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49話 怪談話

 そしてあっという間に時間は過ぎ、夜。

 わたしたちはすでに布団に入っていた。

 さすがに二日続けてまくら投げをやる気はしない。

 あのあと、様子を見に来た先生に「うるさいっ!」って怒られちゃったからね。セリア先生も一緒に。

 先生が怒られてるところなんて初めて見たよ。


「でも、何もしないというのも退屈ではありませんか?」


 布団からひょこっと顔だけ出したシアちゃんが言う。それももっともだ。

 食材探しで疲れてはいるし寝ようと思えば寝られるけど、せっかくの林間学校だもんね。

 できるだけたくさんの思い出を作りたいと思うのが自然だよ。


「なら、怪談話とかどうじゃ?」


 リズっちが眠そうに瞼を擦りながら言う。

 それにイヴが食いついた。


「いいじゃん、ボク好きだよ!」


 その腕には、出発の時のあの人形が抱えられている。

 相変わらず目は窪んだまんまだ。

 その人形の存在自体が一番の怪談みたいなとこあるよ。実際にイヴは霊的現象に巻き込まれてるって話だし。

 イヴはかけていた布団をどかし、敷布団の上に座り込んだ。

 もう怪談話をする気満々のようだ。

 ……人形の声とか聞く様ような体験して、よく平気で怪談話しようと思えるなぁ。わたしだったら絶対気味悪くなっちゃうと思うけど。

 わたし、この五人の中で一番男らしいのは間違いなくイヴだと思うよ。


「まあ、イヴがそれだけやりたいって言うならいいけど……でもあたし、怖いの苦手なんだよね……。……トイレとか、行きたくなったら付いてきてよね?」


 フィラちゃんはこんなところでもかわいいポイント稼いでくるねぇ! やりますねぇ!

 まあ、ここまで来たら怪談話をするのは決まったようなものだ。

 わたしたちは布団を払いのけ、敷布団の上に座る。

 どうせなので、いいだしっぺのシアちゃんの布団の上に円になることにした。

 うへへ、まだほのかにシアちゃんの身体の熱が布団に残ってますねぇ……。

 シアちゃんに気取られないようそんなことを思う。

 ばれないように慎重に。まあ、ばれて軽蔑されるのもまたいいものなんだけどね?


 しかし、いつまでたってもリズっちが布団から出てこない。

 そんなリズっちの布団を、フィラちゃんが剥いだ。


「ほら、リズリズも起きるわよ? ……リズリズ?」

「すぴー……すぴー……」


 えええ、さっきまで起きてたじゃん! もう寝ちゃったの!?


「……起きないと、ぺろぺろしちゃうぞ?」


 リズっちの耳元で言ってみるけど、それにも反応がない。


「駄目だ、本当に寝ちゃってるみたい」


 狸根入りだったら罰として耳の穴ぺろぺろの刑だったのに。残念。


「じゃあしょうがないね。四人で話そうか」

「なら、まずはわたくしからいきますわ」


 最初はシアちゃんが話すようだ。


「昔、わたくしが友達から聞いた話なんですけれど」


 シアちゃんが話してくれたのはお墓参りの話だった。

 お墓参りに行ったら霊に出会ったという、ありがちながらも王道な話だ。

 話自体はそこそこ怖かったけど、シアちゃんの優しい話し方のおかげでそれほどでもなかった……かな?


「うぅぅ……」


 フィラちゃんはそうは思わなかったみたいだけど。

 どんだけ怖がりなのさフィラちゃん。

 そしてイヴはというと、なぜか難しそうな顔で腕を組んでいた。


「どうかしたの、イヴ?」

「いや……ねえローレンシア。今の話って作り話じゃない?」

「!? な、なんでですの!?」

「だって、友達から聞いた話って……ローレンシア、友達……」

「あっ……そ、それは……」


 何か言い訳を探したようだが、それもむなしく、シアちゃんはがっくりと項垂れる。

 ドリルロールの金髪が儚く揺れた。


「……ごめん、言わなきゃよかったね。で、でも、話自体は本当に怖かったよ?」

「……いえ、いいんですの。わたくしが見栄を張ったのが悪かったのですわ……」


 ……この空気もある意味怖いっ!

 わたしがイヴに「どうかしたの?」なんて聞かなきゃよかった! ごめんねシアちゃん、イヴ!

 うぅ、すぴーすぴー寝てるリズっちがなんとなく羨ましく思えてきちゃったよ。

 鼻ちょうちんまでつくっちゃってさ!

 生意気だぞぉ、起こしてやれ! えいっ!

 わたしはリズっちの鼻ちょうちんをパンッと割ってやる。


「むっ? ……すぴー……」


 眠りが深いっ!

 駄目だ、起きそうにないや。

 くそー、流れを変えてやる!


「はいはいはい! 次わたし行く! よーっし、怖い話するぞー!」


 わたしは明るい感じで言う。

 怪談なのに明るい感じにするのもどうかと思うけど、このままの雰囲気でやっても楽しくないからねっ。


「……折角ですし楽しまなきゃ損ですわよね。よし、気持ちを入れ替えていきましょう!」

「リューネの話も期待してるよ! 今度はボク余計な口挟まないから!」


 二人も少しは元気を取り戻してくれたみたいだ。

 よしよし、よかったよかった。

 さて、ここからは怖がらせるように努力しなきゃね。

 声を作って……と。


「題名は、『ぺろぺろ公園』だよ……」

「すでに話の方向性がかなり限定されましたわね」


 怖い話なんてほとんど知らないからね。知ってる中で怖そうなのがこれしかなかったんだ。

 でもそこまで怖い話でもないから、その分雰囲気で怖がらせないと。

 いい感じに掠れた風な声を出して……。


「ぺろぺろ公園っていう公園の話なんだけどね? そこの公園で日が沈んでも遊んでいると、ぺろぺろ地獄に連れて行かれちゃうんだって……。それで、身体中ぺろぺろされて、綺麗になって帰って来るらしいよ……。おしまいだよ……」


 どう? 怖がってくれたかな?


「あんたの話、正直今だけはありがたいわ」


 さっきまで小動物のようだったフィラちゃんが、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 怖がってはもらえなかったみたいだけど、その安心したかわいい顔が見れたからいいや。

 フィラちゃんの気の抜けたみたいな顔、わたし好きなんだよねー。

 美少女の間の抜けたような、すっとぼけたような感じの顔って絶妙な可愛さでさ、もうご馳走様ですって感じだよ。

 多分ちょっと身近になるんだよね。そこが妙なんですよ。わかりますかフィラちゃん!


「……何よ、あたしの顔見つめて」

「これはわかってない顔してますねー。まだまだ修行が足りないぞ、ファイト!」

「なんで応援されてるのあたし」


 フィラちゃんには期待してるからね。


「さて、じゃあ次はボクの番で良いかな?」


 そう言いながら、イヴは右手で髪を掻き分けた。

 か、カッコいい……。好き……。


 それは置いておくとしても、イヴはなんか怖い話とかいっぱい知ってそうな気がする。

 あの人形とかのこともあるし。

 そう思いながら、イヴの布団に置いてある人形を見る。人形は自分の足で歩いていた。


「そうだなぁ……タイトルは『真夏の海』。この話で行くよ!」

「ねえイヴ」

「ある日……うん? どうしたのリューネ?」


 わたしは震える手で人形を指差す。

 皆の視線がそちらへ向かう。


「……あの人形ってさ、中に動力とか入ってたり……する?」

「……ううん」

「ってことはさ、あれさ」

「……うん、勝手に動いてる」


 うぇぇぇぇ!?

 ヤバいよ、本物じゃん! 本物の幽霊じゃんっ!


「凄い……今ボクとっても感動してるよ!」


 違う、怖がって! ここ一番怖がるところ!


「怖い怖い怖い怖いぃぃっ! えぐっ、あたし怖いの苦手なのにぃ……っ!」

「れ、冷静にですわ! こういう時に一番大事なのは、落ち着く事ですの!」


 二人もかなり焦っている。当たり前だ、だって怖すぎるもん。

 そんなわたしたちの前でゆっくりと歩いていた人形は、不意に歩くのを止めた。

 そして、ゆっくりと首を動かし始める。

 その方向はわたしたちのいる方で……。

 ――人形の窪んだ目と、わたしたちは目が合ってしまった。


「……ぎゃーーーっ!」


 半狂乱になるわたしたち。

 そんな中、ずっと眠っていたリズっちが声を上げる。


「……なんじゃうるさいのぉ」

「リズっち、人形! 動いてる! 怖い!」

「ん、人形? ぎゃぁぁーっっ! ……って、なんじゃ。魔物ではないか」


 驚いた後、なんでもなさそうな顔に戻るリズっち。


「え、魔物?」


 ……あれ、魔物なの?

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