終わらない推敲…4
次に進めたと思いきや――
どこかで区切りをつけなければ…と思っても、続きを書くために更に何度も読み返すと、次へ手が出ない。昨日気付かなかったこと、数時間前に気にしていなかったはずの箇所が幾つも幾つも気になってくる。
だから、序盤から離れられない……
少し続きを書いては最初から読み、直す。また続きを少し書いては最初から読み、直す。短編一つ書くのに時間がかかってしょうがない。
でも、気に喰わないものを完成品とは呼びたくない。
で、書き直したのがコレ(↓)。“▶”は直した部分。多過ぎて付けてないところもあるかもしれませんが、一文字二文字から文章丸々まで色々と結構変わるもんですね…
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安東が花村ミキの胸を刺したとき、彼女は倒れる自身の身体と入れかわるように▶してその場に立っていた。
一体、何が起こったのか――?
安東は、生温かさを右手に感じながら、同じくあ然とした彼女▶を見た。▶露出の高い服装で、二日前に買い与えたブランド物のショルダーバッグを提げている。
「死んだんじゃないのか……」
ポツリと零した自身の声に驚き、いまだ目を見開▶き、微動だにしない彼女から目を逸らした。
▶黒黒とした血溜まりの上で、長い髪を無造作に広げた同じ服装の女がうつ伏せに居る。
確かに彼女は死んだのだ。
安東はごくりと唾を呑み込んだ。闇夜に青白く▶佇むミキの身体へ雲の隙間から伸びた光が通り抜ける。ささやかな白い蛍火を数匹纏わせ▶た彼女の向こう側に寝静まった街が見えた。――途端、安東は怖くなった。足先から悪寒が駆け上が▶り、気付けば外灯を避けるようにし▶て駆けていた。
§
安東とミキが出会ったのは、半年前の夜の繁華街▶だった。仕事で疲れ、気心知れた友人もなし。賑やかさとは真逆の生活を送り、それでも齧り付いた先は繁華街の端に昔から建っているボロアパート。
寂しさをどうしても切り離せずに、安東は俯き加減で喧騒の傍らをぼんやりしながら帰っていた。
すると、▶ネオンの切れ端が見えて家に辿り着く頃、柔ら▶な何かを踏んだ。
ぎょっとして踏んだ片足を上げると、山積みのゴミ袋の間からこちらへ手が生えていた。
それがミキだった。
ミキは踏まれても声を出せない▶ほど、気付かない▶ほどに泥酔していた。▶服や髪にあちこちと生ゴミをつけ、掻き分けたゴミ山の中で寝ていた。▶年は二十過ぎたばかりだろうか? その顔には幼さを残していたが、青白い顔色で半開きの口元にはそそるものがあった。サラには、ぷーんと鼻に付く臭いに安東は胸が高鳴った。
▶まさか――と信じられないことに、安東は胸を押さえた。どくどくと轟く音が真実を告げ、初めて知った自身の性癖に堪らず唾を呑み込んだ。何の取り柄もない、しがなく普通の人間だと思っていた五十年―――まるで初恋を覚えた少年の頃のように、ミキを抱き起こす手は興奮で震えていた。
安東は、人目から避けて自宅のボロアパートの一室へと連れ込んだ。
▶もし誰かが見ていたとしても、途中のラブホ街へ通ずる道へと入ってしまえば、夜の街で気にする奴などいないだろう。それに、そこから一本道を外れると入り組んだ路地だ。勝手知ったる安東の足に敵うはずもなく、有り難いことにミキの身体も意識が不安定だったが従順だった。
安東は難なく辿り着き、軽々と左手でミキの腰を支えて部屋の鍵を開けた。一応、ミキを玄関ヘ座らせると、振り返り辺りを確認してゆっくりと戸を閉めた。
安東は、一呼吸してから部屋の明かりを点けた。
ミキが起きる気配はない。▶首から提げた小さなショルダーバッグの蓋を開けても、その中に入っていた財布とスマートフォンを抜き取っても、彼女の目蓋は震えることはなかった。なんだか許された気分だった。
財布の中には、『花村ミキ』と書かれた近所の女子大学の学生証と、▶散々遊んだのだろう札はなく小銭がじゃらりと鳴った。だが、スマートフォンも調べたがロックを外せるわけがなく、財布と一緒にバッグの中へ戻した。
正直、安東はわからなかった。初めての感覚で血迷ってしまったのか、なけなしの親切心で介抱してやろうと思ったのか、常日頃からは考えられない行動に戸惑いつつも、身体の奥底から響く「それでいい」という肯定の声が心地良かった。
その心のままに汚れた服を剥いだ。すらりと伸びた手足、黒の下着で包まれた胸は直視出来ず、しかし、ぷるぷると痙攣したかのような指先で全てを脱がしていった。
蛍光灯の下で輝く肌が艶めかしい……
▶安東は、勇気を振り絞ってミキを抱き上げ、畳の上の万年床へと寝かせた。今度はゆっくりと頭のてっぺんから足の指先までを眺めた。
▶やはり、臭いが鼻につく。
ゴミ山から見つけたときは、汚れたミキと臭いにも興奮したが、今の一糸纏わぬ彼女には不釣り合いだった。彼女は綺麗でなければならない。▶不浄とは別世界――そう、この瑞々しく、だのに妖しく色香を放つ彼女はこ汚い自身に舞い降りた奇跡なのだから。彼女は、決して汚すことの出来ない女神なのだ。
▶そんな女神は言ったんだ……その麗しい唇で誘うように、この身体を拭け、と。
安東は、言われるがまま、▶例え自身の妄想であると頭のどこかでわかっていても、湯を沸かし、一番綺麗なタオルを引っ張り出した。御中元の余りだと言われて仕事場から貰ったそれは、『加西工業』の青文字が印刷されている。ゴワゴワとした手触りに申し訳なく思うが、いまだビニール袋に入っていたものは▶これしかない。誰にも触れられていなく、▶彼女のようにまっさらなものだ。
仕方なく、溜め息を零し、湯に浸した。そして、堅く絞り、ミキの身体を優しく、丹念に拭いていった。明日は、彼女に見合ったものを買いに行こう。柔らかで、色鮮やかな彼女だけのものを……
安東は一晩中ミキを眺めた。
暫く裸のままにしていたのだが、可愛らしいくしゃみを聞いて、慌ててシャツを着せた。
一安心してまた▶部屋の隅で壁に寄りかかり、物音一つ立てずに膝を抱えて見つめた。
隣の部屋から聞こえるイビキがより安東の世界を引き立てる。ミキに触れていたときに感じた恍惚さは幻のようで、時折、夢を見てると錯覚させた。
だが、彼女は現実のもの――
安東は歓びを隠せず、終始不気味な笑みを浮かべた。
ミキが目覚めたのは、次の日の朝だった。
二日酔いなのか見た目から想像出来ない低い唸りを上げて、むくりと身体を起こした。
「……大丈夫か?」
こめかみを押え、俯く彼女のあまりにも苦しそうな姿に安東はずりずりと膝立ちで近付いた。
手を伸ばし、もう少しで彼女の華奢な肩に触れそうになった瞬間、バシッ――と頬に痛みが走った。
ミキは振り向き様、左手を振り抜いた。
「ちょっと、あんた誰よ!」
女神は、苛烈な女だった。
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前回で、自分の物語に質問したのですが、質問の答えがなんとか答えているように思え、それは不足しているってことなのでは?と疑問に思ったのです。前のものより安東という人間が、わかりやすくなったんではないでしょう?
安東の行動と心情をより豊かに、変態的にするためにはどうするか……そう考えると、推敲に満足する日は来ないのかもしれない。
なぜならそれは、次話を捻り出すための儀式でもあるに違いないのだから。お陰で一応絞り出せたもの。




