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21話 匂いさえ嗅げそうなほど

「それはそれとして、なんでリューネさんにだけ姿が見えるんでしょうね?」


 シアちゃんが疑問を口にする。


「それはわたしにもわかんないんだよねぇ……」


 思い返してみても、特に何も思い当たらない。

 まさかわたしが魔族の血を引いてるとか?

 いや、でもそんなわけないしなぁ……。

 首を傾けながらうーんと唸っているわたしとは対照的に、リズリズは何か心当たりがあるようだった。

 そして半ば確信したようにわたしを見る。


「おそらくじゃが、お主の魔力量ゆえじゃろうな」

「へ?」


 魔力量? それが何の関係があるんだろう?


「人間の身でありながらそれほどの魔力を持つ者を、妾はかつて見たことがない。おそらくお主の身体から溢れ出る魔力が、妾を可視化するためのエネルギーになっているんじゃと思う。ただ、全員に見えるようになるには足りていない様じゃがな」


 なるほどぉ……。

 見た目は幼女でも中身は一万歳なだけあって物知りだなぁ。

 ……ん? ちょっと待って?


「ってことは、わたしがもう少し魔力を放出すれば皆にもリズリズが見えるようになる可能性があるってこと?」


 そういうことだよね?

 リズリズに顔を向けると、リズリズは一つ頷いた。


「まあそうじゃな。もっとも、そんな常識外れの魔力を持っておるものはおらんじゃろうが。お主も今魔力全開の状態じゃろ? 妾はお主と話せてうれしいが、そろそろ放出を止めぬと死ぬぞ? もう少し自愛せい」


 わたしのことを心配してくれているらしい。

 魔力の放出を止めたらわたしからも見えなくなっちゃうのにわたしの身体を心配してくれるなんて、リズリズって超優しいじゃん! しかもさりげなく「話せて嬉しい」とか言ってくれたよ!

 ちょっと待ってキュンキュンする!


「うぅっ……!」


 わたしは胸を押さえて蹲る。

 すると、リズリズが血の気の引いた顔でわたしの上に乗ってきた。

 

「だ、大丈夫か変態少女っ! もう身体が限界なんじゃ、すぐに魔力の放出を押さえんか!」

「そ……そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて? そうじゃなくて何なんじゃ?」


 リズリズはわたしの状態に焦りながらも、よくわからないといった顔をする。

 思念体だから上に乗られていても重さは感じないけど、心配してくれているおかげで顔がとても近い。

 今なら思念体なはずのリズリズの匂いさえ嗅げそうだよぉ……!


「リズリズ……!」

「なんじゃ、どうした!」

「愛おし過ぎて、胸が苦しい……!」

「……。……はぁ?」


 あ、何言ってんだコイツって顔してる。そんな顔も可愛いね!

 

 



 数分後。

 やっと落ち着いたわたしは、頭の中を整理する。

 今リズリズが見えているのはわたしが魔力を放出しているから。でも皆が見えるようになるにはまだ足りない。そういうことらしい。

 そしてこの問題の解決策もわたしはすでに思いついている。

 つまり魔力の放出量を増やせばいいってことでしょ?

 そういうことなら話は簡単だ。


「じゃあいっくよー? ぬぬぬぅ……っ!」


 わたしは体内を循環する魔力に意識を巡らせる。

 普段閉めている(・・・・・)栓を開くイメージ。

 調整は……無意識に垂れ流している魔力量の二倍くらいでいいかな?


「なっ……!? まさか今までのは無意識で垂れ流していただけだとでも……!?」


 リズリズが舌を巻いてくれるのがなんだか少し誇らしい。

 身体がカッと熱くなり、魔力が勢いよく流れ始めたのがわかる。

 そしてわたしの身体から、今まで漏れ出ていたものの倍ほどの魔力が溢れだした。


「このくらいでどうかな。皆、見えてる?」


 わたしはキョロキョロと皆を見回す。

 だけど、皆と視線は合わない。

 なぜなら皆、リズリズの方を驚きの表情で見ているからだ。

 どうやら皆にも無事リズリズが見えるようになったようだった。


「……驚きで口がふさがらないわ」


 フィラちゃんが冷や汗を垂らしながら言う。

 垂らすといえば、フィラちゃんの涎を一度わたしに垂らしてみて欲しいね。きっととっても楽しいと思う。

 おっと、脱線しちゃった。

 三人に見られていることを告げられたリズリズは少しテンションが上がっているみたいだ。

 きっと誰かと話すのが久しぶりなんだろう。


「本当に見えておるのか? ……ならばっ!」


 リズリズはシアちゃんの胸元に突っ込む。あっ、ちょっ、羨ましい!


「きゃっ! ちょっ、リズリズさん!?」

「……むぅ、触れるのはさすがに無理じゃったか。金髪おっぱいの胸を揉みしだいてやろうと思うたのじゃが」

「いいぞ、もっとやれー!」


 羞恥に染まるシアちゃんの顔をもっと堪能させろー!

 そう声援を贈るわたしの背筋に冷たいものが走る。

 何かと思えば、シアちゃんが底冷えするような目でわたしを見ていた。


「……ちょっと、リューネさん……?」

「リズリズ、そういうの人としてどうかと思う。やられる人の気持ち考えたことある?」

「一瞬で恐怖に屈したなお主」


 だって超怖いんだもん。

 シアちゃん本気で怒るとこんなに怖いんだ……。

 ちょっと漏れそうになったよ。

 ……後でもう一回今の目してくれないかなぁ。心のきゅんきゅんがとまらないよぉ……!


 脳裏に焼き付けたシアちゃんの冷たい目に興奮するわたし。

 その横で、こほん、とリズリズは一つ咳をした。

 外見に似合った可愛らしい咳だ。

 わたし思うんだけど、咳ってかなりえっちじゃない?

 咳の音だけを集めた録音機みたいなのがあったら迷わず買っちゃうよ。保存用と聞く用と使用する用で三枚買っちゃうよ。

 って、やばいやばい。話に集中しないと。


「変態少女のおかげで皆に見えるようになったところで、改めて自己紹介させてもらおうかの」


 リズリズは真面目な顔でそう言った後、わたしたちに一つ礼をした。

 何でもないような動作のはずなのに、それだけでわたしたちはリズリズの持つ雰囲気に呑まれる。


「妾はリズリズ・ぺトラリュリュシカ・マトリョーシカ。今の時代に伝わっておるのかはわからんが、封印される前は魔王軍で幹部だった魔族じゃ」


 幹部……よくわかんないけど、リズリズは凄い魔族だったようだ。

 たしかに今のリズリズからは気高さというか、純粋な格の違いというか、そういうものを感じる。

 とてもフィラちゃんの前であかんべーをしていた人と同一人物だとは思えない。


「そんな妾から、お主たちに恥を忍んでお願いがある」


 と、そこでリズリズは言葉を切る。

 そしてもう一度、今度は凛々しい表情に寂しさを滲ませながら口を開いた。


「妾をもう一度封印し直してほしいのじゃ」

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