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11話 休日はぺろぺろと共に

 今日は訓練がお休みなので、フィラちゃんと一緒に王都を見て回っている。

 わたしもフィラちゃんも王都生まれじゃないから、こうして王都を回るだけでも新しいものばかりで楽しいのだ。


「ふんふふーん」

「楽しそうね」


 鼻歌を口ずさむわたしに、隣のフィラちゃんが笑う。

 わたしは同じように笑みを返した。


「フィラちゃんとお買いものに行けるんだもん、すっごく楽しいよ」

「なによ、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「ぺろぺろ? ぺろぺろしていい?」

「ノーぺろぺろ」


 ノーぺろぺろかよぉ。

 機嫌いいからいけると思ったんだけどな、残念!



「にしても、やっぱり王都は進んでるんだね」


 わたしは王都の街並みを眺めながら呟く。

 どこもかしこも賑わってるし、故郷では見たことのない魔道具も多い。

 こういう景色を見ると、今わたしがいるのが国の中心なんだなぁって感じられるよね。


「とにかく人が多いわよね。あたしの故郷じゃお祭りでもないとこんなに人が集まることなんてなかったわ」

「わたしのとこもだよ」


 わたしはフィラちゃんに同意する。

 人が多すぎて、軽く人に酔いそうだもん。

 ちょっと気持ち悪くなってきちゃった。

 でも、せっかくのフィラちゃんとの買い物。ここはちょっと無理してでも楽しまなきゃだよね……!


 フィラちゃんに気づかれないように、密かに気合いを入れるわたし。

 そんなわたしのことを、フィラちゃんがじーっと見つめているのに気が付いた。


「ど、どうしたのフィラちゃん」


 綺麗な赤い瞳がわたしの心を見透かすようで、わたしは少したじろぐ。

 フィラちゃんはしばらくわたしを見つめた後、また前を向いた。

 わたしの気分がイマイチなこと、気づかれてないよね……?


「ねえリューネ、ちょっとあたし疲れてきちゃったから、あっちの道に行ってみよっか」


 フィラちゃんは大通りから少し外れた道を指差す。

 人通りのそれほど多くない道だ。


 ……はっ!

 これはつまり、フィラちゃんは今わたしを気遣ってくれてるってことじゃ?

 しかもわたしに気を使わせないように、自分が疲れたってことにして……。

 なんて、なんて包容力なんだろう。


「優しい……。眼球ぺろぺろしたい……」

「もう、怖いこと言わないの」


 苦笑するフィラちゃんと共に、わたしは大通りを抜けたのだった。





 それから十数分後。

 人通りが少ない道に入ったおかげで、わたしの人酔いも大分醒めてきた。

 当初のウキウキ気分が戻ってくる。


「顔色も良くなったし、もう大丈夫そうね」


 スキップを始めたわたしを見て、フィラちゃんは言う。


「うん、ありがとうフィラちゃん。お礼にわたしのご主人様になってください」

「それは断るけどね」

「じゃあわたしのご主人様になるっていうのはどうかな?」

「……いや、今断ったばっかりなんだけど」

「うーん……じゃあしょうがない、フィラちゃんをわたしのご主人様にしてあげるよ!」

「あんたあたしの話聞いてる!?」


 ごめん、全然聞いてなかったや。


「まったく、元気になった途端これなんだから」

「これがわたしの生き様ですからね、えへん!」

「誇れることなの……?」


 自慢げに胸を張るわたしを見て、疑問を投げかけるフィラちゃん。


「チッチッチッ、他人から見て誇れるかどうかは関係ないんだよ。わたしはわたしに誇りを持ってる。だから胸を張る。それだけ」

「カッコいいこと言ってるけど、ご主人様が欲しいだけよね?」

「そうだよ!」


 ニカッと笑いかけるわたしに、フィラちゃんは呆れと感心が混ざったような笑みを見せた。


 そんなわたしたちの横を二人の子供が元気に走り抜けていく。

 わたしとフィラちゃんはただなんとなく、その子供たちを横目で追った。

 子供たちは仲睦まじげにボールを投げ合いながら、あっという間に走り去ってしまう。


「子供は元気だねー」

「まあ、あたしたちもまだ子供だけどね。……ねえ、リューネってどんな子供だったの?」


 子供の時かぁ。


「わたし、わたしはねー……」


 わたしは脳内で幼いころの記憶を呼び出してみる。

 そうだなぁ、はっきりと記憶があるのは四歳くらいかな?

 どんなだったっけ、たしか……。


「お父さんお父さん、わたしのほっぺたをちぎりとって!」


 ああ、そうそう。こんな感じのことを言った気がする。

「何を言い出すんだこの子は……」って、お父さん凄い驚いてたなぁ。

 あと、子供の時はお母さんのくすぐりが好きだったんだよね。懐かしい。


「お母さんお母さん、わたしが呼吸できなくなるまでくすぐり続けて!」


 こんな感じでいっつもお母さんに頼んでた。

「どうしてこんなことに……」なんて、お母さんため息ばっかりついてたなぁ。

 いっつも笑いの絶えない、良い家族だったよ。


「――って感じで、仲良く暮らしてたんだぁ」

「ご家族の苦労が偲ばれるわね……」


 フィラちゃんはげんなりした顔をしていた。

 あれ、おかしいな? 微笑ましい子供時代の話だったんだけど……。


「ちなみにフィラちゃんはどんな子だったの?」

「あたしはこのままよ。運動が大好きなどこにでもいる子って感じ。でも田舎過ぎて同じくらいの年の子がいなかったから、十五歳になったのを機に王立学園に入ったの」


 ああ、だから友達できたことなかったのか。

 普通だったら友達多そうな性格してるもんね。


「……だからあんたが友達になってくれるって言ってくれた時、あたしすっごく嬉しかったわ」


 少し顔を逸らしながらそう告げるフィラちゃん。

 かわいいかよ! フィラちゃんかわいいかよ!


「あ、じゃあわたしがご主人様を探してるって言った時は?」

「頭おかしいって思ったわ」

「辛辣ぅー!」


 この落差がたまらなく愛しいね。

 フィラちゃんやっぱりご主人様のセンスあるよ。


 わたしがフィラちゃんの才能に惚れこんでいると、後ろの方から女の人の声が聞こえてきた。


「ひったくりよ! 誰か捕まえて!」


 ひったくり?


 声のした方を振り返る。

 男の人が傍らにバックを抱えながらこっちに向かって逃げていた。

 本物のひったくりなんて見たのは初めてだ。

 ど、どどどうしよう! サイン貰った方がいいのかな!?


「うわ、こっちきてるよフィラちゃん!」

「大丈夫、あたしに任せて」


 慌てるわたしとは対照的に、フィラちゃんは落ち着いた口調でそう言った。

 そして逃げる男の人の前に進み出る。


「な、なんだお前! そこ退けよ!」

「悪いけど、逃がさないわよ」


 フィラちゃんは腰に差した刀を抜く。

 流れるような動作で抜刀したフィラちゃんに、周りの人間が息を飲んだのが分かった。

 実力は子細な動作にこそ顔を見せる。

 今の一連の動作から感じるフィラちゃんの実力は、どう見積もっても一流レベルだ。


「て、てめえやんのか!? 殺すぞ餓鬼が!」


 慌てた男の人は空いている方の手元に火魔法を創りだし、それをフィラちゃんへと発射する。

 でもわたしは慌てない。だってフィラちゃんが慌ててないから。


「練度が低すぎるわ」


 フィラちゃんはそれを歯牙にもかけず、刀の一振りで払いのけた。

 そして一瞬で男の人との距離を詰め、腹に斬りかかる。

 斬られた男の人は断末魔を上げながら地面に倒れこんだ。


「安心しなさい、峰打ちだから」


 そう言ってフィラちゃんは刀を鞘に収める。

 か、カッコいい……!

 わたしはフィラちゃんにすかさず駆け寄った。


「さすがフィラちゃん、お見事でござる!」

「ふっふっふ、さようでござるか」


 フィラちゃんも少し自慢げだ。


「『安心しなさい、峰打ちだから。あとあたしはリューネのご主人様になるわ』。くぅぅー、カッコいい!」

「後半は言ってないわよ!?」


 あれ、言ってなかったっけ?


 そんなこんなでわたしたちは休みの日を満喫したのだった。

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