24話 学園の闇を探る
「じゃあ行ってくるね、リズっち」
「行ってらっしゃいなのじゃ」
わたしは部屋の中のリズっちに手を振る。
弱まっているといっても封印はまだ健在らしく、距離の関係上リズっちは校舎までは付いて来られないらしい。
だから今日はリズっちは家でお留守番だ。
わたしとフィラちゃんはこれから授業を受けるために学園に行かなきゃならない。
学園側の弱みを握るっていう大事なミッションもあるしね。
「さぁーて、リズリズに一発入れるために頑張るとしますか」
フィラちゃんが腕をぐるぐると回す。
「お主まだ言うか。本当に素直じゃないやつじゃのう」
「う、うるさい!」
朝一番からかわいいって反則だよね。こんなのもう二十四時間営業じゃん。
「二人ともおはよ」
「おはようございますですわ」
教室に入ると、すでにイヴとシアちゃんは登校していた。
わたしはキョロキョロと教室の中を確認する。
四人しかいないクラスだからないと思うけど、一応注意しておくに越したことはないからね。
……よし、誰もいないっと。
部外者がいないことを確認したわたしたちは、頭をくっつけてこしょこしょ話を始めた。
内容はもちろん学園側の弱みを握る方法についてだ。
「セリア先生は学園長だし、きっと学園の闇も色々知ってるはずだよね。そこを授業中にさりげなく聞いてみよう!」
先生が学園長なのは本当に幸運だ。
これだけ大きな学園なんだから、絶対に何か隠したいことの一つや二つあるはず。
それを見つけるのに先生を使わない手はない。
「上手くいくといいんだけど……」
「大丈夫大丈夫! 皆で協力すればきっと上手くいくって!」
「そうね。頑張りましょ、皆!」
「えいえい、おー!」
と、四人で仲良く腕を掲げたところで、タイミング悪くセリア先生が教室に入ってきてしまった。
なぜか盛り上がっているわたしたちに首をかしげる先生。
「どうしたんですか? 皆さん朝から元気ですね」
「い、いえ、これはあの、そのー……なんというか、あれがあれしたといいますか……」
うわ、フィラちゃん言い訳下手! 正直者の綺麗な心の持ち主かよ! そんなところも素敵!
「ああ先生。ボクがリューネの髪を使ったオリジナル人形の作り方を皆に相談してたんです」
さすがイヴ、ナイスフォロー!
……ん? ナイスフォローなのかなこれ。
今現状わたしって自分の髪の毛を使った人形作りに積極的に参加するヤバい人みたいになってない?
「そ、そうですか……あまり深くは聞かないことにしますね」
ほら、先生ドン引きしてるじゃん!
うぅ、違うのに違うと言えない……。
でもこういう誤解されるのもまた乙なものというかなんというか、なかなか風情がありますね。嫌いじゃないです。でへへ。
「ところでリューネさん、昨日は大丈夫でしたか? 随分と体調が悪そうでしたが……」
「あ、はい、お蔭様で! ご心配おかけしました」
そっか、昨日はわたしにしか見えないリズっちと会話してたせいで、先生には随分と迷惑かけちゃったもんね。
わたしの返答を聞いた先生は軽い安堵の笑みを浮かべて胸に手を当てた。
「それはよかったです。私としてもホッと一安心ですよ。もしまた具合が悪くなったらすぐに先生に言ってくださいね?」
先生優しい……!
こんなにやさしい人をだますような目に合わせるのは気が引けるけど、これもリズっちの為だ!
心を鬼にしなさい、わたし!
そして授業の始まりを告げる鐘が鳴る中、わたしたち四人と先生の化かし合いが始まったのだった。
よーし、負けないぞぉ!
「イヴさん、この場面で一番適切な魔法はなんですか?」
最初に指されたのはイヴだった。
いけー、まずは一発かましてやれー!
「火魔法です」
「はい、正解ですね」
「じゃあ先生、逆に質問ですが――」
「ぎゃ、逆に質問!? そういう制度があったんですね。な、なんでしょう……?」
「この学園の闇みたいなのはありますか?」
ズバッと言ったねイヴ! 正々堂々直球ど真ん中! 男らしい!
「全然授業と関係ないですね。どうして今そんな質問を?」
「わ、忘れてください」
イヴはおずおずと席に着き、項垂れる。
先生はやっぱり強敵みたいだ。一筋縄じゃいかないか……。
「ローレンシアさん、この答えはなんだと思いますか?」
次に刺されたのはシアちゃんだ。
「えーっとですわね……あともう少しのところまで出かかってるのですけれど……」
「時間はいくら使ってもいいですからね」
「学園の弱みのようなものを教えてもらえれば、思い出せると思うのですけれど……」
「……」
うわぁ、先生が無表情でシアちゃんを見つめてるよぉ……。
お願い耐えてシアちゃん、この空気に耐えられれば弱みが引き出せるかも!
「……あ、あー。思い出しましたわ。学園の弱みを教えてもらわなくても思い出せましたわ。なのでさっきのは忘れてくださいまし」
ああ、シアちゃんが空気に耐えきれなくなっちゃった……。
なんてことだ、先生が強すぎる。わたしたちが考えに考えた作戦が通用しないんて、さすが王立学園の学園長だ。
一人が何回も同じような質問をしたら不審に思われるだろうし、そうなると残すところはわたしとフィラちゃんだけか。
……正直、フィラちゃんには期待できないかもなぁ。
いやでも、いつもは頼りになるし!
多分今回もやってくれるはず……って超汗かいてるよフィラちゃん!
ダラダラだよ! 急な雨に降られたみたいになってるよ!
「ふぇ、フィラリスさん、すごく汗をかいていますが大丈夫ですか……?」
ああ、あまりの汗の量に先生から仕掛けられちゃった。
最初で主導権を握られたら、とりかえすのは至難の業だ。
でもフィラちゃんなら、それでもフィラちゃんなら……!
「あ、だ、大丈夫です。あたしちょっと緊張してるだけなんで、あの本当気にしないでください!」
「緊張……? 一体何にですか?」
「いや、あの、それは、あのー……」
フィラちゃん弱すぎない!? いつもの凛々しいフィラちゃんはどこにいったのさ!
やはりというかなんというか、フィラちゃんも駄目だった。
こうなれば、わたしがケリをつけるしかないか……!
意を決したわたしはピンと腕を上げる。
「先生!」
「はい、どうしましたかリューネさん」
「先生の弱いところをぺろぺろされるのと、学園の弱いところをぺろぺろされるの、先生はどっちを選びますかっ!」
できればどっちもぺろぺろさせてくださいっ!
「……」
あれ、なんで無言?
なんで皆あちゃーって顔?
わたしどこか不味かった?
「……ごほん。ちょっといいですか皆さん」
先生がそう言って授業を中断する。
うわぁ、先生怒ってる……。どどどどうしよう……!
「皆さんが何を企んでいるのかわかりませんが、あまり変なことはしないでくださいよ? 学園の闇だか弱みだかわかりませんけど、そんなものを探っても碌なことはありません。皆さんが危険な目に合う確立を自分で上げてどうするんですか。以後、そういう危険な行動は慎んでくださいね」
うぅ、完全に企みがバレてる。しかもどうしようもないほどの正論だぁ……。
言い返す言葉もないよぉ。
ごめんリズっち、わたしたちが不甲斐ないばっかりに……。
しゅんと項垂れるわたしたちを見て、セリア先生は呟く。
「まあ私に彼氏が出来たら何でも許しちゃうかもしれませんけど、そんなことはありえませんからね。……ちょっと! 今あり得ないって言ったのどこの誰ですか! 怒りますよ!?」
わたしたち一言も発してません先生。
さすが先生、男の人に対する余裕の無さが半端ない。
……ん?
「そうか……これだ!」
「? どれですか?」
ぽかんとした顔をする先生。かわいい。
なんでこんな可愛い先生に彼氏がいないのかは全くわからないけど、とにかくこれはチャンスだ!
「先生、ちょっとわたしたち用があるので早退します!」
わたしはフィラちゃんたちを連れて教室を出た。
「え、ちょっと、全員ですか!? 皆さん!?」
教室から先生の戸惑った声が聞こえてくる。
ごめんなさい先生、でも今は授業よりも友達の方が大事なんだ!
「何か思いついたのね? リューネ」
隣を歩くフィラちゃんがそう問いかけてくる。
わたしはそれに対して自信を漲らせた声で答えた。
「うんっ。先生に彼氏を作ってあげよう!」




