕飯までは時間があるってお母さん言ってたし、私も早く見たい…」
「大丈夫。 確認したらしっかり撮れてた。」
茜はそう言うとカメラとpcをカバンから取り出し、テーブルの上に置いた。
「すごい、pcまで持ってくるなんて……」
「これは私のマイpc。 とっても使いやすくて便利。」
茜は笑顔でそう言った。 そしてカメラのSDカードを取り出してpcに接続させた。
「これで大きな画面で見れる。 だから美穗のノートと一緒に見れば細かいところも確認できる。」
「すごいね!! これならノートに書けなかったこともしっかりメモできるよ!!」
「本当だね。 私もあの練習では反省点もたくさんあるからしっかり見たい。」
(あの練習ではほとんど何もできずに終わってしまった。 でもだからこそ見つけることのできることもあるわけだし、結局奥原選手はいろいろ言っていたけど大切な部分は隠すように何も言わなかった。 俺はあの人が言っていた以前の俺でなく、今の俺の才能について知りたい。)
「それじゃあノートも準備できたし、ビデオを再生しよう。」
「わかった。 まずは奥原選手と佐藤選手の練習試合だね。」
茜はpcを操作して由紀と佐藤選手、瑞希の練習試合のビデオを再生した。
「最初の基礎打ちの時はお互いの状態を確認するように打ってたんだよね…… だけど、試合が始まってから体育館の空気が変わったのを覚えてる。」
「うん、奥原選手と佐藤選手がお互いを見て頷いたところから空気が変わった。 あそこの場面で練習試合ではない試合が始まるのはなんとなくだけどわかった」
「あのときの二人は両方とも本気だったね。 私たちは本気の試合を見られてうれしいけど、まさか本当に本気でやるなんて思わなかったもん」
「確かに、ラケットやシャトルの扱い方、ゲームメイクの展開、技術、どれをとってもあの二人のレベルはすごかった。」
(ただ、一緒に打ってわかったけど、入れ替わる前に知り合った奥原選手とは似ても似つかないゲームだった。 やっぱり、入れ替わる前の奥原選手と今の奥原選手は別人なのか? 姿格好は似てるけどあんなに身長高く無かったはずだし。 やはり、別人としてみる線が一番良いのか、ただ、奥原選手が最後に言ったあの言葉、あれの真意が気になるところだな。)
「ビデオを見て、改めて思うけど、やっぱり奥原選手の守備範囲はものすごく広いんだね。 ちょっとした球なら安定して取ってるし。 やっぱり瞬発性と動体視力の賜物なのかな?」
「それもあるんだろうけど、それに加えてその天性の才能について行ける体だと思うよ? 奥原選手の動体視力とかは文字通り才能なんだと思う。 でもバドミントンは才能だけじゃあ勝てないからね。 体の使い方、何があってもぶれないメンタル。 これらは才能ではどうにもできない物だと思う。 そして奥原選手の体は何年もの地道な練習で作られたもの。そして自分の才能を磨いて武器にした。この二つが合わさって今の奥原由紀っていう一人の選手ができたんだと思う。」
双葉が二人にそう説明すると、美穗と茜の二人は少しポカンとしていた。
「……双葉ちゃん、すごいね。 なんだか双葉ちゃんが言うと説得力が違うよ。 ちょっとびっくりしちゃった。」
「うん、双葉の言葉には重みがあった。 なんだか自分も経験したことのあるような重みだった。」
双葉は二人の言葉に体をビクッとさせて、ごまかすように笑った。
「い、いやだな~ 私はただの初心者だよ? た、ただわかったように言っただけだよ。 それよりも早く続きを見よう?」
双葉の言葉に二人は頷いてビデオの続きを見始めた。
そうして、三人は由紀と瑞希の試合のビデオを最後まで見て、美穗が記録したノートを照らし合わせて細かいところの確認をしていた。
「奥原選手はなんと言っても球を落とさないところがすごいよね。 さっと落下地点に入ったり、安定したプレイだったよ。」
「相手の佐藤選手はパワーファイターだった。 一つ一つの球が速くてスマッシュなんかは多分ものすごく速いんだと思う。 それでいてコントロールがものすごく正確だった。」
(栗原さんの言うとおり、相手の佐藤選手もなかなかの腕だった。 体育館の観客は奥原選手に注目していたが彼女も相当の実力者だっていうことは試合を見ててわかった。 それに二人のプレイ技術は多分、永峰さんと栗原さんの二人の完成形だと思う。 永峰さんが奥原選手のような絶対的な守りの中、チャンスがあったら決めていくスタイルで栗原さんが佐藤さんのように圧倒的攻撃力で点を取っていくスタイル。
この二人がダブルスとかで組めるようになったら…… おもしろい、面白いぞ!!)
「ねえ、二人とも。 この二人の選手って美穗と茜のプレイスタイルにすごく似てるよね? 美穗は奥原選手を手本としてきたって聞いたけど茜は自己流でしょ? 佐藤選手をお手本にしてみたらどうかな?」
双葉がそう言うと茜も笑顔で頷いた。
「確かに。 私は今まで自己流で、誰かを手本にすることはしてこなかった。 自分に合う人が居なかったから。 でも佐藤選手なら私にぴったりだと思う。 だから彼女を手本にしながら私だけのスタイルを作る。」
「私も奥原選手の真似をしてきたけど、これからは真似だけじゃ無くて自分だけのスタイルを作るように頑張るよ!!」
二人の目標が決まり、三人はノートを見ながら、どんな場面でどのようなショットを打ったのかなどを確認しながら自分の糧にしていった。
そして由紀と瑞希の練習試合のビデオでの確認が終わると、双葉にとって問題のビデオ……
由紀との練習試合のビデオを見る時間になった。
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