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7話 賭けるべきもの

「ふんふふふーん」


 わたしは鼻歌を歌いながら下着を履いていく。

 あ、いつも裸でいるわけじゃないよ?

 今はお風呂からでたばっかり。だから今は裸、そういうこと。

 いくらわたしだって、誰が来るかわからないのに部屋で裸でいる度胸は無い。


 そんなことを考えていると、部屋の扉が開く音がした。

 きっとフィラちゃんが帰ってきたんだろう。


「リューネー? いないのー?」

「あ、わたしここだよー」


 わたしは脱衣所からフィラちゃんに返事をする。

 フィラちゃんの足音がぺたぺたとこちらに近づいてきた。


 わたしは縞々ぱんつだけ履いたまま、扉を一枚隔ててフィラちゃんと向かい合う。

 なんかドキドキするね。


「あ、お風呂入ってたの? 開けても大丈夫?」


 フィラちゃんが扉をノックしてくる。


「うん、いいよー」


 わたしがそう答えるとガチャリと扉が開けられ、わたしはフィラちゃんと目が合った。

 半裸のわたしを見て、フィラちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。

 わぁ、フィラちゃんタコみたい。


「きゃあっ! な、なんでよ! ちゃんといいかどうか聞いたでしょ!?」

「うん、だからいいよって」

「!? どういうことよ!?」

「うーん……見て欲しかった、みたいな?」

「ついていけないわ……」


「せめて下着はつけて」と言われたので、わたしはスポーツブラをつける。

 そして下着をつけたわたしは自分なりの悩殺ポーズでフィラちゃんを誘惑した。


「どう、わたしの身体。欲情する?」


 そう言いながら投げキッスを披露する。


「いや、あたし女よ? するわけないでしょ」

「そっかあ」


 そりゃそうだ。

 わたしだって女の子の裸見ても欲情は……するかもしれないけど、恋愛感情的な意味ではさすがに好きにはならない。

 でも……。

 わたしはぺたぺたと自分の身体を触ってみる。

 十五歳にしては起伏がないというかなんというか……残念な体つきなような気がする。


「……でもあんた、綺麗な肌してるのね」


 改めて直面した悲しい現実にわたしが項垂れていると、フィラちゃんがぼそりと言った。


「! 触る? 触る?」

「なんで嬉しそうに近づいてくるのよ……」


 笑顔で近寄るわたしに引いた顔のフィラちゃん。

 そんな顔も可愛いよ。


「でも触るでしょ?」

「……まあ、触るけど」


 フィラちゃんの手が私の横腹に触れる。

 優しく撫でるようにつぅと線を引いた触り方は、とてもくすぐったいものだった。


「本当に綺麗ね……」


 フィラちゃんはわたしの身体に顔を近づけ、繰り返し繰り返し横腹を擦る。

 最初はなんとか耐えられたけど、そろそろくすぐったさが限界だよぉ……!


「……んっ……あぁんっ」

「ちょっ!? へ、変な声出すのやめなさいよ!」


 あ、フィラちゃん離れちゃった。


「ごめんごめん、ついつい楽しくなっちゃって」

「あ、あたし部屋で待ってるから! リューネのバカっ!」


 怒らせてしまった。

 反省しなきゃ。

 ……でも困った顔してるフィラちゃん、かわいかったなぁー。でへへ。






 数分後。

 ちゃんと服を着て脱衣所を出たわたしは、フィラちゃんのいるリビングへと舞い戻る。

 頭にはタオルを被ったままだけど、そのくらいは大丈夫だよね。


 わたしの顔を見たフィラちゃんはさっきのことを思い出したのか、少し頬を赤くした。かわいい。


「それで、何の用だったの?」

「剣士科のローレンシアって子が、あんたに用があるらしいのよ」

「ローレンシア?」


 聞いたことない名前だ。

 少し頭の中を探ってみても、てんで記憶にない。

 そのローレンシアさんが一体わたしに何の用があるのだろうか。


「外に待たせてるから、ちょっと待っててね」


 そう言ってフィラちゃんは外へと出ていく。

 戻ってきたフィラちゃんに連れだって入ってきたのは、金色の髪を縦ロールにした、いかにもお嬢様って感じの女の子だった。

 育ちの良さが前面に出てるし、胸も大きい。背はフィラちゃんよりちょっとだけ小さいかな?

 総評すると……かわいい!

 でもこの子はちょっとわたしのご主人様候補とは違うかな。ビビッと来ないし。

 わたしは顔や見た目だけじゃなくて、その人から醸し出されるエッセンスを見てるからね。えっへん。


「なんだかずいぶんと騒がしかったけれど、大丈夫なのかしら?」


 目の前の可愛い子はわたしとフィラちゃんを見て言う。

 こっちを気遣えるなんて、優しい子だ。

 わたしはそれに笑顔で返した。


「心配してくれてありがとう。ちょっとフィラちゃんに半裸姿を見られて肌を触られただけだから大丈夫だよ!」

「!? フィラリスさん、あなた何してらっしゃるの!?」

「違っ、そういうのじゃないわよ!? ちょっとリューネ、それじゃあたしが変態みたいじゃない!」


 フィラちゃんがわたしの肩をゆする。


「え、フィラちゃんって変態じゃないの?」

「違うわよ! あたしはノーマル! ノーマル中のドノーマルよ!」

「またまた~」


 わたしはフィラちゃんを肘でつつく。

 それを見ていたローレンシアは驚きから口に手を当てた。


「フィラリスさん、あなた……」

「違うのにぃ……!」


 フィラちゃんは項垂れる。

 かわいそうなフィラちゃん……。


「いったい誰がフィラちゃんをこんな目に合わせたんだ。許せないっ!」

「あんたでしょうがあああ!」


 あ、わたしか。てへっ。



 わたしは改めてローレンシアの顔を観察してみる。

 うーん……やっぱり見覚えはないなぁ。

 こんなに可愛い子なら一回見れば覚えてると思うんだけど。

 首をかしげるわたしに、ローレンシアは優美な動作で頭を下げる。


「わたくしはローレンシアと申します。あなたたちが最近仲良くしてらっしゃるイヴさんと同室ですわ」

「ああ、そうなんだ」


 ってことは、今日来たのもイヴ関連でかな?

 ローレンシアは口を開くのを躊躇するように、身体の前で指を組んでいる。その動作かわいいね。


「それでですね、お話というのはその……ず、ずばり、『イヴさんと仲良くしててズルい!』ってことなのですわ!」

「……え?」


 仲良くしててズルい? どゆこと?


「だってわたくしは同じ部屋なのに、全然わたくしと話してくれないんですわ! イヴさんに嫌われるようなことをした覚えはないというのに……」


 ローレンシアはしゅんと俯く。


「わたくしもイヴさんと仲良くしたいんですわ……」

「あー、イヴって結構他人に壁作るタイプっぽいもんねー」


 フィラちゃんが言う。


「たしかにそういうところはあるかも」


 多分魔法が使えなくなったときのことがあるから、人を信じづらいんだと思う。

 それは悲しいことだと思うけど、わたしがすぐにどうにかできることでもないしなぁ。

 時間をかけてゆっくり心の氷を溶かしていくのが一番だ。


「あとなにやら桜色の髪の毛のようなものを見ながらニヤニヤするようになってしまったのも、あなたたちが何かしたんじゃありませんの?」

「それについては本当にごめんなさい」


 まさかイブにそんな素質があるとは露にも思わず……。

 わたしはすごい化け物を呼び覚ましてしまったのかもしれない……。

 そしてその責任をとり、わたしはローレンシアの命令に従わざるを得なくなってしまう……。


「なにその展開! 最高だよ! 最っっ高だよぉ!」


 わたしは滾った。


「な、なにが最高なのかしら!? 急に大声出さないでくださる!?」

「あ、それ命令? 今の命令? ねえ、ねえってばぁー!」

「ひぃぃ……なんですのこの人……」


 ローレンシアはビクビクとおびえながらフィラちゃんの背に隠れてしまう。


「リューネ、ローレンシアが怖がってるから落ち着きましょ」

「命令して……誰かわたしに命令してぇぇぇ……」

「ゾンビみたいになってるわよあんた」


 やだ、フィラちゃんってば冷静!

 フィラちゃんの冷静さのおかげで、わたしも普通の精神状態に戻ることができた。

 えーと、要はローレンシアはイヴと仲良くしたいんだよね。


「うーん、正直わたしたちにはどうすることもできないと思う。こういうのって本人の問題だからさ。イヴには仲良くしてみたいって言ってみたの?」


 わたしはローレンシアに尋ねてみる。

 ローレンシアは再びしゅんと下を向く。


「言ってないですわ……。だって、もし嫌われたら悲しくてわたくし泣いちゃいます……」

「でも、自分から行かないと友達なんて作れないわよ?」

「さすがフィラちゃん、説得力があるね」

「どーせあたしはここにくるまで友達いませんでしたよーだっ!」


 いーっと歯を見せてくるフィラちゃん。

 それを見たローレンシアがクスリと笑う。

 うわ、笑い方まで上品。すごいなぁ……。


「お二人は仲がよろしいんですのね」

「うん、まあね」

「そしてイヴさんとも仲がよろしいと」

「うん」

「許せませんわ!」

「なんで!?」


 情緒どうなってるのローレンシア。

 わたしあなたの沸点が分からないよ。

 ローレンシアはキッとわたしを鋭い目線で見つめ、ビシリと指差す。


「だからわたくしはリューネさんに、決闘を申し込みます!」

「け、決闘?」

「はい。わたくしが勝ったら、わたくしもこの部屋に遊びに来るのを許可してほしいのですわ!」


 ……え、別に今でも勝手に来てくれていいよ……?

 わたしの許可とかいらないよ?


「でも決闘ってことは、リューネが勝ったらあんたは何かしてあげられるの?」

「は、もちろんです」


 ローレンシアはコクンと頷く。

 でもわたし、特に欲しいものもないんだけどなぁ……。

 わたしが欲しいのはご主人様だけだし。

 ローレンシアって裕福そうだけど、もしお金とか言われたらそれは断らなきゃね。

 多分本人が稼いだお金じゃないだろうし、そういうお金を賭けるのはよくないと思うから。

 さて、ローレンシアは一体何を賭けてくれるのだろうか?


「わたくしが負けたら、リューネさんの召使いになりますわっ!」

「!? なんで召使いなの!?」

「よかったじゃないリューネ、召使いが増えるかもしれないわよ」

「嬉しくないぃー!」


 わたしが欲しいのは召使いじゃなくてご主人様! ウェルカムご主人様ぁー!

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