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2話 魔力測定とぺろぺろ

 それから二日後。

 わたしたちは無事に王立学園のある地、王都へとたどり着いていた。

 御者のおじさんと別れたわたしとフィラちゃんは、仲良く王立学園へと歩いている。


「えへへー」

「なによ、どうしたの?」

「楽しみだね、フィラちゃん!」


 わたしはフィラちゃんに笑いかける。

 フィラちゃんは呆れたように私の顔を見た。


「あんた、楽観的ねー。知ってると思うけど、王立学園はこの国一番の教育機関よ? きっと生半可な試験じゃないわ」

「きっとなんとかなるなるー。フィラちゃんは剣士科だっけ?」


 フィラちゃんの腰にぶら下げた剣を見ながら言う。


「ええ。リューネは魔法科よね」

「うん」


 王立学園は「魔法科」と「剣士科」に分かれている。

 剣士科は剣士が半分以上を占めてはいるが、斧士や槍士も含めての「剣士科」らしい。

 なんでも、昔魔王を打ち倒した勇者様が剣士だったから剣士科なんだって。

 戦士科にしちゃえばいいのにね。


 そんな話をしているうちに、わたしたちは王立学園の敷地に辿り着いていた。

 今は入学試験中だからか、緊張した面持ちの人たちがまばらにいる。


「さて、と。リューネとはここで一旦お別れね。合格したらそのまま寮に案内されるみたいだし、寮の部屋割りは無作為らしいから」

「わたし、フィラちゃんとはすぐに会える気がする! だってまだフィラちゃんの涙舐めてないし!」


 わたしがぺろりと舌を出すと、フィラちゃんは苦笑いを浮かべた。


「絶対舐めさせないからね? まったく……。じゃあ、受かりなさいよ?」

「当然! フィラちゃんもだよ!」

「まっかせときなさい!」


 フィラちゃんは力強く笑う。

 フィラちゃんの笑顔は癒しだね、うん。


 わたしはフィラちゃんと別れ、魔法科の試験会場へと向かった。








 試験は小さなテントで行われるようだった。

 テントの傍には数人が様子を窺うようにたむろしている。


 わたしはためらうことなくそのテントへと近づいた。

 そこには女の人が一人座っていた。

 深い蒼の髪をした人だ。

 出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んだ「大人!」って感じの体型をしていた。

 多分二十歳過ぎ?くらいで、セクシーだけど嫌らしさは感じない。わたしもこんな風になれるのだろうか……。


「すみません、試験を受けたいんですけど」

「ほう……迷わず来ましたか。見込みがありますね」


 お姉さんはニヤリと笑う。


「? 何の話ですか?」

「決断力があるやつは受かりやすい、私の経験則ですよ」


 そう言って知的な顔でニヒルに笑った。

 カッコいい……! この人、大人だ!


 私がお姉さんの素敵な笑顔に口をポカンと開けている間に、お姉さんはわたしの前に透明な珠を取り出す。

 わたしのこぶし大の大きさだ。


「魔力珠は知っていますか?」

「知りません」

「体内に保有する魔力の量を測る機械です。これで2000以上の数値出せば合格です」


 ちなみに一般人の平均は100だ、とお姉さんは告げる。

 なるほど、それはたしかに結構厳しい基準かもしれない。

 一般の人の二十倍の魔力量がなきゃいけないのかぁ。


「一応言っておくと、気負わないでくださいね。基本的に受験者のほとんどは1000以下です。この試験は桁外れの魔力量を持つ人間を選別する試験ですから。ほとんどの合格者はこの後の魔法の威力試験で合格になります」

「わかりました。……でも大丈夫ですよ?」

「大丈夫? 何の話――っ!?」


 私は魔力を解放し、絶句するお姉さんに言う。


「わたし、魔力量には自信がありますから」


 そしてわたしは魔力珠へと手を伸ばす。

 わたしが触れた魔力珠はピカッと光り――爆発した。

 ……あれれ?






 それから数分後。


「これでも駄目ですか……」

「す、すみません……」


 わたしはお姉さんにぺこぺこと頭を下げていた。


 出された魔力珠に手を触れた瞬間、どうしても魔力珠が爆発してしまうのだ。

 最初のは小魔力珠だったらしいのだが、大魔力珠まで爆発させてしまった。

 これ以上の規格の魔力珠は今存在しないらしい。


「これですと、『計測不能』とするしかないですかね」

「も、もしかしてわたし、不合格ですか?」

「いえ、あなたを不合格になんてしたら私はクビですよ。まさか大魔力珠でも測れないとは思いませんでしたが……文句なしの合格です」


 そう言ってお姉さんはわたしが書いた書類を読む。


「えーっと……リューネさん。ようこそ、王立学園へ」


 そう言ってお姉さんはわたしにニコリと微笑んでくれた。

 大人なのに可愛らしいとか、これは反則では?

 でもとりあえず、今は合格できたことが嬉しい。


「あ、ありがとうございますっ! やった、これでご主人様を探し放題!」

「ご主人様?」


 首をひねらせるお姉さん。

 そんなお姉さんに、わたしはにっこりと笑顔を向ける。


「はい。わたし、ご主人様を探してるんです!」

「そ、そうなんですか……」


 ……あれ? 思ってた反応と違う。

 もしかして先生ってご主人様願望が無いタイプなのかな。珍しい。

 でも先生の大人な感じは結構わたしの好みだ。あんまり年上すぎるのは嫌なんだけど、先生位の年齢ならセーフ。

 先生がご主人様になってくれないかなぁ……? あ、そうだっ!


「先生って大人ですよね。顔も身体も性格も言動も」


 わたしは身をずいっと乗り出して先生に顔を近づける。

 先生の目は海みたいに青い色だ。中に魚でも泳いでそうなくらいに青い。

 目を合わせた先生は顔をキョトンとさせた。


「はぁ、ありがとうございます」

「どうですか? わたしのご主人様になってみませんか? きっと楽しいですよ!」

「それはちょっと……」

「そうですか……」


 残念。振られちゃった。

 でもまあ、王立学園にはいっぱい人がいるんだ。

 わたしだけのご主人様、絶対見つけてやるぞぉ!






「ええーと、この辺かな?」


 数時間後、わたしは王立学園に併設された寮の中を歩いていた。

 百部屋以上あるからどこが自分の部屋だかイマイチわからない。

 こんな大きな建物を歩き回るの初めてだしね。


「あ、ここか!」


 しばらくさまよって、ようやく自分の部屋を見つけた。

 なんでも魔法科と剣士科の人間は二人一組で同じ部屋になるらしいけど、どんな人だろう。

 ご主人様になってくれるような人だといいなぁ。


 わたしは一つ息を吐いて、部屋の扉を開けた。

 部屋から光が差し込む。

 どうやら先に剣士科の人がもういるみたいだ。


「こんにちは、リューネです! よろしくお願いします!」


 顔を見る前に頭を下げる。

 挨拶大事って、お父さんもお母さんも言ってたもんね。

 すると、頭の上から驚いた声が聞こえた。


「リューネ!?」


 ここ数日で聞き慣れた声。


「この声は!」


 わたしは頭をあげる。

 そこにいたのは真っ赤な髪をポニーテールにした女の子、フィラリスだった。


「フィラちゃん! ぺろぺろ!」

「ぺろぺろやめい!」


 抱き着きにいった私の顔をぐぐぐと遠ざけるフィラちゃん。

 もう、つれないんだから!



「それにしても、まさかあんたと同じ部屋だとはね……」

「これってもしかして運命じゃない? もしかしなくても運命じゃない?」


 わたしは徐々にフィラちゃんに近づく。


「ねえ運命かな? 運命かな?」

「運命の押し売りやめなさい」


 私から徐々に距離をとるフィラちゃん。

 なにその対応、すごく素敵!


「えへへ、運命かぁー」

「運命なのは決定事項なの?」


 もう、フィラちゃんは照れ屋だなぁ。

 これだけ部屋があって同じ部屋になるなんて運命以外ないに決まってるじゃん。


「じゃあ改めて。これからよろしくね、フィラちゃん!」


 わたしはフィラちゃんに手を差し出す。


「うん。あたしの方こそよろしく、リューネ」


 その手を、フィラちゃんは微笑みながらとってくれた。

 フィラちゃんの手はわたしより一回り大きくて、少し固い。

 きっといっぱい剣の練習をした手なんだ。頑張り屋なフィラちゃん、カッコいい!


「あ、さっき先生から聞いた話なんだけどね?」


 わたしは口に手を添え、フィラちゃんに小声で言う。


「なんでもこの寮、寮に入った日は同室の人と涙をぺろぺろしあうっていう風習があるんだって!」

「そんな風習があってたまるかあああ!」


 嘘をついてみたけどフィラちゃんにはすぐに見破られてしまった。

 ぬぬぬ……やるね、フィラちゃん!


「さて、じゃあ今日は同じベッドで寝ようか」

「寝ないよ!?」

「ならわたしに床で寝ろって命令してくれる?」

「しないよっ!?」


 やれやれ、フィラちゃんは頑固者だなぁ。

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