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22話 信頼は重い

「妾をもう一度封印し直してほしいのじゃ」


 そう言ったリズリズの真意を、わたしは読み取ることができない。


「封印……? 封印ってどういうこと?」


 眉をひそめるわたしたちに、リズリズは説明を始める。


「妾がこんな風に姿が見えるようになるなんてことは、今までに起きなかったことじゃ。変態少女の魔力量がけた違いだったことも当然その原因の一つではあるが、それ以外にも封印の効力が弱まっていることが大きな原因だと妾は考えておる。じゃからもう一度、妾を封印し直してほしいのじゃ」


 その目は真っ直ぐにわたしを見ていた。どうやらふざけて言ってるというわけではないらしい。

 でも、わたしは納得できない。


「そんな……だって折角会えたのに、このまままた封印されちゃうのなんて寂しいよ!」

「妾もお主たちと話せて楽しかった。一万年ぶりに感じる交流の温かさに、妾の心が溶けていくのが分かったしの……じゃが、駄目なんじゃ。これは自分への戒めじゃからな」


 そう呟いて目線を逸らすリズリズ。


「戒めとは何か、説明してくれませんこと? でなければとても納得できませんわ」

「同感ね。何が起きてるのかついて行くので精いっぱいだけど、それでも自分から封印してほしいなんておかしいってことはわかるわ」


 シアちゃんとフィラちゃんが言う。わたしも当然同じ気持ちだ。

 自分から封印し直してほしいなんて言われて、はいそうですかと封印するわけにはいかない。

 納得いっていないわたしたちを見たリズリズは一つ息を吐き出す。


「……たしかに、これではあまりに不義理じゃの。ならば話すのじゃ」


 そして重い口調で語り始める。


「一万年前、妾は人間と仲良くなりたかった。じゃが、当時の魔王は人間との徹底抗戦を主張しておっての。主義の相容れない妾は魔王に単身戦いを挑み、破れ、そして魔王の魔法で身体を操られたのじゃ。魔王に操られた妾は力で人間たちを蹂躙した。そして結果的に大勢の人間に大軍で押し寄せられ、妾はこの地に封印されることになったのじゃ。妾は人間たちを襲うてしまったことを今でも悔いておる」


 そこまで言って、リズリズはもう一度「じゃから、封印し直してほしいのじゃ」と口にする。


「なるほど……」


 そういう過去があったのなら、封印してほしいという気持ちもわかる。

 目の前の魔物の少女からは、時がたっても全く褪せることのない悔恨の念がありありと感じられた。

 きっとリズリズは自分を許せていないのだ。


「話してくれてありがとう。あなたの気持ちはよくわかったよ、リズリズ」

「わかってくれたか。ありがとうの」


 わたしの言葉にほっとした笑みを浮かべるリズリズ。

 そんな彼女に向かって、わたしは言う。


「でも封印はしてあげない」

「!? な、なんでじゃ!?」

「封印し直すんじゃなくて、むしろ封印を完全に解くことに力を入れるべきだと思うから」


 その言葉にブンブンと首と手を横に振るリズリズ。


「い、いや、それは駄目じゃ! だって妾は人間を襲って――」

「魔王に操られてたのに自分を責めちゃうのはよくないよ。それに、もう一万年以上前の話なんでしょ? 贖罪は充分すんでるよ。一万年たって封印が解けたのは、皆が許してくれたからだとわたしは思うな」

「じゃ、じゃが……」


 どうやらリズリズは揺れているようだ。

 あともう一押しってところかな。


「じゃあ、しばらく一緒に遊びたいか、今すぐ封印されたいか……どっち?」


 ちょっといじわるな質問だけど、許してほしい。

 だって自分の意思とは無関係なことで一万年も罪の意識に苛まれるなんて、リズリズが可哀想過ぎるよ。

 もう解放されてもいいと思う。……いや、解放されなきゃ駄目だ!


 じっと見つめあうわたしとリズリズ。

 やがて目線を下ろしたリズリズは、その小さな口からさえずりのような声を発した。


「……構ってほしい。この一万年誰とも話せず、一人で罪の意識に苛まれるだけじゃった。構ってほしい、構ってほしいのじゃ!」


 その言葉と共に、リズリズの真紅の目から涙がつぅ、と流れ出る。

 きっとずっと悩んでいたんだろう。きっとずっと苦しんでいたんだろう。

 わたしはリズリズを抱きしめ、その頭をぽんぽんと撫でた。

 触れないけど、それでも気持ちは伝えられると思ったから。


「よしよし、よく言えたね。大丈夫、わたしはあなたの味方だから」

「ひぐっ、ぐすっ……ちっぱい……っ!」


 この場面でその呼び方はどうなのかなと思わないでもない。ちっぱいってあなたもだよ!





「わたしはリューネ。改めてよろしくね、リズリズ!」


 リズリズが泣き止んだところを見計らって、わたしは改めてリズリズに自己紹介をする。

 リズリズはしっかりと確かめるように何度も「リューネ……」と舌の上でわたしの名前を転がした。


「妾はお主に感謝しなければなるまい。……ありがとうなのじゃ、リューネ」

「いえいえー」


 わたしは何かをしたわけじゃない。

 最終的に決断したのはリズリズだ。わたしなんて、ただ子供みたいに自分勝手なことを言っただけだしね。

 だからこんな風に感謝されるとちょっと困ってしまう。


「妾を罪の意識から救うてくれたというのに、尊大ぶることもなく妾と接してくれるその大器……よし、決めたのじゃ」


 どうやらリズリズは何かを決意したらしい。


「決めた? 決めたって何を?」

「妾はお主のために、忠臣として精一杯尽くすのじゃ!」

「忠臣……?」


 忠臣って、あの忠臣?


「そうじゃ。お主が命じれば、妾はそれに応える。もっともこの体では出来ることも少ないが……それでも偵察くらいはできるはずじゃ」


 リズリズは胸を張りながら晴れやかな顔でわたしに言う。

 偵察なんてする機会ないし、何より……。


「忠臣じゃなくて、ご主人様になってくれたりは……」

「とんでもない! そんな分不相応なことになったら妾は己に失望して自決するのじゃ!」


 じ、自決!? 決意が重すぎない!?


 慌てるわたしの前でイヴがリズリズに笑いかける。


「仲間が増えて嬉しいよ。これからよろしくね、リズリズ」

「おお、お主もリューネの忠臣なのかえ?」

「まあボクは忠臣というよりストーカーだけどね」


 それは満面の笑みで言う台詞じゃないと思うよイヴ!?


「よかったわねリューネ」

「よかったですねリューネさん」


 そう声をかけてくる二人。

 いや、よかったはよかったけどさぁ……。


「さあリューネ。妾になんでも命じるがよいぞ!」

「なんで……なんで誰もご主人様になってくれないの~っ!」


 わたしの叫びは部屋に虚しく響き渡ったのだった。

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