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29話 肌の露出は控えめに

お待たせしました。

 目を開くと、白い天井が目に飛び込んできた。

 ……あれ? ここはどこ?

 ……もしかしてわたし、死んじゃった?


「嫌だっ! まだ全然俗世で欲望を発散できてないのにっ!」

「目覚めた一言目がそれってどうかと思うよ」


 ガバッと起き上がったわたしに横からかかる呆れた声。

 横を見ると、イヴがいた。フィラちゃんもいた。

 そっか、ここは医務室かぁ。


「……あ、リズっちは!?」

「リズリズさんならこちらにいらっしゃいますわ。ほら」


 ベッドを仕切るカーテンを開き、隣のベッドにわたしと同じように横たわるリズっちの姿が目に入る。

「怪我の具合から言って、もう少しで起きると思いますわ」と、シアちゃんはリズっちの髪の毛を掻き分けながら言う。

 どうやらリズリズのことはシアちゃんが看病していたようだ。


「じゃあ、全員無事なんだね。よかったぁ……」

「あんたが全然無事じゃないじゃないの。無茶し過ぎよあんた」


 わたしは改めて自分の身体を顧みる。

 体中に包帯がグルグルに巻かれていて、自分で見ても痛々しい。


「たしかにさっきから、全身がズキズキ……ううん、ジュキジュキしてるよ」

「その言い直しなんか意味あるの……?」


 ズキズキよりジュキジュキの方が気持ちいい感じがしてわたしは好き。

 呼び方一つとっても気分が変わるからね、中々あなどれないよ。




 それからほんの数分後。


「ん、うんんっ……」

「あ、皆さん! リズリズさんが起きますわよ!」


 わたしが起きたのに続いて、リズっちも意識を取り戻した。


「わ、妾は一体何を……」


 瞼を擦りながら、見知らぬ場所に戸惑った表情を浮かべるリズっち。

 ああ、リズっちだ。間違えようもなく、いつものリズっちだ!

 わたしはリズっちの元に飛び込んだ。

 そしてリズっちを抱きしめる。リズっちだ! リズっちだ!


「リズっち~! リズっちぃ~!」

「ぎゃーっ! 痛い、痛いのじゃリューネ!」


 リズっちが涙目でわたしの背中を叩いてくる。


「わたしもとっても痛いよぉ! でもこの痛みを二人で共有できてるのって、すっごく素敵だよぉ!」

「病んでる人みたいなこと言うのやめなさい。リズリズが可哀想でしょ」

「あうっ」


 わたしはフィラちゃんにベッドへと引き戻される。

 くっそー、リズっちの涙舐め損ねたじゃんか。


「大丈夫かい、リズリズ」

「おお、イヴ。何があったのかはわからんが、起きて早々死ぬかと思ったのじゃ……。……ん? (さわ)れる? 妾、お主たちに(さわ)れておるぞ?」


 リズっちはぺたぺたと自分の身体を触る。続いてイヴの身体もぺたぺたと。


「そんな風に触られると、ちょっと照れるね……」

「あ、ご、ごめんなのじゃ!」


 ほのかに赤面するイヴと、あわあわ慌てるリズっち。

 二人のぎこちない様子はとてもかわいらしい。うーん、二人纏めて食べちゃいたい。


「封印を解いたところで、リズリズさんが何かに操られているような、そんな状態になってしまったのですわ。その状態のリズリズさんの意識をなんとか刈り取って、学園の医務室に運んだと言う訳です」

「そういうことじゃったか……。迷惑をかけたの、皆。ありがとうと、ごめんなさいなのじゃ」


 そう言ってリズっちは頭を下げてくる。


「リズっちはもう自由だよ。その手で何でも触れるし、その足でどこへでも行ける。良かったね、リズっち!」


 わたしが微笑むと、リズっちは神妙な顔をした。

 あれ、わたし変なこと言った? 言ってないよね?


「妾のためにそんなに傷ついてしもうて……申し訳ないのじゃ。本当に」


 どうやらリズっちはわたしの怪我に対して責任を感じているみたいだ。

 こんなのわたしが進んで負った傷なんだから、気にしなくてもいいのに。


「えっ……。だ、大丈夫だよ!? そんなに気にしなくても――」

「妾は自分が許せないのじゃ……。本当に、本当にすまぬ……」


 そう言いながら土下座に移行する素振りを見せるリズっち。

 さすがにそこまでやらせるわけにはいかない。


「はい、治った! リズっち、わたし治ったよ! ほら!」


 わたしは回復魔法で自分の怪我を全快させ、服をはだけさせてそれをリズっちに見せた。

 並みの回復魔法では全快させられない怪我でも、わたしの魔力量なら一発で治りきる。


「ね? だから大丈夫だよ」


 本当は回復魔法を使わないでゆっくり治っていくのを楽しみたかったんだけど、仕方ないよね。

 リハビリの苦痛を味わえないのは泣く泣く我慢することにしよう。


「と、とりあえずリズリズさんは服を正した方がいいと思いますわ」


 あれ? シアちゃん照れてる? かぁわいい!


「そんなこと言って、もうちょっと見てたいくせにぃー。ほれほれー」


 わたしは服の裾を持ち、ひらひらと扇情的に振ってみる。

 もう服は半分脱げてしまっているような状態だ。

 シアちゃんもフィラちゃんも顔を赤くしちゃってかわいいなぁ。

 さて、イヴはどんな顔してるのかな……っと。


「はぁ、はぁ……り、リューネ、綺麗だよ……!」

「あ、すぐに着ます」


 イヴが怖すぎる。背筋に悪寒が走ったよ。

 イヴの前で肌を露出するのはなるべくやめておこう、うん。





「でもよかったわ。二人とも無事……とはいわないけど、ちゃんと治って」


 リズっちの傷もわたしが回復魔法で治してあげて完治した。

 怪我のない身体に戻ったリズっちは、にこやかな笑みで言う。


「うむ、もう一度礼を言っておくのじゃ。ありがとの、リューネ、イヴ、ローレンシア……フィラリス」


 最後はちょっと恥ずかしそうだった。


「……っ! と、当然なんだからっ!」


 今までずっと名前で呼ばれなかったのに突然名前で呼ばれて、フィラちゃんは目に見えて焦る。

 目線を逸らして慌てふためいて……あー、いいですねぇ!

 その二人の様子に、わたしは思わず笑ってしまった。


「……ぷっ、あはは! 二人ともかわいいなぁ。あ、その調子で鞭でわたしを叩いてくれるともっとわたしが興奮するからよろしくね!」

「別にあんたを興奮させるためにやってるわけじゃないわよ?」

「リューネはあれじゃの、なんというか、もう手遅れじゃの」


 一転、二人の目が冷え切る。


「ああ、二人の冷たい目、とってもいいよぉ……! ぐふふ。もっと、もっと頂戴ぃ……! じゅるり」

「涎を垂らしながら罵倒を要求するんじゃないわよ。というか何でそんなに息が荒くなってるの……」


 フィラちゃんがわたしから一歩距離をとった。


「興奮なんかしてないよ、わたしを信じて! ……あ、ちょっと待って。興奮して鼻血でちゃった」

「信じてもらう努力をしてくれるかしら?」

「よっ、フィラちゃんごもっとも!」


 やっぱりフィラちゃんはすごいや!



「あ、そう言えば学園はもうリズっちの封印が解けたこと知ってるの?」


「ああ、そのこと。もうセリア先生は知ってるわ。封印を解く時の暴走も魔王の仕掛けのせいだってちゃんと伝えてあるわよ」


 わたしが聞くと、フィラちゃんが答えてくれる。

 それにイヴが補足を始めた。


「丁度もう少しでセリア先生が来るよ。まさか回復魔法で全快できちゃうとは思ってなかったから、動けなくても、意識が無くてもリューネには話し合いの場にいて欲しいと思って、この場所で話し合うことに皆で決めてたんだ。一番の立役者だし、リューネにも話を聞く権利はあると思っていたからね」

「イヴ、ありがとぉ……」


 優しい……。この学園に入ってから、会う人合う人皆本当に良い人ばっかりだ。

 感慨にふけるわたしに、イヴは爽やかに笑って手を伸ばす。


「ボクたちは友達だろ? お礼なんていらないよ。だから髪の毛一本頂戴」


 へ? なに?


「あ、抜けちゃったやつじゃなくて、まさに今リューネの頭皮に生えてるやつだよ! 新鮮な生の髪の毛だからね!」


 なんでウキウキしてるのイヴ。


「うぅ、感謝の気持ちが消えて行くぅ……」


 生の髪の毛ってどういう発想すれば思いつく単語なのか、想像すらつかないよ……。


 そんな風にイヴに対してわたしがある種の畏怖を抱いた丁度その時。


「はぁ、はぁ……お待たせしました」


 息を切らして、セリア先生が医務室へと入ってきた。

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