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25話 意識すると余計に緊張してしまうもの

「先生に彼氏を作ってあげるって……どういうこと?」


 空き教室に陣取ったわたしたちは、その中心で机と頭を寄せ合う。

 作戦会議、その二だ。

 まずはフィラちゃんの質問に答えないとね。


「あのさ、わたしたち学園の弱みみたいなのを探そうとしてたけど、それって多分とっても難しいことでしょ?」

「それはそうですわね。おそらくセリア先生も簡単には口を割っていただけないでしょう」


 セリア先生も大人だし、多分相当上手いことやらないと機密情報なんて教えてくれないんだよね。

 まあそれは元々わかってて、それでもそれ以外の方法が思いつかないからあんな風に無理やりに近い形で聞くことになっちゃったわけだけど。

 でも今は、もう一つの方法を思いついたんだ!

 わたしは「ふっふっふっ」と勿体付けて言う。


「だからさ、弱みを握るんじゃなくて、恩を売ればいいんだよ! 先生に彼氏を作るのを手伝えば、きっと先生はわたしたちに多大な恩を感じてくれる。そのタイミングでリズっちの封印を解くことをお願いすれば、きっと断れないと思うんだよね」


 どうかな、この提案! 個人的にはとってもいい案だと思うんだけど!

 わたしは三人の顔を見まわす。

 すると、一番最初にイヴと目が合った。


「……リューネ。ボクはキミのことを初めて頭がいいと思ったよ」

「ありがとう!」


 今までどう思ってたのかかなり気になるけどね!


 イヴに続いてフィラちゃんもうんうんと頷いてくれる。


「いい作戦だと思うわ。ローレンシアも異論はないかしら?」

「ないですわ。それに、人の恋路にちょっかいをだすのは楽しいものと相場は決まっているのですわ!」


 中々に歪んだ趣味だねシアちゃん。

 シアちゃんは裕福な家庭で育ってそうだし、きっとお付きの人とかの恋愛に口挟んでたんだろうなぁ。

 でも、自分に友達はできなかった、と。……悲しいね。


「シアちゃん、わたしが慰めぺろぺろしてあげよっか?」

「意味が全くわからないのですけれど……」


 そっか、強がりたいんだねシアちゃんは。

 それならわたしはその意思を尊重するよ。






 そして数日後の休日。

 わたしたち四人、それにセリア先生は、学園の近くのカフェへとやってきていた。

 今日の先生のお相手は同じ学園の先生だ。

 最初に彼氏づくりに協力すると申し出たときはすごく嬉しそうだったのだが、いざ実行に移ろうとすると先生は途端に萎縮してしまった。

 なんでも「い、いきなり知らない人は荷が重すぎます!」ということらしい。

 その結果まずは知り合いからということで、顔見知りの先生と学園外で合う約束をわたしたちが仲介したのだった。

 でもまあ、互いに知っている相手だからこそ逆に新たな一面にきゅんとくるってこともあるらしいし、これが上手くいく可能性もあるよね!

 わたしたちとしては、リズっちのためになんとしても上手くいってもらいたいところだ。


「先生、大丈夫ですか?」


 わたしは先生に声をかける。

 先生もデートということで、綺麗におめかしをしてきていた。

 授業中のキリリとした顔とはまた違う、優しそうな女性らしい格好だ。

 恐ろしいほどの美貌で、さきほどから道行く男の人の目線もがっちり捕えている。さすが先生。

 どうやらこれは大丈夫そう――


「だ、だだだだ大丈夫に決まってるじゃないですか! 私は『蒼姫』ですよ! へっちゃりゃですよ……へっちゃりゃですよ!」


 二回連続で噛むなんてことあるんだね。すっごく不安だよ……。


「皆さん、あのですね。ちょっと緊張で吐きそうなので、お手洗いに行ってもいいですか? ……うぷっ」


 この上なく不安だよ……。



 そしてそれから数分後。


「すみません、お待たせしてしまいまして」


 約束の時間の十分ほど前に、男の先生は現れた。

 わたしたち四人は外観を整えるために植えられた木に隠れ、その様子を窺う。

 お願いだから上手くいってほしいんだけど……!


「今日はいつにも増してお綺麗ですね、セリア先生」

「あぴゃぴゃ!? ぴゃ、ぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃ!」


 ものの数秒でわたしたちは確信した。

 このデートは必ず失敗する、と。




 それから数秒後、なんとか先生は人間の言語を取り戻すことに成功した。

「これならもしかして……」と、わたしたちは淡い希望を抱いたんだけど……。


「なんか楽しいですね、この場所! あ、た、楽しくないですか!? 私は楽しいですけど、あっ、楽しいって言ってもそれはあの、楽しさのマックスを百点としたら七十点ぐらいの楽しさなのであって、いきなり百点をあげたりはしませんけどね! ただ初めてにしてこの数値は異常に高いですし、私としては楽しいといって差し支えない……いえ、楽しいとしか言いようがないと! 私はそう思っています! あの、楽しいですか!?」

「あ、あはは、楽しいですよ。とりあえず、コーヒーでも飲みましょうかセリア先生」

「いいですねコーヒー! 私コーヒーは濃いのが好きなんですよ。コーイー、なんちゃって! コーヒーだけにコーイーっていう。えへ、えへへへへ!」

「はは……」

「……えへへ……」

「ははは……」


 なにこの取り返しのつかない状況は……。


「なんというか、見ていて哀れだよね……」

「イヴ、それは禁句よ」


 あんまり言いたくはないけど、正直イヴの意見に同感だ。

 隠れて様子を窺っていたわたしたちは感じたことのない衝撃を味わっていた。

 これはひどい。これはひどい。

 先生、さすがにこれはひどいよ……。


「想像を三段階は超えてくる酷さでしたわね……」

「なんであんなに可愛い先生に彼氏が出来ないのか疑問だったけど、まさかここまで酷いとは……」


 むしろよくこれで学園に勤めていられるよね。

 仕事中に関わるのは大丈夫だけど、私生活では意識しちゃって緊張しすぎちゃうってタイプなのかな?

 なんにしろ、さすがにここまで酷いとさすがに希望は無いだろう。



 一時間後、先生がこれ以上ないほど肩をがっくりと落としてわたしたちの元へとやってくる。

 本来ならばカフェで軽くお茶をしてからどこかへ行く予定だったのだが、それも取りやめになってしまったようだ。

 い、いたたまれない……。


「せ、先生、あの……なんていうか、その……」

「慰めはいりません。ただ、ちょっとだけ泣きたい気分です……」


 先生……。

 ふらふらとおぼつかない足取りで歩き始めたセリア先生が心配になったわたしたちは、先生の後を追う。

 学園に戻ってきた先生は、学園長室に閉じこもってしまった。

 そして鍵をかけると同時に、部屋の外まで声が聞こえてくる。


「もう嫌です! どうせ私は男の人には好かれないんです!」


 どどど、どうしよう。これ、多分わたしの責任だよね……。

 わたしは扉越しにセリア先生に声をかけてみる。


「ごめんなさい先生、わたしが男の人とデートしてみた方がいいなんて言わなければ、こんなことには……」

「いえ、リューネさんは悪くないです。悪いのは私ですから。結局私には人づきあいなんて高尚なことはできっこないんですよ」


 先生の落ち込み具合の深さが胸に刺さる。

 こんなとき、どうすればいいのだろうか。

 社会経験も浅く交友関係も狭いわたしには、何も思いつくことができない。

 そんなとき、スッと前に進み出る人影が一つ。


「シアちゃん……?」

「今回のセリア先生の件、わたくしがなんとかいたしますわ」


 高貴な気品を漂わせながら、シアちゃんはわたしたちに向かってそう言った。

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