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45話 感動は人それぞれ

「はぁー、逆上せたねぇ」

「まだくらくらするのじゃー……」


 長風呂を終え、脱衣所で着替えるわたしたち。

 わたしはもう大分回復してきた方だけど、リズっちは結構グロッキーだ。


「さすがにはしゃぎ過ぎたわね……」

「終わらせ時がなかったからね。仕方ないよ」

「わたくしも火照ってたまらないですわ」


 それを聞いたわたしはシアちゃんに目線を飛ばす。


「そういえばさ、『火照る』って言葉の響きってあれだよね。ちょっとえっちだよね」

「? ……そ、そうですの?」

「リューネの言うことは簡単に信じない方がいいわよ、ローレンシア」


 ええ、皆わかってくれないの!?

 絶対えっちなのにぃ……。


 そんな一幕もありつつ、わたしたちは無事に着替えを完了する。

 せっかく大浴場に入ったということで、皆でお揃いの浴衣姿だ。

 やっぱり皆似合ってる。素材がいいから、どんなもの着ても似合うんだよね。

 かわいいよ皆! こっち向いて!


「濡れた髪と湿った肌、素晴らしいよね……!」

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くわよ?」

「あ、はぁーい」


 わたしは皆の後について行く。

 わたしのこと置いて行ったら嫌だからね! 夜の館って、なんかちょっと怖いし!






 わたしは皆よりワンテンポ遅れて脱衣所を出る。

 すると、何やら皆が騒いでいる。

 なんだろうと見てみると、そこにはセリア先生がいた。

 もちろん、ただいるだけではわたしたちも驚く事なんてない。

 だけど先生が脱衣所の前に正座し、その膝の上に重石を乗せられ、目隠しと猿轡をされていたらさすがに話は別だ。


「ちょっ、ちょっと!? セリア先生が凄いことになってるんだけどっ!?」

「フゴフガガ、フガガゴフゴゴ」


 驚きの声をあげるフィラちゃんに、何かを返す先生。

 先生、何を言っているのか全く分かりません。


 でも、さすがにこの状況はちょっと異常だ。

 一体先生に何が……というかそもそも、先生にこんなことをできる人なんているだろうか。

 だって先生は国でも指折りの実力者で、二つ名持ちだよ……?

 そんな人にこんなことをできる人間がこの洋館にいるとは思えない。

 わたしはさらに深く考えてみる。

 ……となると、先生は自らこの状態を受けいれている?

 先生がこんなことをされるのを受け入れる相手といったら……ただ一人! シアちゃんだっ!


 そう結論付けたわたしはシアちゃんの方を向く。

 わたしの結論が間違っていなかったことを証明するように、シアちゃんは軽やかな足取りで先生の元に近づいた。


「折角ですから先生にも楽しんでもらおうと思いまして、目隠しをして重石を少々。ねぇ、先生?」

「フゴ!」


 元気よく返事する先生。

 すごいや、朝の威厳が嘘のようだよ。


「いくらなんでもさすがにやりすぎよ。……先生、大丈夫ですか?」


 そんな先生を見かねて、フィラちゃんが猿轡をとって重石をどけてあげる。

 フィラちゃんの声掛けに、先生はぶんぶんと首を横に振った。

 それを見て、フィラちゃんはシアちゃんの方を向く。


「ほら、先生だって本当は辛かっ――」

「もっとぉ……! もっとくださぁい……っ!」

「うん、心配したのが間違いだったわ」


 フィラちゃんは、ついていけない、と諦めを全身で表した。


「仕方ありませんわねぇ」


 シアちゃんは優美に微笑んで、先生の膝に再び重石を乗せる。


「ありがとうございます、ローレンシアさん……!」

「うふふ、どういたしまして」

「決めた。ローレンシアと先生との関係にはあたし口出さない」

「それがいいのじゃ。こやつらネジが飛んでおるぞマジで」

「ここまで行くとさすがのリューネも引いてるんじゃないのかな。ねえリューネ、キミはどう思う?」


 イヴに尋ねられたわたしは、万感の思いを込めて言う。


「羨ましいよぉ……!」


 なんで先生ばっかり……ズルい、ズルいよ!

 わたしのご主人様はどこにいるの! はやく現れて!

 白馬に乗って来なくてもいいから! なんならわたしを馬代わりにしていいから! 鞭で叩いていいから!

 叩いて! 早く、叩いて……! ねえ、叩いてよご主人様……。


 わたしは強く唇を噛みしめる。

 現実は無常だ。どんなに強く願っても、願いが叶うとは限らない。

 いや、きっと叶うことの方が格段に少ないのだろう。

 今目の前にある光景は奇跡のようなもので、わたしには生涯訪れることがないのかもしれない。

 でも、こんな現実でも、わたしは一生懸命に生きて行かなきゃいけないんだね……。

 わたしの頬に、一筋の涙がつう、と流れた。


「な、泣いてる……」

「意味がまったくわからんのじゃ……」


 わたしは皆の顔を見て、泣きながら、微笑む。


「それでも、わたしは生きるよ。……それでも、生きる。決めたから」

「あんたはこの光景を見て何の決意を固めたの?」


 生きる覚悟だよ、フィラちゃん。

 わたしは数度頷く。

 自分の出した結論を、胸の真ん中で理解するために。


「素晴らしいです、感動しましたわ!」

「ありがとう、シアちゃん」


 わたしはシアちゃんと熱い抱擁を交わす。

 その光景を、重石を乗せた先生も嬉しそうに目を細めて見上げた。


「リューネさん。あなたがそんな風に考えられるなんて、私も教師として鼻が高いです」

「セリア先生。先生がそんな風に理解のある人で、わたしも生徒として誇らしいです」


 わたしは先生の重石の上に正座で乗っかる。

 先生は一瞬苦悶の表情を浮かべ、そしてそれ以上の悦びで顔を満たした。

 わたしと先生は、至近距離で見つめあう。


「……ねえ、これって感動する空気なのかしら」

「ぼ、ボクにはわかんない……」

「放っておけばよかろ。それより妾はトイレに行きたいのじゃ。一人じゃ怖いから二人も付いてきてくりゃれ」


 ……かわいい!

 一人でトイレに行けないリズっちかわいいよぉ……!

 わたしは先生の重石の上から飛び降り、トイレへ行こうとするリズっちの前に立ちふさがった。


「リズっち! わたしが一緒に行ってあげるよ! 一緒に行こ! ね! ね!?」

「ひぃぃっ!? なんで急に元気になったのじゃ! くるでない、くるでない~!」


 しんみりしてる暇なんてないもんね!

 今を全力で楽しまなきゃ損だよ!

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