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10話 お部屋訪問

 決闘から数日後。

 わたしとフィラちゃんは、寮の廊下を並んで歩いていた。

 今日はイヴとシアちゃんの部屋にお呼ばれされたので、遊びに行くところなのだ。


「あたし、他の人の部屋にお呼ばれなんて初めて。ちょっと緊張してくるわね……」


 胸に手を当てるフィラちゃん。心なしか顔もちょっぴりこわばっているように見える。

 なんとか緊張をほぐしてあげたいところだ。


「胸に手を当てるとちょっと落ち着く?」

「まあ、気休め程度だけどね」

「ならわたしの胸も触っていいよ!」

「どういう思考回路が組まれてんのあんた」


 うーむ、バッサリ断られてしまった。

 このなんともにべもない感じに少し興奮を催しますね。


「まあ大丈夫だよ。わたしがサポートしてあげるからさ」


 わたしは会心の笑顔でフィラちゃんにサムズアップする。


「……なんか余計不安になって来たわ」


 どうして!?







 イヴたちの部屋に着いたわたしたちはチャイムを鳴らす。

 トタトタと音がして、すぐに扉が開けられた。


「いらっしゃい」

「ようこそ来てくださいましたわ」


 イヴとシアちゃんがわたしたちを迎え入れてくれる。


「おじゃましまーす」


 わたしとフィラちゃんは靴を脱ぎ、部屋までの短い廊下を歩く。

 順番はフィラちゃんが前、わたしが後ろだ。


 わたしが意気揚々と歩いていると、フィラちゃんが不意に立ち止まる。

 あまりに突然のことに、わたしは不意に立ち止まったフィラちゃんの背中にわぷっとダイブしてしまった。


「わぷっ!」

「あ、ご、ごめんねリューネ。ちょっと驚いちゃって」

「驚く? 何に?」

「いや、部屋に……」


 そう言ってフィラちゃんは一歩横に動き、わたしに部屋が見えるようにしてくれた。


「どれどれ?」


 わたしは顔だけ出して覗き込んで見る。

 そんなわたしの目に飛び込んできたのは、真ん中で二分された部屋だった。

 左側はぬいぐるみで埋め尽くされているが、右側にはほとんど最低限の家具しか置かれていない。

 まるで左右で完全に別の部屋みたいだ。


「えー、なにこの部屋! こんな部屋見たことないよ!」

「後で問題が起きないように、真ん中で半分ずつにわけたんだ。最初は絶対にヤバい人だと思ってたから……」

「あの時は本当にごめんなさいですわ……」


 ああ、ラップで挨拶されたから怖くて部屋を二分したってことなのかぁ。

 それにしてもこれだけキッチリ分けられてると、なんだかちょっと芸術的にすら思えるよね。


 わたしは二つに分かれた丁度真ん中に腰をおろす。

 とそこで、わたしの嗅覚が脳へと情報を伝達してきた。


「すんすん、すんすん……なんか良い匂いがしない?」

「たしかに。落ち着く匂いがするわね」


 フィラちゃんもわたしに同意する。

 心の一番深いところがぽわってするような、優しい匂いがする。


「ああ、それはローレンシアが作ったアロマキャンドルの匂いだよ。ね、ローレンシア?」

「ええ、自信作ですわ。お気に召していただけましたでしょうか」


 あ、アロォマキャンドゥルを自分で?

 シアちゃん、この子女子力の塊だ!


 驚愕するわたしの横で、イヴは深呼吸するみたいに大きく息を吸い込む。


「ボクこの匂い好きなんだよね。元々あんまり眠れないタイプだったんだけど、ここの寮に来てからすぐに眠れるようになったよ」

「イヴさん、なんて嬉しいことを言ってくれるんですの……!」

「ありがとうローレンシア。キミのおかげだよ」


 なんかイヴからイケメンオーラがでてる……!


「イヴ、あんた絶対女の子に告白されたことあるでしょ」


 それを見ていたフィラちゃんが苦笑しつつ言う。


「ちょくちょくあったけど、よくわかるね」

「そりゃわかるわよ」

「でもそういうのは興味ないから全部断っちゃったけど」

「あー、やっぱりそうよね。あたしも何度かあったけど、全部断っちゃったわ」


 イヴもフィラちゃんもカッコいいからなぁ。正直告白したくなる気持ちもちょっとはわかる。

 まあわたしは恋愛よりご主人様探しが優先ですけどね!




「あれ? 一個だけぬいぐるみがこっちにある」


 話がひと段落したところで、フィラちゃんが一つのぬいぐるみを指差した。

 たしかにイヴの方に一つだけぬいぐるみが置かれている。

 イヴはそれを取り、膝の上に乗せた。

 そしてちょこちょことぬいぐるみを動かしながら話し出す。


「これはね、昨日ローレンシアに貰ったんだ。『友達のしるしに』って。知ってる? これってローレンシアが一個一個手作りしてるんだよ」

「え、シアちゃんすごい!」

「凄いわね。お店で売っても充分なレベルじゃないの……?」


 わたしとフィラちゃんはそのぬいぐるみをまじまじと見つめる。

 縫い目のほつれとかも全然ないし、すごすぎでしょシアちゃん。

 人の皮を被った女子力という概念そのものなんじゃないの?


「お、同じ部屋なのですから、これくらいは当然なのですわ!」

「当然じゃないよ。だってボクにはできないもん。ありがとう、ローレンシア」

「……どういたしまして、ですわ」


 シアちゃんはプイッと顔を逸らした。

 あ、照れてる。

 照れるシアちゃんを見て、わたしとフィラちゃんは互いに微笑みあう。

 こういう恥じらう乙女感はわたしにはゼロだからなぁー。

 純粋に微笑ましい。


「あ、そうだ。リューネに見て欲しいものがあったんだった」


 わたしがそんな思いでいると、イヴが不意に立ちあがった。


「え、わたしに?」

「うん。このタンス、開けてみて」


 にこにこ笑顔でタンスに掌を向けるイヴ。

 中に何かが入ってるってことなのかな?


 わたしは言われるがままイヴのタンスに手をかけ、引き出しを引いた。

 そこに入っていたのは、一冊のアルバムだ。


「見てみて」

「うん」


 わたしはそれを開けてみる。


「……え、何これ?」


 わたしはその中身に困惑を隠せない。

 アルバムの中には、桜色の糸のようなものが一本一本丁寧に貼り付けられていた。

 でもこれ、どこかで見たことがあるような……。


「ねえイヴ。これって何?」

「リューネの髪の毛」


 ひぇぇー!

 え、わたしの髪の毛アルバムに保管してあるの!?

 なんで、なんで!?


「イヴ、なんでこんなことを!?」

「だってボクはリューネの召使いだからね。当然だよ」


 絶対召使いの仕事じゃないよね? 当然でも何でもないよね?

 あなたの中の召使い像は確実に間違ってるよ、イヴ!


「今では髪の毛を見たらいつの物かまでわかるようになったよ。へへ」

「なんであんた自慢げなの……?」

「わたくしの同居人がどんどん危ない道に向かって行ってますわ……」


 なにかとんでもないものを呼び起こしてしまったのかもしれない……。

 わたしは爽やかな笑顔を浮かべるイヴにただただ戦慄するのだった。

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[一言] イヴが·······ヤバいWWW
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