人間、時が過ぎれば何か変わる…変わって欲しいので短編小説作りにトライ!
序章と称した前回の屁理屈とはちょっと変えて――というより、何がどうしたかったのか忘れた、というのが本音ですが、自分が完結出来ないのは無謀にも連載から始めてしまったせいだ。物語が長くなれば長くなるほどに、設定、文章にするものも細かくなる。異世界だから余計に多くなってしまう。が、さじ加減がわからない。いまだにわからない。だから、連載ものが終わらない。終わらせられずに終わる。
なので、短編を書こう。
まずは、どんなものが書きたいか。異世界ものは挫けてしまうので、でも現実世界がわからない。現実の方が無知に等しい、と言ったら馬鹿にされるかもしれないが、流されて生きているような人間だもの、「まぁいいんじゃね」の根性なんてそんなものだ。自己主張は顔の見えない誰かさんでなければ言えないヘタレだ―――と、自分のことはここらへんで置いておきまして、異世界から離れられない、けど現実に目を向けられないなら書くのは一つしかない。
オカルト、だ。
ホラーでもいい。
「〜でもいい」は、人に誤解を与える言葉ですが、簡単に言っているわけじゃありません。
異世界は非現実にほんのり現実を混ぜた世界。
オカルトホラーは、現実に程よく非現実を混ぜた世界。
――そう思っております。ちなみに、異世界でホラーだなんだは違うと思ってる。それはただのダークファンタジーだ。現実にグロを混ぜたらスリラーだし、非現実にグロを混ぜたらやっぱりダークファンタジーであると思う。
だから、現実世界にとどまった短編を書きたい。
主人公はおっさん。チートもなければ、ハーレムもないロマンスグレーのおじさまなんて程遠い草臥れたおっさん。ざ・おっさん。
そんな彼が恋をしたらどうなるんだろうか?更には、愛しすぎた故、いや、思い出してしまったプライドが前面に現れた瞬間――彼はどんな行動をとるのだろう?そして、行動したあとでどんな生活を送るのか!?
で、相手役の恋人…なんてもんじゃない女ガおっさんを弄んだら――
ということで、コレ↓
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安東が花村ミキの胸を刺したとき、彼女は倒れる自身の身体と入れかわるようにその場に立っていた。
一体、何が起こったのか――?
安東は、生温かさを右手に感じながら、同じくあ然とした彼女と目を合わせた。寸分違わぬ派手な服装で、二日前に買い与えたブランド物のショルダーバッグを提げている。
「死んだんじゃないのか……」
ポツリと零した自身の声に驚き、いまだ目を見開いて見つめてくるミキから目を逸らした。
地面には黒黒とした血溜まりの上で彼女がうつ伏せに居る。
確かに彼女は死んだのだ。
安東はごくりと唾を呑み込んだ。闇夜に青白く佇んでいたミキが、雲の隙間から伸びた光で透けていた。ささやかな白い蛍火を数匹纏わせ、薄い両手を返してはまた返していた。――途端、安東は怖くなった。足先から悪寒が駆け上がった。気付けば外灯を避けるようにしんっと静まり返った住宅街を駆けていた。
§
安東とミキが出会ったのは、半年前の夜の繁華街。仕事で疲れ、人に当たらないようけれど独り身の寂しさを切り外せずに、喧騒の傍らをぼんやりしながら歩いていた。
すると、もうすぐ家に辿り着くところで、柔らかい何かを踏んだ。
ぎょっとして踏んだ片足を上げる。足元を見れば山積みのゴミ袋の間から手が生えていた。
それがミキだった。
ミキは踏まれても声を出せないくらい、気付かないくらいに泥酔し、服や髪の毛に生ゴミをつけ、掻き分けたゴミ山で寝ていた。年は二十過ぎたばかりか幼さを残していたが、青白い顔色で半開きの口元にはそそるものがあった。ぷーんと鼻に付く臭いもまたいい――
安東は、初めて感じた自身の性癖に信じられなかった。何の取り柄もない、しがなく普通の人間だと思っていたが、ミキを抱き起こした手は興奮で震えていた。
五十も過ぎてからの嗜好の異常さは、まるで初恋を覚えた少年の頃に戻ったようだった。
安東は、自宅のボロアパートの一室へ連れ込むと、ミキを玄関ヘ座らせてちいさなショルダーバッグから財布とスマートフォンを抜き取った。財布の中には、『花村ミキ』と書かれた近所の女子大学の学生証と千円札が三枚、スマートフォンはロックを外せるわけもなくバッグの中へ戻した。
正直、安東の頭に、ミキをどうにかしてやりたいという欲望はなかった。連れ帰って来たことも自分自身で信じられなかった。このまま犯してやりたいのか、気が済んだら人目を盗んで捨てに行くのか、何も決められず何も思い浮かばずに、けれども身体の奥底から芽生えたばかりの声に突き動かされていた。
服を脱がして畳の上に寝かしたミキの身体は、しなやかだった。肌は蛍光灯の光でより艶かしく輝き、だけれど薄っすら口紅の残った唇が妖しく誘う。
しかし、安東は手を出すことはしなかった。いや、出せなかった。この瑞々しいミキの身体に神々しさを覚え、こ汚い自身に舞い降りた女神にさえ思えたのだった。
女神は、この身体を拭け、と言った。
安東は、言われるがまま――自身の妄想であるとわかっていながら、湯を沸かし、一番キレイだろうタオルを引っ張り出した。タオルは仕事場から御中元の余りだと言われて貰ったものだった。
じんわりと『加西工業』の青文字が滲みていくのに、幾分申し訳なさを感じ、安東は明日は柔らかいタオルを買って来ようと決めて、タオルを堅く絞った。
ミキは、次の日の朝まで起きることはなかった。