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12話 世界に一本しかないキャンドル

 わたしは修練場で魔力を放出する。

 魔力を放出し続ける、いつもの訓練だ。

 皆だんだん慣れてきたみたいで、訓練を終える時間になってもわたしやイヴ以外にも何人か残っている人がいた。

 皆、成長速いなー。負けられないね、うん!


「よし、そこまでだ」


 先生がわたしたちにそう合図をだし、わたしたちは魔力の放出を止める。

 先生は何か話があるらしく、わたしたちを集め、先生の周りに座らせた。


「知っている者もいるかと思うが、先日入学試験が終わった」


 ああそうなんだ。もう合格してたわたしには関係ないことだし全然気にしてなかった。


「そこで、一週間後にクラス分けの試験を行う」

「え、クラス分けにもまた試験があるんだ」


 わたしは隣のイヴに言う。

 てっきり入学試験だけで終わりなのかと思ってたよ。


「今度はもっと実践的に能力を計るらしいよ。さすがに入学希望者全員と戦ってたら時間が足りないんだろうね」


 イヴが修練場の床をごそごそと探りながら教えてくれる。

 教えてくれるのは有難いけど、わたしの毛を見つけて喜ぶのは怖いよ?


 先生もイヴと同じようなことを説明している。

 なんでも、試験官の人と一対一で戦うらしい。


「凄い成績を残せば特進クラスになれる。数人の狭い枠だが、目標は高く持った方がいいぞ。目線が前を向くようになるからな」


 先生はそう言って今日の訓練を締めた。




 その日の夕方。

 寮に帰ってきたわたしは、フィラちゃんと話し合う。


「今日クラス分けについて説明があったよ」


 ぐてんと寝転がりながら言うわたしに、胡坐のフィラちゃんも反応した。


「ああ、あたしたちの方でもあったわよ。あたしはもちろん特進クラスを目指すわ」

「剣士科にも特進クラスってあるんだ」


 そりゃあるか。

 魔法科にあって剣士科にないわけないよね。


「ちなみに特進クラスは剣士科も魔法科も同じクラスで授業を受けるのよ。より実践的な授業なんだって。特進クラスの卒業者は数多くの人が第一線で活躍してるらしいわ」


 フィラちゃんがそう教えてくれる。

 そんな説明まったくされなかった……あの先生いい加減だなぁ。

 いや、もしかして常識なのかな?

 ここ数日でわかったんだけど、わたしは常識があんまりないみたいだ。

 もちろんお母さんとかに教えてもらった最低限の常識はあるけど、普通に生きてたら知っているはずのことを知らないことが多々ある。

 ご主人様探しに夢中だったからね、仕方ないね。


 特進クラス……凄い人たちが集まる王立学園の中でも選ばれた人たちってことは、きっとすっごく強い人たちが集まるってことだよね。


「じゃあわたしも特進クラス目指してみよーっと!」


 わたしはガバッと起き上がる。


「あんたも目指すの? 意外ね」

「だって強い人じゃないとわたしに痛みを与えられないじゃん。だから強いご主人様に出会うために、わたしは特進クラスを狙うよ!」

「今まで聞いた中で一番不純な動機ね、それ」


 ああ、もっと冷たくしてフィラちゃん!

 もっと蔑むような目でわたしを見て!


 でも、他にも特進クラスを目指す理由はある。


「あと、フィラちゃんも特進クラスを目指すんでしょ? フィラちゃんと同じクラスになれたらわたし嬉しいし。だから頑張るよ」

「……あ、あたし飲み物とってくるわ」


 フィラちゃんは顔を手で隠しながら台所に引っ込んでしまった。

 照れてるフィラちゃん、いと愛おしいなり。




 次の日。

 わたしたちの部屋を、誰かがチャイムを鳴らす。


「やぁ、リューネ、フィラリス」


 そこにいたのはイヴとローレンシアだった。


「イヴ、それにシアちゃん!」

「二人ともどうしたの?」


 わたしたちは二人を部屋の中に招き入れる。


「友達の部屋……」


 シアちゃんは肩を縮こまらせて、なんだか小っちゃくなって部屋に入ってきた。

 緊張してるみたいだけど、なんでだろう。


「シアちゃん前も来たよね?」

「き、来ましたが、それは友達ではない時ですわ。友達の部屋というのは特別なんですわ」


 行儀よく膝を折りたたんで座る。

 早速髪の毛を探し始めるイヴとは対照的だ。


「ローレンシア、気持ちはわかるわよ。あたしなんかあんたたちの部屋にお邪魔する前の日、一睡もできなかったんだから」


 フィラちゃんがシアちゃんの肩に手を置き、うんうんと頷く。

 そう言えばフィラちゃんも緊張してたっけ。


「フィラリスさん……!」

「あたしはあんたの味方よ、ローレンシア」


 なんか二人が同盟を結びだしちゃった。

 目の前で結ばれた同盟に、床を這いずり回っていたイヴが顔を上げる。


「そんな緊張する? しないよねリューネ」

「しないなぁ。むしろ楽しみだよね、普通」


 緊張するって感覚がよくわかんないや。

 友達の部屋に行くのって純粋に楽しいことしかないと思うんだけどな。


 わたしとイヴの言葉に、二人は敵意をむき出しにした。


「あなたたちはわたくしたちとは別の生命体ですわ」

「そうだそうだ、このエイリアンたちめ!」


 ぎゃあぎゃあと喚きだすフィラちゃんとシアちゃん。

 二人とも自分を守るのに必死だ。


「フィラちゃんもシアちゃんも、なんか可哀想……」

「哀れだよね」

「誰が哀れで可哀想よ!」


 さすがフィラちゃん、ナイス突っ込み。

 というかイヴ、結構毒舌なんだね。

 その毒舌の矛先をわたしに向けてくれると最高なんだけど。


「ところでリューネ。髪の毛が見当たらないんだけど……」


 イヴは手をぐーぱーぐーぱーと開閉させる。

 どうやら這いずり回っても成果が出なかったようだ。


「ああ、もう掃除しちゃったからかな?」


 偶然ついさっき掃除したばっかりだったんだよね。

 直後に二人が来たから、我ながらナイスタイミングだったと思う。

 でもイヴは、もしかして髪の毛拾えなくてショック受けちゃったかな……?


「うぐぅ……ひっく……」

「泣くほど!?」


 え、泣くほど残念だった!?

 わたしの髪の毛にどれだけの価値を見出してるのイヴ。

 それはただの毛髪でしかないんだよ?


「ご主人様から贈り物を貰えないなんて……」

「贈り物っていうか、髪の毛だからね? ただのゴミだからねそれ」


 そんなにへこまれると悪いことしたみたいな気分になってきちゃうよ。


「そういえばついこの間、リューネさんの匂いがするキャンドルの制作を依頼されましたわね」

「!? ま、まさか作ってないよねシアちゃん!」


 何その情報、初耳だよ!?


「心配しなくてもわたくしにそこまでの技術はありません。断念しましたわ」


 シアちゃんの言葉にわたしは胸を撫で下ろす。

 そうだよね、さすがに人の匂いを再現するのは無理だよね。

 びっくりしたよ、もう。


「でも断念ってことは、一回チャレンジはしたのね」

「ええ。次は必ず作って見せますわ……!」

「なんで職人魂に火がついちゃったの!?」


 なんで意気込んでるの! なんで決意を秘めた目をしてるの!

 わたしはイヴをキッと睨む。

 イヴのせいでシアちゃんが変なもの作り始めちゃったよ。反省してるの?


「待ってるよ、ローレンシア」


 あ、駄目だ。超嬉しそうな顔してる。




「それで、結局何しに来たの? シアちゃんも来たってことは、髪の毛採取が目的じゃないんでしょ?」


 わたしは二人に尋ねる。

 別に何の用がなくても来ていいんだけど、なんか用事がある感じだったし。

 きっと何かあるんだろう。

 わたしは二人の顔を見る。


「キミたちも特進クラスを目指すんだろ? ボクとローレンシアも目指すんだ」

「だから、一緒に頑張りましょうってことなのですわ」


 どうやら二人も特進クラスを目指すらしい。

 イヴは今日授業で話したから知ってたけど、シアちゃんも目指すのか。

 この前戦った時もすごい強かったし、シアちゃんなら可能性はあるのかもしれない。


 二人の提案を聞いたフィラちゃんは口角を上げる。


「協力しようって訳ね、あたしはいい考えだと思うわ」


 その言葉でわたしは改めて気が付く。

 そっか、協力……。


「えへへ……」

「どうしたんですのリューネさん」


 いつの間にかわたしの顔には笑顔がこぼれていた。

 頬を手で抑え込んでみてもニヤニヤが収まらない。


「えへへへ……」

「一体どうしたのよリューネ」

「なんかこういうのいいなぁって。友達って感じ」


 そう告げたわたしに、三人の目線が集まった。


「……たしかにそうかもね」

「考えてみれば、こんな風に同じ目標に向かって頑張るのは初めての経験だわ」

「友達、良い響きですわ……!」


 わたしは三人の前に腕を出す。


「頑張ろう皆! 目指せ特進クラス!」


 そこに、三人がそれぞれの腕を乗せた。

 そして同時に上へと持ち上げる。


「えいえいおー!」


 いい感じに纏まった気がする!

ヒロイン?の名前をフィラリスに変更しました。


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