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31話 結末

 数日後。

 今まで住んでいた寮の隣に、大きな家屋が建てられていた。


「えー、ここが皆さんの住む部屋になります」

「え、これが? ……これが!?」


 どう見ても五人用じゃないよね、軽く十人以上は住めるよねこれ。

 驚くわたしたちに、セリア先生が説明する。


「国のお偉いさま方が『もちろん願いはかなえるが、些か慎ましすぎる。才あるものにはそれ相応の投資をするべきだ』とおっしゃって、莫大なお金をかけた結果……こうなりました」

「偉い人って、変なところで馬鹿なのね……」


 正直フィラちゃんに同感だなぁ。


「こんなに豪華なのにぺろぺろルームはないんでしょ? あんまりこういうことは言いたくないけど、少しは一般人の感覚を持ってほしいよねー」

「それをまず持つべきはあんたよ」


 わたしは充分一般人だよ?


「リューネさん、ぺろぺろルームってなんですの?」

「ぺろぺろすることに特化した部屋だよ!」


 そう伝えると、シアちゃんは顎に手を置いた。


「なるほど……今度実家につくってみましょうかしら」


 それに反応したのは先生だ。


「……っ! ローレンシアさん、それってもしかして……!」

「ええ。あなたのためですわ、先生」

「ありがとうございます、ありがとうございます! その暁には必ずぺろぺろさせていただきますので!」

「ふふふ、楽しみにしてますわよ」


 わたしは二人の会話を聞き、ポッケからハンカチを取り出した。

 そしてそれを思いっきり噛む。


「きーっ! 羨ましいよぉ!」


 ズルいよ先生、自分だけご主人様見つけちゃってさ!

 わたしに見せつけてる訳!?


「ハンカチを噛むなんて、随分古典的ね」

「リューネ、ボク急にハンカチが欲しくなっちゃったからそれくれない? 早急に」


 イヴが手を伸ばしてくる。


「な、なんで?」


 なんか嫌な予感しかしないんだけど……。

 不安になるわたしに、イヴはいたって真面目な顔で言う。


「キミの唾液を採取したい」

「ひぇ」

「採取したキミの唾液とボクの唾液を混ぜ合わせたい」

「ひぇっ」

「それを頭から被りたい……へへっ」

「ひぇぇぇっ!」


 怖いっ! イヴが怖いぃっ!

 ……ああ、でもかわいいぃぃぃっ!




 先生は学校の運営がどうとかで校舎に向かってしまったので、わたしたちはとりあえず国から与えられた家に入ってみることにする。

 というか今更だけど、数日で家が建つってどんだけ魔法使ったんだろ。本当にすごいお金かかってそうだなぁ……。

 中に入ると、新ためてすごい大きさだと再確認させられた。

 一番思ったことは、天井が高いってこと。わたしが縦に五人くらいは入りそうな高さだ。


「すごいのう! すごいのう!」


 中に入って初めてわかるその感覚に、リズっちは目を輝かせてはしゃぎだす。


「リズっち、嬉しそうだね」

「そりゃそうじゃ! 一万年ぶりにできた我が家がこんなにスゴスゴなのじゃぞ!? こんなもの、嬉しくならない方がどうかしとるのじゃ!」


 やりばのない興奮を無理やり発散させるかのように、リズっちはその場で地団駄を踏んだ。

 なにこの可愛い生き物。本当に一万歳なの?


「あんた、子供みたいねぇ」

「なんじゃ、フィラリスか。べろべろべろ~!」


 リズっちが変顔をすると、フィラちゃんは一瞬動きが固まる。


「……なんであんたはいつもあたしにだけ変顔すんのよ!」

「ぎゃー! またフィラリスが怒ったのじゃー!」

「あんたが怒らせるからでしょうがっ!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人。仲良いなぁ。


「ねえねえリズっち、今一瞬フィラちゃん反応遅れたじゃん?」

「ぬ、たしかにそうじゃったのぅ」

「あれ、名前呼ばれるのにまだ慣れきってないからちょっと不意をつかれちゃったんだよ。ね、フィラちゃん?」


 わたしがフィラちゃんにウィンクすると、フィラちゃんはぷるぷると拳を握りしめた。


「なんでわざわざそれを言っちゃうの!? リューネ、あんた覚悟しなさい!」

「きゃー! フィラちゃんにぺろぺろされるぅ~!」

「しないわよっ!」


 えー、しないのかよぉ。




「あ、待って! 新居への引っ越し作業の一番大事な工程がまだじゃん!」


 わたしは大事なことを忘れているのに気が付いた。

 やらないと引越しが終わらない、とてもとても大事なことをわたしたちはあろうことか忘れていたのだ。

 そう、その工程とはずばり!


「ぺ――」

「ぺろぺろならしないからね」

「先回りされた!? や、やるねフィラちゃん……!」

「そりゃ、こんだけ一緒にいればあんたの考えそうなことなんてわかるわよ」


 その言い方、なんかドキドキするね。

 わたしは胸を押さえる。とくんとくんと脈を打っているのがわかった。

 ……あれ、これって皆からみたら、突然自分の胸を触りだした変態さんみたいに見えてるかも!? ……やばい、興奮してきたぁ!


「はぁ、はぁあ……っ!」


 わたしは悶えながら顔を上気させる。


「お主は急に興奮する癖があるのぅ」

「ご安心を、リューネさんの持病ですわ」

「なに一つ安心できんのじゃが……。そしてイヴ、お主は何をニマニマしておるのじゃ?」

「これからこの家に何百本とリューネの髪の毛が落ちていくんだと思うと、なんだかワクワクしてきちゃってね。ああ、楽しみだなぁ……!」

「イヴ、わたし人生にはもっと楽しいことがたくさんあると思うんだ」


 道を踏みちがえちゃ駄目。あなたにはまだ無限の可能性があるんだからね?




「皆、ちょっといいかの?」


 皆好き勝手にギャーギャー騒ぐ中、リズっちが少し真面目なトーンで声を上げる。


「どうしたのリズっち」

「今一度礼を言うておきたくてな。……皆、ありがとうなのじゃ」


 全員の目が集まる中、リズっちは一点の曇りもない笑みを浮かべて白い歯を見せた。


「正直メンツが濃すぎて一緒に暮らしていくのは不安もあるが……それでも、人と一緒に暮らせる日がくるなんて思ってもみなかったのじゃ! 妾、嬉しいのじゃ!」

「リズっち! わたしも嬉しいよ!」

「わたくしもですわ!」

「ボクもだよ!」

「あ、あたしも!」


 そう言って、わたしたちは顔を見合わせて笑った。

 わたしもお腹が痛くなるくらいに笑う。

 ご主人様も欲しいけど、こんな生活も悪くないよね。


「あ、隙ありぃ! フィラちゃんぺろぺろ~!」

「ぎゃー! やめなさいよリューネ!」

「えへへ、やめなーい!」


 これからもよろしくね、皆!

これにて一章完結です!

面白ければブックマーク・評価等していただければ幸いです!

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