8話 リューネの実力
そして翌日。
いつも通り授業を終えたわたしは、決闘の場である運動場へと一人歩いていた。
結局戦うことになっちゃったけど、わたし勝っても負けても得がないんだよなー。
あまり気は進まないけど、昨日のローレンシアの張り切っている姿を見たら今更中止とも言いだせない。
「……まあ、頑張ろっかな」
わたしはそう呟いて運動場へと乗り込んだ。
運動場にはローレンシアと、立会人としてフィラちゃんがいた。
なぜかローレンシアは傘を持っている。今日は晴れてるのに、なんでだろう。
「今日はお越しくださりありがとうですわ」
「それほどでもー」
ローレンシアのお辞儀はとても綺麗だ。
優雅で流麗。同性のわたしでさえ目を奪われてしまう。
ローレンシアと自分を比べると、礼節の差がはっきりわかってちょっとへこむよね。
そしてへこんだ自分に興奮する。
「さあ、戦いましょう。ルールは相手を気絶させるか、まいったを言わせた方の勝ちですわ。ただし本気で相手の命を狙いに行くのは駄目です。それでよろしいですか?」
「うん、いいよ」
そりゃあいくらなんでもこんな決闘で命までは賭けてられないよね。
そして、回復用の超高級ポーションもローレンシアが用意してくれたらしい。
そんなとこまで頭回ってなかったや。
しかもあのポーション、べらぼうのべらんぼうに高いやつだ。さすがローレンシア、お金持ち。
「では、最初の距離はどうします? わたくしが槍士でリューネさんが魔法使いですから、互いに得意な距離が違いますが……」
「まあ普通にいったら十メートルじゃない? 一般的にはそうだって聞いたことあるわ」
そうフィラちゃんが教えてくれる。
ていうかローレンシアって槍士だったんだ。てっきり剣士かと思ってた。
「わたしはそれでいいよ。ローレンシアは?」
「わたくしも構いませんわ」
互いに同意し、わたしたちは十メートルの距離をとる。
おお、思ってたより近いなぁ。くっきり顔が見えるや。
しかも槍士ってことは剣士よりリーチが長いから……そう考えると結構危ないかも。
「負けませんわ」
ローレンシアが黄色の傘をトンと地面に付けると、傘はみるみる形を変えて、立派な槍になった。
なにそれすごい!
黄色い槍は真っ直ぐにわたしの喉元を狙っている。
あの槍絶対高いやつだ。さすがローレンシア。
「双方、準備は良いかしら?」
フィラちゃんがわたしたちに問いかける。
「いいですわ」
「いいよ」
「では……決闘、開始!」
声が上がった瞬間に、ローレンシアはわたしに接近してきた。
魔法使いに対する対処法としては一番メジャーなものだ。
すなわち――接近戦。
魔法使いというのは基本的に身体能力があまり高くない。
そして魔法を発動するためにはどうしても少しタイムロスが生じてしまう。
よって、剣士や槍士に接近戦に持ち込まれるとなす術がないのだ。
そしてそのお手本とでもいうように、わたしが魔法を発動する前にローレンシアの槍の間合いに入ってしまう。
「やぁっ!」
掛け声とともに突き出された槍は、わたしの想像以上に鋭い筋だった。
この子、ちゃんと強い……!
お金持ちの道楽とかそんなんじゃなく、絶えず努力していなければこの槍筋にはならない。
わたしはそれを避けず、そのまま生身で受けた。
わたしのお腹に槍が突き刺さる。
「くぅぅ~っ!」
ああ、槍にわたしのお腹をぐりぐりされてるぅ~!
気持ちぃぃ~!
わたしの頬は赤く染まり、ハァハァと荒い息が漏れてしまう。
「ちょっ、大丈夫ですの!? まさか避けられないとは思わなくって……す、すぐに回復を――」
「ああ、大丈夫。必要ないから」
どうやらローレンシアはそれを苦しんでいると誤解したみたいだ。
慌てるローレンシアに、わたしは告げる。
「わたしは喜んでただけ、これくらいじゃ苦しくもなんともないよ。むしろ心地いい痛み」
「でもあなた、血が……」
ああ、そっか。気持ち良すぎて魔法使うの忘れてた。
わたしは魔力を解放し、回復魔法を発動する。
「な、なんですのその魔力量……っ!」
絶句するローレンシア。まあ、わたしの魔力量はかなりのレベルだから無理もないか。
さて、どのくらいの魔力を込めればいいかなっと。
うーん……調節するの面倒くさいし、自動回復しとけばいっか。
わたしが魔法を使うと、傷は一瞬できれいさっぱりなくなった。
「まだまだ勝負はここからだよ?」
「……望むところですわ!」
ローレンシアはわたしの魔力量に驚きながらも意思を挫けさせない。
そういう人、わたし好きだよ!
わたしはローレンシアの槍を避けることもできないので、ただただなす術もなく攻撃を受けてしまう。
「やあぁっ!」
「んんっ……!」
「せいっ!」
「んあぁ……!」
「たあっ!」
「あぁあ……!」
「なんであなた全部気持ち良さそうなんですの!?」
「え? だって気持ちいいものは気持ちいいから……」
なす術もないってところが特にいいよね。
こう、自分ではどうしようも出来ない感じが最高にクール。
とはいえローレンシアの猛攻は中々のものだった。
わたしはローレンシアを評価する。
「はぁ、はぁ……」
ローレンシアも息が上がってはいるけど、大したものだよ本当。
おかげでわたしもすごい興奮したよ!
「はぁぁあっ……はぁぁあんっ……!」
「……なんだかあなたの疲れ方、わたくしと違いません……?」
「え、そうかなぁ?」
「もういいですわ。こうなったら、一撃で決めに行きます……!」
そう言ってローレンシアは大きく槍を引く。
あ、今ならチャンスかな。
「じゃあわたしもそろそろ攻撃していくねー?」
わたしは自動回復を使いながら、並行で攻撃魔法も展開していく。
魔法を並行で使用するのはかなり緻密な魔力コントロールがいるので、集中しなければならない。
だから並行して魔法が使えるようになれば一流とも言われている。
でもわたしは別。
異常な量の魔力を活かしたごり押しで、無理やり同時に魔法を使うことができるのだ。
わたしは自分の掌に、雷魔法を形作る。
魔力の調節は難しいから……思いっきり籠めちゃえ!
一応殺してしまわないことだけ注意して、わたしはハァッと魔力を籠めていく。
その結果、わたしの目の前には直径一メートルほどの雷魔法の塊が出来た。
「な、なんですのその魔法……魔力が篭り過ぎでは?」
「いっくよー!」
わたしはそれをローレンシアに向けて投げつける。
ローレンシアの槍と雷魔法がぶつかり合い、激しい光が瞬いた。
……あれ、やりすぎた?
少し不安になったわたしの視界が段々とクリアになる。
光が消えた後には、ボロボロになった傘を持つローレンシアの姿があった。
傘で身体を支えてはいるが、特に大きな傷は負っていないようだ。
「ま、負けません……わたくしはまだ負けませんわ……!」
ローレンシアは震える腕で、すでに槍から傘へと戻ってしまった武器を持ち上げる。
「すごい、すごいよローレンシア!」
まさかあれを受けてまだ立ち向かってくる人が同学年いいるなんて、わたし感激だ!
嬉しくなったわたしは、先程の雷魔法よりも二回り大きな火魔法を作りだす。
「今度はこれ、いってみるね?」
「……え? まだそんな魔力が?」
それを見たローレンシアは口を半開きにし、傘をすとんと地面に落とす。
そして震える声で降参と自らの敗北を告げたのだった。