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59話 体験入団

 それから数日後。


「よく来てくれたな、リューネ。歓迎するよ」

「今日はよろしくお願いしますっ!」


 わたしは騎士団に一日体験入団に来ていた。

 騎士団の人々はやはり忙しいらしく、中々都合が合わずに少し時間が空いてしまったけれど、なにはともあれレオナルドさんが優しくわたしを迎え入れてくれて、一安心だ。



 レオナルドさんに連れられて、わたしは騎士団専用のグラウンドまでやってくる。

 騎士団の中ではこのグラウンドは修練場と呼ばれているのだ、と説明してくれる。

 レオナルドさんの横に並んだわたしは、レオナルドさんの直属の部下の人たちと向かい合う形になった。

 部下の人たちは総勢十五人。見た感じ二十代の人が十人ほどで、残りが三十代の人という感じだ。


「今日一日騎士団の訓練を共に行うリューネだ。リューネ、自己紹介してくれ」


 レオナルドさんがわたしに話を振る。

 十五人の視線が、全てわたしに集まった。

 エリート中のエリートだけあって、その視線もなんだかすごい威圧感に思えてしまう。


「りゅ、リューネですっ。よろしくお願いしますっ!」


 加減がわからなくなっていたので、思いっきり頭を下げる。

 地面に着きそうなくらいまで下げたあと頭を上げると、騎士団の人たちは目を丸くしてわたしを見ていた。

 なんだろう、変なことしちゃったかな……?


「か……」

「か?」

「……か、かわいいっ!」


 瞬く間に騎士団の人たちはわたしを取り囲む。

 わわっ、なにこれ! ど、どうなってるの!?

 混乱するわたしに、騎士団の人は口々に質問を投げかける。


「こんな子供が騎士団に!? すごいね君!」

「あ、ありがとうございます……?」

「リューネちゃんって言うの? 何歳?」

「じゅ、十五歳です」

「わっか! 子供じゃん! レオナルド団長、そういう趣味が――」


 そこまで言った団員の頭を、レオナルドさんがボカンと叩いた。


「馬鹿なことを言うんじゃねえ。……ったく、いいか? リューネは別に依怙贔屓でここにいるわけじゃねえぞ。純然たる実力でここにいるんだ」


 王様と話す時と違って、ぶっきらぼうな言葉遣いだ。

 きっとこっちがより素に近いのだろう。

 だがその内容については、皆あまり納得できていないようだった。


「実力っていっても……まだこんな小さな子ですよ? さすがに無理があるんじゃ……」

「まあ、そう思うのも無理はないか。リューネ、良ければうちの馬鹿どもに一発見せてやってくれるか?」

「もちろんです。じゃあ、雷魔法で」


 この国の中でも一握りの凄い人たちに魔法を見て貰えるなんて、めったにないチャンスだ。

 よーっし、張り切っちゃお!

 わたしは魔力を解放する。

 そして、それを圧縮していく。

 ここの圧縮具合で魔法の出来が決まるんだ、気合入れなきゃ!


「むむむ……」


 膨大な魔力を凝縮し、凝縮し、それを雷魔法に変える。

 そしてそれをグラウンドの真ん中目掛けて発射した。


「やぁあっ!」


 まず生じたのは、まるで太陽が間近にあるような強烈な閃光。

 それとほぼ同時に、鼓膜が裂けるほどの轟音。

 本物の雷の数倍の光と音が、グラウンドの真ん中で起こった。


「ふぅ、まあまあですね」


 九十点ってところかな。凄い人に見られてる緊張感の中にしては上手くいった方だろう。

 でも、きっと騎士団の人からすればこのくらい普通なんだろうなぁ。

 そう思って顔を見まわしてみる。

 予想とは裏腹に、皆目を点にして驚いていた。


「……え?」

「地面、抉れてるんだけど……」

「団長……ヤバくないすか?」

「これがこの子の実力だ。わかったら負けないように武を磨け」


 どうやらわたしの魔法は、威力だけなら充分騎士団でも通用するレベルらしい。

 まあ、魔力量なら誰にも負けるつもりはないし、驚かれるのは嬉しいね。

 レオナルドさんはわたしに寄って来ると、わしゃわしゃと頭を撫でてくる。


「よくやってくれた。最近自負が強くなりすぎてたからな。コイツラの将来の為にも、ここらで一つ鼻を追っておきたかったんだ。感謝するぞ、リューネ」

「いえいえ、それほどでも」


 レオナルドさんの手はゴツゴツしてて大きかった。強そうな手だなぁ。

 と、団員の一人が不満を口にする。


「あ! 団長、ズルいっすよ! 俺もリューネちゃん撫でてあげたいっす!」

「駄目だ。これは団長特権だからな」


 そう言って勝ち誇った顔でわたしの頭を撫でるレオナルドさん。

 その顔を見た団員の人は、白くなるほど唇を強く噛みしめた。


「団長のロリコン!」

「……あ?」

「やべっ、団長が怒った! 退散!」

「待てこら!」


 二人は追いかけっこを始めてしまう。

 ……騎士団ってもっと厳格なイメージがあったんだけど、なんだか子供みたい。


「ねえリューネちゃん」

「はい?」


 後ろから、違う団員の人が話しかけてきた。


「私も撫でていいかしら?」


 どうやら団長がわたしから離れるのをずっと待っていたようだ。

 そこまでしてわたしを撫でたいんだ……。

 きっと小さな子供と触れ合う機会がないんだろうなぁ。

 ……って、わたしは小さな子供じゃないよ! もう十五歳なんだからね!

 でも、この女の人の楽しみにしている表情をみたら、断ることは考えられなかった。


「はい、もちろんいいですよぅ」

「ありがとう! あぁ、可愛いわぁ……子供が欲しくなってきちゃう」


 わたしはワシャワシャと頭を撫でられる。

 わたしも気持ち良くてこの人も喜んでくれて……うへへ、ウィンウィンですね。


「俺も撫でていい?」

「あたしも!」


 ドンドンと人が寄ってきてしまった。

 撫でられるのは嫌いじゃないけど、そればかありやられるのはどうだろう……。

 やっぱりもっと他のこともやってほしいよね……そうだ!

 わたしは彼らに言う。


「良いですけど、何人かに一人は撫でると見せかけて拳骨とかやってくれるとわたしも楽しいので、ぜひお願いします!」

「……え、何それ」

「あ、別に拳骨じゃなくても、目つぶしでも構いませんよっ!」


 皆も楽しい、わたしも楽しい!

 最高の好循環だね!


「……俺、撫でるの遠慮しとこう」

「あ、あたしも……」


 しかし、皆わたしから離れていってしまう。

 そして各々で訓練を始めてしまった。

 あれ、な、なんで!? 折角色々してもらえると思ったのに!

 もう、いじわる! 大人って汚いよ!




 それから十分ほどたっただろうか。

 わたしは騎士団の人たちの訓練を見て回っていた。

 色々工夫がされていて、とても面白い。

 その中で、わたしは一つの訓練に目を付ける。

 二人がネットを挟んでボールを打ち合っていた。


「これ、どういう訓練なんですか?」


 近くで休憩していた人に尋ねる。

 正直遊んでいるようにしか見えないんだけど、でもやっている人は真剣だし……何を目的とした訓練なのかな。


「ああ、あれはボールを割らずに打ち合う訓練よ。適量の魔力を込めないと破裂するボールを使っているの。ただし、魔力を込め過ぎても破裂しちゃう。加減が難しいのよ。俊敏性と、動きながら正確に魔力を練る練習になるわ。実践だと止まって魔法を撃つ機会は中々得られないからね」

「なるほど……やってみてもいいですか?」


 今のままじゃ頭を撫でてもらっていい気持ちになっただけだし、それじゃここに来た意味がない。せっかく凄い人たちが集まってるんだから、今日一日で何かを吸収したい!

 そんな気持ちが伝わったのか、お姉さんはわたしと一緒にその訓練をしてくれることになった。優しい!


「じゃあ、いくわよ? まずはゆっくり行くから、ボールの中に入っている魔力量を良く見極めてね?」


 そう言うとお姉さんはポーン、っとボールを高く飛ばす。

 まん丸のボールはふわふわとわたしの元に落ちてきた。

 わたしの場所目掛け一寸違わずに落ちてくるボールの魔力量を観察する。

 ……うーん、全っ然わかんない!

 騎士団の人は皆このボールが持ってる魔力量がわかるの!? わたしには見当もつかないよ!

 どうしよう……とりあえず、適当にこのくらいで!

 わたしは落ちてきたボールに触れる。その瞬間、ボールは破裂してしまった。


「あっ!」


 見るも無残になってしまったボール。

 もう少し魔力を押さえた方がよかったんだ……うーん、難しい。


「これ、わたしには難しすぎるみたいです。皆さん普通にやってるからもっと簡単なのかと思ったんですけど、すごいですね!」


 わたしはここに来て初めて尊敬の目を向ける。

 正直ここまでは半信半疑だったけど、やっぱり凄い人たちだったんだ!


「リューネちゃんは魔力量は凄いけど、魔力コントロールは苦手みたいね」

「そうなんです。わたし、おしりぺんぺんですか?」

「そうそう、おしりぺんぺん……ん? おしりぺんぺんって何?」

「わたしがミスをしたので、罰を受けないと。それともしっぺですか? でこぴんですか? グラウンド十周ですか? どれでもドーンと来いですよ!」

「……リューネちゃん、変わってるね」

「そうですか?」


 罰が欲しかったんだけど、訓練で失敗してもそういうのはないみたい。残念だなぁ。




 それからお昼休憩が入り、午後の訓練を始めようとしたところで、レオナルドさんが全員に言う。


「誰か、俺と戦いヤツはいるか?」


 すると、多くの人たちが首をブンブンと激しく横に振った。


「レオナルド団長と? 絶対嫌ですよ。負けたら罰があるんでしょ?」


 その様子を見て、レオナルドさんはガックリと肩を落とす。


「おいおい、騎士団たる者がそんな弱気でいいのか? まったく、情けない」

「知らないんですか団長、自然災害に人間は勝てないんです」

「俺は自然災害じゃねえぞ」


 その後も何人かに声をかけていくレオナルドさんだが、応える人は誰もいない。

 戦うだけならいいのだが、負けた後にきつーい罰ゲームがあるようで、それが嫌だという人がほとんどだった。

 罰ゲーム……罰ゲームかぁ……!


「はいっ!」

「お? どうしたリューネ、何かあったか?」

「わたし、レオナルドさんと戦ってみたいです!」


 勝てれば凄いし、負けても罰ゲームを受けられる……わたしにとって損が全くないよ!

 これはもう、戦わせてもらうしかないでしょ!

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