表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/62

28話 戦いの行方

「リズっち!? だ、大丈夫!?」


 尋常じゃない汗、苦痛に歪む顔、奮える脚。どう考えても普通じゃない。


「魔王め、封印が解かれたときのことまで考えておったとは……。妾に近づくな……逃げるのじゃ、皆……」


 リズっちは痛みに震える声で、わたしたちにそう警告した。


「ど、どういうこと!? 何が起きてるの!?」

「リューネ、リズリズから離れるわよ! 今のあの子は何かおかしいわ!」


 呆然と立ち尽くすわたしに駆け寄ってきたフィラちゃんが、わたしを抱えてリズっちから遠ざかる。

 次の瞬間、リズっちの手から雷魔法が放たれた。それは誰にも当たることなく、地面へと着弾する。

 問題はその着弾地点。……今の今までわたしがいたところだ。


「うぅ……ううぅ……離れろ。逃げるのじゃ……」


 リズっちは呻きながらもわたしたちに警告してくれている。

 その顔は苦痛で埋め尽くされていて、一体どれだけの痛みを感じているのか想像もつかない。


「フィラちゃん、リズっちが……リズっちが!」

「落ち着きなさいリューネ。慌てないの。深呼吸して」


 フィラちゃんがわたしの背中をさすってくれる。

 その手はとてもあったかくって、わたしは少しだけ落ち着きを取り戻すことができた。


「う、うん。……すぅー……はぁー……」


 いつの間にか狭まっていた視野を自覚する。

 こんな時に視野を狭めてちゃ駄目だ! もっと広く見渡さなきゃ!

 そう思うと同時に、ふっと力が抜けたわたしは地面に倒れ込んでしまう。


「あ、あれ?」


 立てない。

 立とうと思っているのに、立ち上がらなきゃいけないのに、わたしの身体はうんともすんとも言ってくれない。


「な、なんで……?」

「リューネさんはさきほどの魔法で魔力を切らしてしまったのでしょう。ここはわたくしたちに任せてくださいまし」

「で、でも……!」


 わたしは首を横に振る。

 こんな時に何もできないなんて……わたし、リズっちの友達なのに……!

 涙が目から溢れてくる。それを拭ってくれたのは、イヴの細い指だった。


「ローレンシアの言う通りだよリューネ。彼女のことが大切なのは君だけじゃない、ボクたちにとってもリズリズは大事な友人なんだから」

「必ずリズリズの意識を取り戻させてみせるわ。だからあんたはここで休んでなさい。いいわね?」


「……うん、わかったよ」


 わたしは皆に任せることにした。

 わたしができることはない。

 それはもちろんとても悔しい。

 だけど、駄々をこねるのが一番駄目だ。

 皆の足を引っ張っちゃいけない。


「さあ行くわよぉ……目を覚ましなさい、リズリズ!」


 フィラちゃんが剣を構える。

 その切っ先は、まるで剣自体が輝いているかのように錯覚してしまうほど光っている。

 フィラちゃんはリズっちに向かって走り出した。

 俊敏な動きにリズっちはフィラちゃんを捕捉しきれない。


「うぅう……っ!」


 リズっちは低威力の魔法を高速で連発するスタイルから、高位力の魔法で一撃を狙うスタイルへと戦略を変えたようだ。

 大きな風魔法がリズっちの元に迫る。


「――はぁっ!」


 フィラちゃんはそれを剣で一刀両断した。

 無傷とはいかず肌から血が流れる。それを気にせず、フィラちゃんは叫ぶ。


「今よ! ローレンシア、イヴ!」

「隙ありですわ!」

「もらったよ!」


 フィラちゃんにムキになったところを、シアちゃんの槍とイヴの氷魔法が突いた。

 凄い……連携なんてほどんど練習していないのに、ほとんど完璧なチームワークだ。


「うううぁああっ!」


 しかしそこまでしてもなお、リズっちはほとんど手傷を負ってはいない。


「そ、そんな……っ!?」


 驚きの声を上げるフィラちゃん。

 フィラちゃんたちが弱いわけじゃない。才ある者が集まる王立学園で、その中でも選ばれし者だけが所属できる特進クラスに在籍してるんだから。

 ただただ、ただただリズっちが強すぎるのだ。


 形勢はもはや完全にリズっち優勢であり、フィラちゃんたちは致命傷を負わないことでせいいっぱいだ。

 魔族というものがどんなに脅威なのか、わたしたちは知識としてしか知らなかった。

 その報いが、今の状況なのだ。


 ――だけど。

 わたしは拳を握りしめる。

 だけどわたしは自分の選択を、間違っていたとは決して思わない。

 だって一万年も封印されていたんだ。

 そんなの辛かったに決まってる。寂しかったに決まってる。

 そんな子をもう一度封印するなんて間違っているって、わたしは思うから。

 友達になったことが一番正しい選択だったって、わたしは思うから。

 だからわたしは立ち上がるんだ。

 わたしたちの選択を、悔いのないものにするために。


「皆、下がって。リズっちの攻撃は全部わたしが引き受けるから」


 わたしは皆にそう伝える。


「それは無茶ですわ! リューネさん、もう魔力が空じゃありませんか!」

「大丈夫。皆のお蔭でかなり回復したから、もう戦えるよ」

「たしかに魔力量が多いほど自然回復する魔力の量も多いけど、それにしたって……」


 そうわたしを気遣うイヴの言葉を、フィラちゃんが遮った。


「リューネ、本当に大丈夫なのね?」


 まったく、なんて答えるかなんて知ってるくせにさ。

 わたしは笑ってそれに答える。


「うん、わたしは大丈夫。その代わり皆は攻撃をお願い。さすがにそっちに回す魔力まではまだ戻ってないから」

「……わかったわ。ローレンシア、イヴ。リューネとリズリズの為にも、全身全霊で攻撃するわよ!」

「わかりましたわ!」

「わかったよ!」


 わたしが皆の盾になるためには、リズっちに脅威だと思わせなければならない。

 わたしはリズっちとの距離を詰めながら回復しかけた魔力を全て放出し、気を引くことを試みる。


「うぅ……?」


 多分思考能力がかり低下しているんだろう。リズっちは他の三人には目もくれず、わたしをその紅い両眼の中心に据えた。

 そう、こっちを向いて。リズっちはわたしだけを見てればいいんだよ。


「うううぅぅぅっ!」


 そして雷魔法を放ってくる。

 ……わたしの魔力、さっき気を引く時に全部使っちゃったんだよね。万が一にも皆が攻撃されると不味かったからさ。

 だから、わたしはそれを生身で受けざるを得ない。

 鋭い痛みが全身を駆け巡る。

 痛い、痛い、痛い、痛い!

 でも――


「こんな痛みはっ! わたしにとってはご褒美だっ!」


 わたしは膝をつかない。

 こんな痛みを味わえることなんて滅多にないよ。

 もっと楽しまなきゃ、ね。


「もう終わりなの、リズっち?」

「ううぅ……ううあああぁぁぁっ!」


 リズっちはムキになったように魔法を連発してくる。

 わたしはその全てを身体一つで受け止めた。

 さすがにきっついね……。


「はは……気持ちいいくらいだよ、このくらい余裕だね」


 弱音は吐かない。弱気は見せない。

 きっついけど、まだかすかに気持ちいいから。わたしを倒したいなら、このくらいの魔法じゃあ足りないよ!

 わたしは両腕を開いてリズっちに語りかける。


「さあ、もっと来てよリズっち! もっと痛くしてよ! もっときつくしてよ! さあ! さあっ!」

「あああああ! あああああああ!」


 リズっちが咆哮をあげる。

 その声はいつものリズっちとは全く別物で、綺麗な顔も顔も血や汗でぐちゃぐちゃで、だけどやっぱりリズっちはリズっちだった。

 だって、泣いてるもん。リズっちも今、身体の中で抗おうと必死で戦ってるんだ!

 それなのに、わたしが負けてはいられない。

 大丈夫だよリズっち、わたしたちが今助けてあげるから!


「来なよリズっち! わたしが全部受け止めてあげるから!」


 わたしに反応したのか、リズっちが一際大きな咆哮をあげる。

 そしてそれは致命的なまでに大きな隙だった。


「ああああああああああああ――」

「そこっ!」


 三人の声が重なり、リズリズの動きが止まる。

 今までの戦いが嘘のように、耳が痛いほどしん、と静まり返る岩穴。


 最初にその静寂を打ち破ったのは、地面に倒れ込むリズっちの音だった。

 おわっ……た……? 終わった、のかな……。


 リズっちが倒れるところを見届けたフィラちゃんが、まず声をかけてくる。


「リューネ、あんたそんなボロボロで大丈夫――」

「わたしは大丈夫! それよりリズっちは!?」


 今はわたしのことなんてどうでもいいよ! それよりもリズっちだ!


「問題無いよ、息はある」

「……はぁあ、良かったあぁぁ~……本当に、本当に良かった……っ!」


 イヴの答えを聞いて、わたしの目からはぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 頬にできた傷に染みてひりひりと熱い。こんな痛みもあるんだね。


「うぇええん、良かったよぉぉぉ……!」


 わたしは子供のように泣きじゃくった。

 フィラちゃんとシアちゃんとイヴ。三人がわたしの背中をさすってくれて、それがちょっと恥ずかしいけど嬉しくて、また涙が出た。


「リューネ。あんた酷い怪我なんだから医務室行くわよ。あたしが肩貸すから。ね?」

「うん、うん……っ!」


 意識のないリズっちのことは、シアちゃんとイヴが協力して運んでくれるみたいだ。

 こうしてわたしたちの戦いは終わり、リズっちの封印は解かれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ