一からのスタート
第1章 野球をやめた少年
朝の古典の授業はつまらないと俺は思った。
俺は朝が苦手だ。それなのに嫌いな古典が一限の水曜日は最悪である。
「才谷?聞いてるか?」
古典の先生の鵜飼が訪ねた。身長190cmの長身だが、細すぎて健康が心配になる30半ばの先生だ。今季から設立された野球部の顧問でもある
「起きてますし、聞いてますよ。続きをお願いします。」
「そうか。なら続けるぞ。えーとこの文は……」
本当に眠い。俺は気づいたら意識を失った。季節は9月。秋の陽気は俺が寝るのをアシストしてくれた。
「健人!起きろ!次移動だぞ!」
幼馴染で、野球部のショート────俺はセカンドだったから元相棒だ────の栗永佑介が話しかけてきた。野球選手のタイプは北海道の球団の○島○也選手にそっくりである。
「佑介、おはよう。次移動だっけ?」
「そうだよ!早く準備しろよ!」
「ありがとう。ちょい待ち」
俺はロッカーに向かい、授業の準備をした。
「じや、行きましょうか。」
佑介を手で呼び、目的地に向かった。
「なあ、健人」
道中、佑介がいきなり俺に語りかけた。
「なんで野球やめたん?」
佑介は痛いところをついた。それは誰にも言いたくないことだった。
「……俺の勝手だと思うんだけど?」
俺は怒りを抑え、冷静な振りをして言った。佑介とは喧嘩したくなかった。
「そりゃあお前の勝手ですよ。でもよ、俺達二遊間だったじゃん。相棒で幼馴染である俺にはさ、言った方がいいんじゃない?」
正論である。でも、言えない。自分の恥を暴露するような真似はできなかった。
「お前……まさか、アンダー15のあれ引きずってんの?」
佑介は真顔で俺の痛いところをついてきた。
「……お前って本当に無神経だよな」
「は?」
「誰にだって言いたくない一つや二つあるんだよ!それをしつこく聞きやがって!いい加減にしろ!」
俺は怒ってしまった。はっと我に帰ると佑介は驚いて固まっていた。
「すまない……。」
俺は謝り、固まっている佑介を置いて、移動教室に向かった。
なぜ、あんなことを言ってしまったのか。俺は放課後反省していた。あんまり触れられたくない事とは言えど、あそこまで言う必要があったのだろうか。やはり野球をやめてから色々変わっている気がする。まあ、野球をやめて後悔はしてないが……。
明日謝ろうとは思った。でも、このままの方がいいんじゃないかなとも思った。そしたら佑介は二度と俺に話しかけることはなくなるだろうし。結論が出ない。俺は帰路をゆっくり歩いた。