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32話 学校行事は突然に

 それから一か月がたった。

 国の偉い人に貰った家で、わたしたちは今日も楽しく生活を送っている。


 あ、もちろん遊んでばかりいるわけじゃないよ?

 学生の本分は勉強、だから今日もわたしたちは皆で学校に行くのだ。

 リズっちも特例として特進クラスへの編入が認められたので、わたしたち五人はほとんどずっと一緒にいる。

 それはとても楽しくていいんだけど、ご主人様候補との出会いがないのがちょっと不満だ。

 普段の学園生活だと中々出会いがね……。


 わたしは両手で頬付きをしながら教室で悶々とする。

 なんかイベントみたいなものがあればいいんだけどなぁ。

 そんな思いを抱えながら日々を送っているわたしの耳に、セリア先生の声が入ってきた。


「二週間後、林間学校に行きます」


 林間学校? ……林間学校!

 このタイミングでそんな行事があるなんて……!

 わたしは抑えきれずに立ち上がり、口を開く。


「先生! それってわたしがご主人様を見つけられるように、先生が計画してくれたってことですか!?」

「いえ、毎年恒例の行事です」


 毎年恒例の行事!


「……ってことは、この学園では毎年ご主人様探しのための行事が行われているってことですか!?」

「林間学校は自然と触れ合うことや生徒同士の仲を深めてもらうことが目的であって、ご主人様探しというのは目的ではないですね」


 なるほど。そこは生徒の自主性に任せるってことか。

 わたしは自分から行動できる生徒だからね! ご主人様探し、やるしかないでしょ!


「林間学校の場所はエラウドー森林で、期間は長めに七泊八日です。スケジュールは後日しおりを配りますので……」


 先生の説明が続く中、わたしは林間学校で出会えるであろう新たなご主人様候補に胸を躍らせるのだった。








「楽しみじゃなぁ、楽しみじゃなぁ~!」


 林間学校の説明を受けたリズっちはウキウキ気分だ。

 顔を朗らかに綻ばせ、体全身から音符が出ているみたいである。

 そんなリズっちを眺め、フィラちゃんは言う。


「リズリズって一万歳っていうよりも十歳にくらいに思えるわよね」

「!? なぜじゃ!」


 驚愕の表情でわたしたちに意見を求めてくるリズっち。

 皆フィラちゃんに同意見なわたしたちは顔を見合わせ、代表でイヴがそれに答えた。


「うーん……もう少し難しい言葉とか使ったら威厳が出るんじゃないかな」

「なるほど! さすがイヴじゃ!」


 リズっちはポン、と手を叩き、腕を組んで難しい言葉を考え始める。

 そしてそのまま十秒、二十秒……三十秒。


「……駄目じゃ、思いつかん。妾泣きそう……ぐすっ」


 リズっちはべそをかきはじめてしまった。

 そういうところが年下にみられる原因だと思うんだけど……でも可愛いからいいや。


「リズっち、大丈夫。悲しいならわたしの胸で泣けばいいよ」


 そうすればわたしはリズっちの匂いを嗅げるからね!

 至近距離ですーはーすーはーしちゃっても不可抗力だよね!


「うぅ……お主胸ないじゃろ……ぐすっ」


 おおぅ、泣きながら罵倒してくるのはさすがに予想外。

 ……でも、こういうのもいいねぇ。風情を感じるよわたし。

 この感覚を忘れないうちに、身体に染みつけておきたいよね。


「ね、ねえリズっち。今のもう一回言ってくれない?」

「なんであんた興奮してんの?」

「いやいやいや、何言ってるのフィラちゃん。わたし興奮なんてしてないよ? ……ぐふぇふぇ、でひひ」

「絶対してるでしょ」


 しまった、つい心からの笑いが漏れちゃった。

 咄嗟に口元を押さえるわたしを、フィラちゃんは半目で見てくる。


「興奮してない状態でそれなんだったら、あたしは今後あんたとの付き合い方を考えなきゃいけなくなるわよ?」

「え? それって友達からご主人様にクラスチェンジしてくれるってこと?」

「あらあら。同じご主人様仲間として、これからは密に情報交換していきましょうね」

「ちょっと待って違うから! あたしはリューネのご主人様にはならないから!」


 ちぇっ。


「折角シアちゃんも情報とかを教えてくれるって言うのに断るなんて、フィラちゃんにはご主人様になる気がないとしか思えない……」

「だからそうなのよ? あたしは最初からあんたのご主人様になる気は皆目ないの」

「……っ」


 フィラちゃんの口から発されたのは、強い拒絶の言葉。

 その言葉に、わたしの両眼にじわりと涙がせり上がってくる。

 唇が白くなるほど強く噛んでみても、一向に収まってくれない。


「えぐっ……ずびっ……」


 とうとうわたしは泣き出してしまった。


「え……ちょっと、リューネ?」

「ごめんね、フィラちゃん……。わたし、最低だよね……」

「い、いや、あたしそんなつもりじゃ……」


 腕で顔を隠して泣くわたしに、フィラちゃんは狼狽えたような声を出す。


「あーあ、泣かしたのじゃー」

「酷いやフィラリス」

「リューネさん、可哀想ですわ……」


 そんな三人の言葉を聞き、ますます焦るフィラちゃん。


「ご、ごめんって! ごめんね、リューネ?」


 そう言ってわたしの目の前で両手を広げる。


「フィラちゃん……っ!」


 わたしはその胸目掛け飛び込んだ。

 甘い匂いと柔らかい感触を感じる。

 なので、わたしはフィラちゃんのうなじをぺろりと舐めた。


「ひゃんっ!?」

「うへへ、隙を見せましたなぁ……」


 乙女な声を出しちゃってまあ……。最高ですねぇ……。


「……リューネぇぇぇっ……!」


 あ、ヤバい。これガチで怒ってるパターンのやつだ。


「あんた、どうなってるのよ! 今泣いてたのは演技だったの!?」


 激高するフィラちゃんに、わたしはブンブンと首と手を横に振る。


「ううん、本当の涙だよ? フィラちゃんにあんな風に強く拒絶されるの初めてだったから、嬉しくて涙がぽろぽろと」


 嬉しいはずなのに泣いて友達を困らせちゃうなんて、わたし最低だよねぇ。

 でもそんな自分も嫌いじゃないけど。むしろ好きっていうか大好きっていうか。


「拒否されたから嬉しくて涙がぽろぽろと……? 全っ然意味わかんないんだけど……」

「焦らなくていいですわ。でもそれを理解するのもまた、ご主人様の務めですわよ」

「ローレンシアのそのアドバイスはどこ目線なの!?」

「もちろん、ご主人様としての先輩目線ですわ」


 当然のように言ってのけるシアちゃんに、口をパクパクさせることしかできないフィラちゃん。金魚みたいで可愛い。

 ……あ、今フィラちゃんの口に指を近づけたら、もしかして噛んでくれるんじゃ?

 そんな発想を得たわたしはそっとフィラちゃんの口に指を近づける。

 噛んで! 噛んでフィラちゃん……!


「……何やってんのよリューネ」


 ああっ、寸前でフィラちゃんが正気に戻っちゃった!

 あと数秒早ければわたしの指はフィラちゃんに噛まれてたっていうのに……。


「まだまだ修行が足りないなぁ……」


 わたしは自分の修行不足を痛感し、ぽつりと嘆くのだった。




「そんなことよりじゃ! 妾は知っておるんじゃぞ! 林間学校といえばお菓子、お菓子じゃ!」


 リズっちが言う。

 たしかにこういう行事といえば、お菓子というのは大きな楽しみの一つかもしれない。


「そうだね。……よし、じゃあ今から皆でお菓子買いに行こうよ!」


 わたしがそう提案すると、皆了承してくれた。

 お菓子屋さんへと歩き始めたところで、ぼそりとシアちゃんが言う。


「ふふふ、腕が鳴り……いえ、腹が鳴りますわね」

「え?」


 シアちゃんってそんなこと言うキャラだった?

 どうやら他の皆には聞こえていなかったようで、わたしだけが立ち止まってしまう。

 そんなわたしに、シアちゃんは不思議そうな顔で手を伸ばしてきてくれた。


「どうしたんですのリューネさん、早く行きましょう?」

「う、うん」


 一抹の不安を感じながら、わたしは皆と一緒にお菓子屋さんへと向かうのだった。

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