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3話 人生懸けて

 朝。

 二段ベッドの下のベッドで私は目を覚ました。

 本当は野ざらしで寝たかったんだけど、フィラちゃんに本気で心配されちゃったからやめた。

 友達を不安にさせるわけにはいかないからね。

 それに自発的に野ざらしになったところで対して快感もないし。やっぱり誰かに命令されてこその野ざらしなんだよね。

 そんなことを思いながら目を擦る。


「うーん……うーん?」


 目の前に、フィラちゃんがいた。

 フィラちゃんはすぴーすぴーと健やかな寝息を立てながら、幸せそうに眠っている。

 か、かわいい……!

 いや、たしかに可愛いけど、今はそういうことじゃなくて!


「なんでフィラちゃんがわたしのベッドに?」

「うーん……おはよぉリューネ」


 フィラちゃんも起きた。

 寝癖が跳ねてるところがとても可愛いですね。とてもキュートです。

 そしていつもはキッとした目つきのフィラちゃんがとろんとした眼つきをしている、このギャップもポイント高めです。

 うーん、千点! 十点満点で!


 いつものわたしならこの光景に浸っているところだけど、今は聞きたいことがある。

 丁度いい、フィラちゃんも起きたことだしちょっと話を聞いてみることにしよう。


「フィラちゃん、なんで私のベッドにいるの?」

「え? ……あっ、ご、ごめん!」


 フィラちゃんは機敏な動きでわたしのベッドから飛び退く。


「さ、寂しくて、ついリューネの手を握りたくなっちゃって……。ご、ごめんなさいっ!」


 貴様はわたしを萌え殺す気か?


「全然気にしてないよ、友達だもん。むしろご褒美っていうかなんていうか」


 わたしが男の人だったら完全に落ちてるよこれ。

 女の子でよかったような、でもちょっぴり残念なような、そんな複雑な気持ちですわたし。


「ありがとう、リューネ! あたし、リューネと友達になれてよかったわ」

「……あっ!」


 それを聞いたわたしは、一つとてもいいことを思いついてしまった。


「何その顔。すっごく嫌な予感がするんだけど……」

「ねえフィラちゃん。許してあげたお礼に、代わりに私のお願い聞いてほしいっていうのは駄目かな」

「……うん、わかったわ。だってあたしたち友達だもん。お願いくらい聞いてあげる」


 さっすがフィラちゃん。人間ができてる。

 許可を得たわたしはウキウキしながらお願いした。


「じゃあわたしの悪口言ってみて!」

「わ、悪口?」

「うん。なるべく心に来るやつ」


 本当は心の底から言ってほしいんだけど、この際そこは妥協しようと思う。

 ここからわたし色に染めていけばいいしね。

 フィラちゃんは友達に悪口を言うのに悩んでいたようだが、約束してしまっている以上言うしかないと思い直したようだ。

 こういう律儀なところも剣士っぽい感じがする。

 フィラちゃんの桃色の唇が開かれ、魅惑の言葉が口にされる。


「へ、変態……。こ、これでいいの?」

「弱いっ!」

「弱いって何!?」

「あのさあフィラちゃん。それって全力?」


 わたしはフィラちゃんに問いかける。

 さすがに変態はないと思うんだわたし。

 変態に変態って言っても喜ばせるだけに決まってるのに。


「全力かと言われれば、違うかもしれないけど……。でも友達の悪口言うなんて、あたしにはできないよ!」

「その気持ちは嬉しい。でも遊びじゃないんだよ私はっ! これに人生懸けてるの!」

「じ、人生まで……?」


 当たり前だ。

 わたしにはこの生き方しかできない。不器用だから。

 わたしは生まれながらにこういうカルマを背負って生まれてきたんだ。

 なぜ普通の価値観を持つ両親からわたしが生まれ落ちたのかはわからない。

 でもこういう形でこの世に生を受けた以上、わたしはわたしのためにご主人様を探し出すのだ。

 わたしが、わたしであるために。


 ……なんか今のわたし、カッコいい……? うん、すっごいカッコいい!

 ほら、今だよフィラちゃん! カッコつけてる私を滅茶苦茶にこき下ろすのは今しかできないんだよ!


「もっとこう……ズンッってくるような一言を頂戴よぅ。涙を流して泣きたくなるような悪口を頂戴。じゃないともうクビなんだからねっ!」

「正直クビになりたい……」

「さあ、私をいたぶって! 大丈夫、フィラちゃんには絶対ドSの才能がある! 私が言うんだから間違いない! 自信持ってフィラちゃん!」

「褒められてこんなに嬉しくないのは初めてだわ……」


 両腕を開いてフィラちゃんの悪口を迎え入れる態勢を作ったわたしに、結局フィラちゃんは変態以上の悪口を言ってくれなかった。

 解せぬ。







「結局フィラちゃんは悪口言ってくれなかったなぁー」


 わたしは呟く。

 フィラちゃんは優しすぎる気がする。

 それがいいところでもあるんだけど、わたしたちは友達なんだから、四つん這いになって背中に座るくらいのことはしていいのに。

 そんなことを思いながらわたしは魔力を放出していた。


 今わたしは魔法科クラスでの本格的な授業が始まるまでの、オリエンテーションみたいな実技授業をしているところだ。

 まだ入学試験をやっている最中だからきちんとした授業は出来ないらしく、魔法科は全員集められて修練場で訓練しているのだ。

 ちなみに始まる前に周りを軽く観察してみたが、あまりピンとくる感じの人はいなかった。

 わたしのご主人様になれそうな人は思ったより少ないみたい。残念。


 それにしてもこの訓練……終わりがなくない?

「魔力が尽きるまで体内の魔力を放出し続ける」っていう訓練らしいけど、わたしの魔力量だと魔法も使わずただ放出しているだけじゃ一日かけてもなくならない気がする。


 わたしは周りを見回す。

 すでにわたし以外の人たちはへばって床に腰を付けていた。

 魔力量には自信があったけど、ここまで人と差があるとは驚きだ。


「おい、お前」

「はい、先生」


 もうわたしだけになったので、男の先生がわたしのところへとやってきた。


「あとどのくらい続けられるんだ?」

「そうですね……あと一日は絶対大丈夫だと思います。長ければ一か月くらいですかね。自分でもよくわかりません」

「……よし、もういい」


 先生は一瞬目を見開いた後、わたしにそう告げる。

 わたしはその言葉に従って魔力の放出をやめた。

 魔力の放出は辛くもなんともなかったけど、ずっとジッとしてたせいで身体が固まっちゃったや。

 軽くストレッチしとこーっと。


「天才というのは本当にいるんだな、と思わされたよ。見事だ」

「はぁ……」


 天才より変態の方が嬉しいんだけどなぁ。

 褒められるより罵られたいよね、やっぱり。


「今日の授業はこれで終了だ。以後は各自自由行動、解散」


 先生の言葉の直後わたしを待ち受けていたのは、押し寄せる同級生たちだった。


「凄いね君!」

「なんでそんなに魔力あるの!?」

「天才じゃん!」


 うわぁ、瞬く間に囲まれちゃったよぉ。

 しかも口々に褒めてくる。

 違う、私は罵倒してほしいんだって!


 途切れることなく浴びせられる言葉。

 わたしはそれらを脳内で勝手に変換する。

 凄いは役立たずに、魔力は性欲に、天才は変態に。

 すると、こうなる。


「役立たずだね君!」

「なんでそんなに性欲あるの!?」

「変態じゃん!」


 ……むふふ、興奮してくるねぇ!

 そんな称賛(罵倒)の中で、わたしの耳は気になるものを聞きとった。


「それに引き替えアイツは……」

「ねえ、あの子がどうしたの?」


 私はその発言をした少年の視線の方向を辿る。

 そこにいたのは白銀色の髪をした人だった。

 ボブカットにしていて、後姿だけでは男の子か女の子かもわからない。

 でもリューネセンサーにかかればあら不思議、一目瞭然なのだ。

 あの子は女の子、間違いない。

 さすがわたし、変態!


「アイツ、魔法が一切使えないんだよ。なんで魔法科に入ったのかわかんないよなー」

「へぇ……。ごめん、わたし用事が出来ちゃった」


 わたしは周囲に集まった人たちにそう言って、件の女の子に近づいた。


「ねえ、ちょっといいかな?」


 わたしはその子に話しかける。

 そして目を見て確信した。

 この女の子、わたしのご主人様になる素質がある!

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