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17話 誰にでも言われたくないことがある

 そして翌日。

 わたしたちは初めて特進クラスの教室へと向かう。


「何人くらいいるんだろうねー」

「さあ。でもそんなにはいないんじゃないかしら。特進クラスっていうくらいだし」

「わたくしが聞いた話ですと、例年四、五人くらいらしいですわ」


 え、少なっ!

 そんなに少ないんじゃ、もしかしてわたしたち以外いない可能性もあるんじゃ……。

 嫌な予感を感じながら、わたしは特進クラスの教室の扉を開けた。

 そこには二、三十ほどの机が並べられるスペースに、四つの机が並べられていた。


「机が四つか。……どうやらボクたちだけみたいだね」


 イヴが無慈悲に呟く。

 そ、そんな……っ!


「新しいご主人様候補の人は!? いないの!?」

「諦めなさいリューネ」


 わたしたちしかいないんじゃ、特進クラスにはいった意味が半分しかないじゃん!

 たしかに皆と同じクラスで授業を受けられるのは嬉しいけど……。

 いや、だめだ。ここは気持ちを切り替えよう。


「うぅぅ……仕方ない、とりあえず誰かわたしに床を舐めろって命令してくれるかな」

「リューネっていつも突拍子ないよね」

「というか、舐めたいのなら勝手に舐めればよろしいのでは……?」


 あー、シアちゃん。それは違うんだよね。

 わたしはシアちゃんに指を振る。


「チッチッチッ、シアちゃんまだまだわかってないね。舐めたくないからこそ興奮するんだよ。やりたくないことを無理やりやらされている、そこにこそ興奮が生じる。落ち着いて考えてみて? シアちゃんならわかるはずだから」

「なるほど……。勉強になりますわ」

「そんなことを学んでも使う機会は永劫ないわよ」


 むむぅ。

 せっかくシアちゃんが真面目に聞いてくれてるのに、それを邪魔するのはいただけないなぁ。

 ちょっとこらしめちゃおー。


「世の中何が役に立つかはわからないんだよ? 例えば異常にくすぐったくなるくすぐりかたとかね」


 わたしはフィラちゃんの身体に触れ、わきわきと手を動かす。

 さあ、フィラちゃんはどんな声を上げてくれるのかな? げっへっへ。


「ひゃんっ!?」


「ひゃんっ!?」ですか。

 そして変な声を上げてしまった羞恥で顔を真っ赤にすると。

 なるほどなるほど……。


「フィラちゃん。わたし今この技術を覚えていてよかったと心から思ってる」


 ありがとうございます。ありがとうございます。


「あんたねぇ……少しは反省しなさい!」


 お返しとばかりに、フィラちゃんがわたしをくすぐってくる。

 拙い手の動かし方が逆にこそばゆさを感じる。

 こ、これは……っ。フィラちゃん意外とくすぐりの才能があるんじゃ……っ!


「こちょこちょこちょ~! どう、やられる苦しみが少しはわかったかし――」

「ああっ! いいよフィラちゃん! 興奮する、興奮するぅぅ~っ!」

「思ってた反応と違うっ!」


 フィラちゃんはバッと手を離してしまう。

 せっかく気持ち良くなってきたところだったのにぃ……。

 でも、このむずかゆいようなもどかしいような感じが逆にいいのかも。


「フィラちゃんセンスあるよ。もう一回くすぐってくれない? お願いだから」


 もう一回あの感じを味わいたい。


「何なのよあんた、攻守隙なしじゃない」

「ちょ、ちょっとフィラちゃん。急に褒められると照れちゃうよぉ……」

「褒めてないのよ! 褒めてないの! 気づいてリューネ!」


 え、褒めてないの? じゃあ何、貶されてたの?


「……それはそれで興奮!」

「あんたはあたしの手には負えないわ……」


 フィラちゃんがお手上げのジェスチャーを見せる。


「あっ」


 と、その時、イヴが声を上げた。

 素早い動作でしゃがみこみ、何かをつまみ上げる。


「えへへ、新鮮な髪の毛を入手したよ」


 イヴはそう言うと、嬉しそうにわたしの髪の毛をポケットにしまった。


「お、おめでとうイヴ……」


 普通にドン引きだよぉ……。


「リューネを止められるのはイヴの髪の毛への情熱だけね」

「そんな止め方はいや……」


 嫌がるわたしを見て、シアちゃんが言う。


「リューネさんって引く基準がいまいちわかりませんよね。眼球舐められるのは嬉しいのに、髪の毛集められるのは引くなんて」

「普通髪の毛集められたら引くでしょ!?」

「普通なら眼球舐められるのも引くと思うわよ」

「いや、その理屈はおかしくない?」


 眼球舐められるのは興奮するでしょ。

 そこはちゃんと区別しなきゃ。だよね?


「ボクもフィラリスの理屈はおかしいと思うな」


 あれ、まさかのところから援護が来た!?


「髪の毛を集めて引くのはおかしいよ。そもそもボクが集めてるのはただの髪の毛じゃないんだけどね。いわば……そうだな。天使の絹といったところだね」


 ……どうしよう、言っている意味がまるでわからない……。

 天使の絹でもなんでもないよイヴ。それただのわたしの髪の毛だよ。





 そのまましばらく話していたわたしたちだが、先生が一向にやってこない。

 教室は間違えていないと思うのだが……。


「何かあったのかもしれませんわね」

「見てきた方がいいかしら。ローレンシア、一緒に行かない?」

「ええ、では一緒に」


 そう言ってフィラちゃんとシアちゃんが席を立ち、教室の扉を開ける。

 開けられた扉の真ん前には、セリア先生が座り込んでいた。


「あ、す、すみません。もういます」

「どうしたんですか先生。いたなら入ってきてくれればよかったのに」

「聞こえてきた会話が凄過ぎて入るのに躊躇していました。私にはこのクラスを教える自信が持てません」


 聞こえてきた会話? ああ、イヴの辺りか。


「イヴ、先生を怖がらせちゃ駄目だよ」

「怖がらせたのはキミの方だよ、リューネ」


 えー、絶対イヴの方だと思うけどなぁ……。


「でもこのままでいるとクビになってしまうので、とりあえず気を取り直して頑張りたいと思います」


 さすが先生、立ち直りが早い。

 ビシッと決まった服装と動作で、先生はわたしたちに名前を名乗る。


「私はセリアと申します。僭越ながら『蒼姫』と呼ばれることもあります。趣味は男漁りです。彼氏はできたことありません」


 後半の二つの矛盾具合が凄いことになってる気がする。


「先生、質問いいですか?」

「はい、じゃあそこの……えーっと、イヴさん。どうぞ」

「なんで先生には彼氏ができないんでしょうか。もしかして結婚願望はないんですか?」


 凄いねイヴ! 一発目から即死攻撃放つなんて!


「カ、カレシ? ケッコン……ガ……ア……グ、グゴロロロロロ!」


 まずい、現実を突きつけられて先生が理性を失っちゃった!


「先生、落ち着いてください!」


 わたしは先生に回復魔法をかける。


「はぁ、はぁ……すみません、少し取り乱しました」

「大丈夫なんですか先生。人ならざる姿になりかけていたような気がしますけど」

「わたくしの目には鬱屈としたオーラがはっきりと見えましたわ」


 二人も心配するほどの危険さだ。

 この世の不幸を全部集めたみたいな表情してたもんね、先生。

 いくらなんでもさすがにあそこまで豹変するとは思わなかった。


「先生ごめんなさい。ボクが無遠慮でした」


 それを重く受け止めたのか、イヴが先生に謝る。

 その謝罪に、先生はきょとんとした表情を浮かべた。


「無遠慮? ええと……今何の話をしてましたっけ? すみません、ちょっと記憶が飛んでしまって」

「……!」


 き、記憶を消してる……!?


 先生に彼氏関係のことは言ってはいけない。

 それを心に刻んだわたしたちだった。




 理性が復活した先生は、先ほどの変貌が嘘のような聖女の笑みでわたしたちを見る。


「さて、今年の特進クラスの生徒は四人となりました。皆さん私が直々に選んだので、その実力は折り紙つきです。特に今年の特進クラスはレベルが高いと思ってもらって結構ですよ」


 先生に褒められて、フィラちゃんが嬉しそうにニヤニヤしてる。

 フィラちゃんってば本当にチョロい。でもそういうところも好き!


「では、早速授業に入って行きたい……と思うのですが、その前に」


 その前に?


「『封印の岩穴』を見に行きたいと思います。皆さん、私についてきてください」


 そう言うと、先生は教壇を降りて教室の扉を開けた。

 封印の岩穴? 一体何が封印されているんだろう?

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