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39話 フィラちゃん

「あたしと戦ってください、先生」

「戦う……ですか。それは一対一で、ということですよね?」

「はい、そうです」


先生はフィラちゃんの目を見つめる。

蒼い目と赤い目、二つの目線が交差する。

やがて、先生は小さく息を吐いた。


「……生徒の頼みを聞くのも、迷える生徒を導くのも、教師の務めですからね。私でいいならお相手しますよ」

「お願いします」


先生とフィラちゃんは移動していく。

わたしは二人に後ろからついて行った。




「では、リューネさんは審判という形でお願いします。形式だけで良いですから」


外に出たところで、先生は言う。

本来は外に出てはいけないことになっているはずだが、『蒼姫』である自分がいれば問題ないとセリア先生が判断したんだろう。


「わ、わかりました。じゃあ……先生、フィラちゃん、準備は大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「ええ、大丈夫よ」

「それでは……始め!」


わたしの合図と共に、二人は武器を構えた。

フィラちゃんは剣。最近魔法で柄の部分を白から赤へと変えた剣だ。

対するセリア先生は斧。オールマイティーな先生は、日によって武器を使い分けているのだ。


まず走り込んだのはフィラちゃんだ。

走り込むことで剣に勢いを乗せようという魂胆だろう。


「まずは先手を――」

「とらせませんよ?」


しかし先生が一瞬で斧の間合いまで接近し、一撃を振るう。

遠目で見ていたわたしでさえ一瞬で移動したように見えたくらいだ。フィラちゃんにとっては突然目の前に先生が現れたみたいに思えただろう。


「ぐっ……!」


強烈な一撃を剣で受け、フィラちゃんの顔がゆがむ。

それでも剣を手放さないところはさすがだ。

しかも、傍目にはパワーでも先生と競り合えているように見える。


「やりますね、フィラリスさん。なら……」


先生は一度後退し、フィラちゃんから距離をとる。

そして距離を縮めようとしたフィラちゃんに、斧を投げつけた。


「!?」


予想外の行動にフィラちゃんの動きが一瞬固まる。

その隙を逃す先生ではない。

先生は驚異的な速度で投げつけた斧に追いつき、それを振るってフィラちゃんの剣を吹き飛ばした。


「さあ、これで終わり――!?」


次に驚いたのは先生だ。

なんせ、剣士科のフィラちゃんが火魔法を唱えてるんだから。

フィラちゃんが伸ばした腕の前に、燃える火球が現れる。

あの火球は、ここ数か月フィラちゃんが必死に特訓していたものがようやく形になった、いわばフィラちゃんの努力の結晶だ。


「いっけえええ!」


その火球が先生の元へと飛来する。

先生はそれを、斧で二つにぶった切った。


「まさか私に内緒で火魔法まで習得しているとは、さすがに予想外でした。……良く頑張りましたね、フィラリスさん」


フィラちゃんを称える先生。

その表情はとても柔らかく、つまりそれは勝負が決したことを意味していた。




「負けた……んですね」


フィラちゃんは自分の掌を見つめて言う。

その顔は部屋にいたときと同じ、ぼおっとしたものだった。


そんなフィラちゃんを見てさすがに変だと思ったのか、先生はフィラちゃんに近づく。


「フィラリスさん、焦ることはありません。あなたはすでに、私が同じ年のころよりもはるかに強いです。どうか焦り過ぎないよう――」


そんな言葉を、一人の先生の声が遮った。


「あ、学園長、こんなところに! 早く来てください、職員会議が始まりますよ!」

「……フィラリスさん、明日また軽く話でもしましょう。時間は必ず用意しますから」


フィラちゃんが重く受け止めないようにという配慮だろう。先生は軽い口調でそう言って、そしてこちらを気に留めながら呼ばれた方へと走って行った。







「フィラちゃん……」


フィラちゃんと二人きりになったわたしは、フィラちゃんに声をかける。

なんと声をかけていいかはわからなかった。

でも、ここで声をかけないなんて選択肢はなかった。


「リューネ。……負けちゃったわ。やっぱり先生は強いわね」

「そりゃそうだよ、先生は『蒼姫』だもん」

「……わたしは、弱いわね」


正直、びっくりした。

フィラちゃんが弱気なところを見せるなんて、今までなかったことだから。


「そんなことないよ。フィラちゃんは、強いよ?」


すぐにそう言えた自分を褒めてあげたい。

もちろん言葉は本心だけど、時として本心でさえ口から出てこないときはあるものだ。

でも今回はちゃんと言えた。ちゃんと自分の気持ちを伝えられた。


フィラちゃんはわたしの顔を見る。

いつも燃えるように赤いと思っていたフィラちゃんの髪と眼。それが、今日はなんだか大人しく見えた。


「ありがと。……ねえ、ちょっと話聞いてもらってもいい?」


フィラちゃんは言う。

何かを打ち明けようとしてくれているのかもしれない。

それなら……ううん、仮にそうじゃなくっても。

答えなんて、決まってる。


「うん、もちろん」


わたしは微笑んで、頷いた。

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