20話 ぴっちぴちの一万歳
「んん……んあ?」
わたしは目を開ける。
二段ベッドの下、いつもの寝床だ。
「あ、起きたのね」
あ、そっか。わたしのぼせてそのまま寝ちゃったんだ。
ってことは、今は夜か。
「やあやあ、リューネ」
「体調は大丈夫ですの?」
「あれ、なんでイヴとシアちゃんが……?」
ここ、わたしたちの部屋だよね?
「あまりののぼせっぷりだったから、回復魔法が使えるイヴに来てもらったのよ」
「わたくしは付添いですわ」
なるほど、そういうことかぁ。
あれ、じゃあ今って四人揃ってるのかな?
「じゃあ丁度いいや。四人集まったし今話しちゃおうよ」
わたしは周りを見回してみる。
姿が見えないけど、きっとそんなに離れたとところにはいないはず。
「リズリズ、いるー?」
「呼んだかえ、変態少女」
リズリズはどこからかわたしの元にやってきた。
「変態少女じゃないよ、わたしはリューネ!」
「風呂場で興奮したあげくに死にかけるやつは変態少女じゃろ」
「ふんふふんふーん」
「おぉい!? 聞こえないふりをするでない!」
えへへ。これがわたしの最強技、鼻歌防御だよ!
そんなわたしを見ていたイヴが、まるで探偵のような鋭い目つきをし始める。
「本当に誰かいるみたいに話すね。……いるのかい、誰か?」
「ま、まさかね……。ゆ、幽霊とかそんなのあたし信じてないし!」
「そ、そうですわイヴ! わたくしたちは全然信じてないから怖くなんかないんですわよ!?」
フィラちゃんとシアちゃんは二人で身体を寄せ合っている。
あからさまに怖がっているよねそれ。もはやなんでばれないと思うのか不思議なレベルだよ。
「いや、本当にいるんだよ。ここに」
実際わたしには見えちゃってるからなぁ。
いないと言うのは無理がある。
「……本気なの、リューネ?」
「うん、リズリズって名前の幼女がいるんだ。なんでかわたしにしか見えないみたいだけど」
「妾はこう見えて一万歳じゃぞ! 幼女なぞではないわ!」
「あ、ごめん。リズリズ一万歳だって」
ぷんぷん怒ってる。ちょっとかわいい。
「一万歳って、その人もう骸骨にでもなってるんじゃないの……?」
「おいこらそこの白銀小娘、誰が骸骨じゃ! 妾はまだまだぴっちぴちなのじゃああっ!」
「まだまだぴっちぴちらしいよ」
幼女がキレてる。
キレた幼女は怖いね。
でも、年下に苛められるっていうのもそれはそれでとてもそそられるシチュエーションではあるよね。
こうさ、自分よりもか弱い存在に責められるのってとってもいいと思うんだよね、わたし。
あ、でもリズリズは一万歳だから年下じゃないかぁ。
「それよりリューネさん。リズリズってたしか、封印されている魔族の名前ではなかったですか?」
「え、なんで知ってるの?」
「今日先生が言ってらっしゃいましたから」
あれ、そうだっけ?
リズリズが見えるようになったことに気が気じゃなくて、それからの話ほとんど聞いてなかったや。
シアちゃんの言葉を聞いたリズリズは腕を組み、感心した素振りを見せる。
「ほぅ。おっぱいちゃんは物覚えが良いんじゃな」
「おっぱいちゃんは物覚えが良いんだな。ぺろぺろしたいなだって」
「後半言ってないんじゃが!?」
あ、そうだっけ。ついつい願望が口からこぼれ出ちゃったよ。反省反省。
「お、おっぱいちゃんってわたくしのことですの!? わたくしはローレンシアです! おっぱいちゃんじゃありませんわ!」
立ち上がりながら抗議するシアちゃん。
勢いよく立ち上がったからお胸が揺れてる。
うわぁ、たゆんたゆんだぁ……っ!
「けしからん。これは実にけしからんのじゃ」
リズリズ手をわきわきさせながらシアちゃんの胸へと飛び込んだ。
しかし、リズリズの手はシアちゃんの胸を無情にも貫通してしまう。
思念体のリズリズでは、シアちゃんの胸に触ることは敵わないようだ。
「ぬぬぬ、触れぬこの身が恨めしい」
「うわぁ、リズリズってガチの変態じゃん……」
普通に引くよぉ……。
正直気持ちはわからないでもないけど、でも引くよぉ……。
「変態少女のお主に言われたくはないわ。それに妾はただ、敵の戦力を知りたかっただけじゃ!」
「敵?」
「巨乳は敵、貧乳は味方じゃ。じゃからお主は味方じゃぞ?」
リズリズはわたしにバチィンッとウィンクをかましてくる。
同士と認められたみたいだ。たしかにわたし、胸はないしね。
だけど生憎、わたしは小っちゃい胸もおっきな胸も好きだよ!
世界平和はそうやって生まれるんだからっ!
「それにあの白銀小娘も味方じゃ。金髪おっぱいは敵じゃ」
リズリズが独自の呼び名で二人を戦力分けする。
戦力差すごくない? 今のところ三対一なんだけど。
「ねえ、リズリズさんはなにか言ってたりするの?」
フィラちゃんが聞いてきた。
年上だからか初対面だからか、一応さん付けしているあたりにフィラちゃんの礼儀正しさが出ている。
意外と常識あるからね、フィラちゃん。
「なんか貧乳は味方、巨乳は敵とか言い始めたよ。わたしとイヴは味方で、シアちゃんは敵だって」
「じゃああたしはどうなのかしら……」
フィラちゃんは自分を指差した。
そんなフィラちゃんの胸元を凝視するリズリズ。
フィラちゃんは貧乳と言うほど小さくないけど、巨乳と言うほど大きくもない。
そんなお胸に、リズリズはどんな判定を下すんだろうか。なんだかドキドキする……っ!
しばらく観察したリズリズは、やがてその口を開ける。
「赤髪ビビリは……どうでもいい。中途半端じゃ」
「赤髪ビビリは中度半端でどうでもいいってさ。どんまいフィラちゃん」
「はぁああっ!? 誰がビビリよ、誰の胸が中途半端よ! でてきなさいこの変態魔族! あたしが成敗してやるわ!」
フィラちゃんの礼儀正しさはぴゅーっとどこかへ飛んで行っちゃったみたいだ。
そしてリズリズはすごいね。元から礼儀正しさの欠片もないや!
「できるもんならしてみい。ほれ、ほれほれ~」
「リズリズ今フィラちゃんの目の前であっかんべーしてるよ」
「くうぅっ、屈辱的だわ……!」
悔しそうな顔をするフィラちゃん。
そんな顔しないでよ、ちょっとゾクゾク来ちゃうじゃん!
「ほれほれ~、あほれほれ~」
「いつまでバカみたいな顔晒してるのリズリズ。いい加減にしよう? もう哀れだよ……」
「お主急に酷くないかえ!? ……ん?」
と、そこでリズリズはしゃがみこんでいたイヴに目を止めた。
「のう、あの白銀小娘は何をしておるんじゃ? なにやら大層楽しそうにしておるが……」
「ああ、イヴならわたしの髪の毛を集めてるよ」
「……ああ、掃除をしておるのかえ?」
「え? ううん、わたしの髪の毛集めるのが趣味なんだって。ね、イヴ?」
「違うよリューネ。趣味じゃなくて生きがい」
「なんじゃコイツは……」
そうだよね、人の髪の毛集めるのって変なことだよね。
それに気づけなくなってる自分に今気が付いちゃった。怖い! 自分が怖い!
わたし、段々イヴの色に染められてきてるってことだよね……あれ?
なにそれ、すっごい興奮するよ!
知らぬ間にわたしを自分の色に染めるとは、やるじゃんイヴ!




