空から落ちた箱舟が空に戻るまで
かつて人間は神々とともに生きていました。ある時ほんの些細ないさかいから広がった神々の争いに多くの神々と人間が犠牲になりました。
それにつかれた一部の神々が、新天地を求め大きな大きなウテナピシュティムという船を作り上げ、まだ生き残っていた人間の中から選りすぐれた人間を選び、旅のお供に加えて夜の空に船出しました。
「これがウテナピシュティム伝説であり、我々人類の存在理由であります。」
大勢の人々を背景に舞台に上がった深紅の神官がことぶいた。
しかしこれを良しとしないうねりを人々は持っていたようで一人の若者を舞台上に押し上げた。身なりのきれいで整ったその青年は対照的に年老いたまなかいに立つ神官に指さしこういった。
「神官殿、今知りたいのは過去ではない神ではない、未来、つまりわれらのこれからであります。旅をここで終えるのかそれとも渦巻く光の地図をたどり継ぐのかどうするのかであります!なぜなら!われらは生存し得る条件の星にたどり着いたのだから!」
神官に突き付けた指を下におろした。その先は彼らの頭上に収束固定された宇宙船の芯から無限に広がる外の宇宙、ひいては全く未確定の冒険先を指していた。そしてここにいるあらゆる人間はそれらの意味がとある恒星系の第三惑星に収束するものであることを承知していた。
緑の、楕円、サンダーバード2号が落ちてきた。語るは初めて宇宙人と接触した永井ミキオさんだった。
暁が夜を払う冷たく暗い山林に25メートルプールほどに巨大な船が腹を大きく擦りながら山林を滑り落ちた。
紫の朝空からそれが降ってくるのを見つけたミキオさんら村の青年三人は、不用意に焦げた土を踏み円盤を発見し手持ちの工具で乱暴に焼ける側面を叩き壊しよくわからないえらく頑丈な飛行機?に侵入した。
獣がいた。服を着ていた獣がいた。かわいらしさも漂う山リスほどの大きさの獣たちは侵入してきたミキオさんを認めると一目散に悲鳴を上げながら這う這うの体で奥のほうへ逃げて行ってしまったのです。これが初めての地球外生命体と人類の接触でありました。
獣たちを追うわけではありませんがさらに奥へと三人は進み大量の我らにもわかる人間が詰まっている部屋へとたどり着きました。後から考えると獣たちが神と崇拝していた宇宙人の霊廟でありました。その一つ一つが人で詰まっている棺くらいの小部屋のうち一つだけ明かりがともっているものを見つけたミキオさんはそこで一人の紛れもない人間の生きている少女を発見、土産に変えてその場を引き上げることにしました。
新天地発見の報に沸いたのも一瞬で、その後観測にて得られた伝説の神々に近い巨人種族の発見はウテナピシュティムの世論を二分した。
すべての根本は巨人に対する立場に起因した。
ウテナピシュティム内の神々は長い航海の果てに衰退して久しかった。一部の急進派は人工的に神々を生み出そうとして格闘するも、神々の証であるアイギスの起動と水を氷と湯気に分離する神威の力が出来ない不完全な巨人の製造しかこれまで成功していなかった。そのような状況下で今回の巨人族の発見は大きな衝撃をもたらした。ここである命題が浮かび上がった。今回発見された巨人族を神として崇拝するか否か。要は巨人族にまた服従するかもしくは対等な人類同士として新しい関係を模索するか否かである。話し合いは連日のように続き、いつまでも続くかに思えたが、それはくだんの第三惑星の重力に船が捉えられてそのまま地表に落下したことで新たな混乱の渦に人々を叩き落したのであった。
広場に集った人々の中心は一人の若者と神官であった。
「われらは陸に滑り落ちた!今我らを船底に縛り付ける力は遠心力ではなく、重力であるのです!」
「神官殿!今一度問いただしたい!これまでわれわれがいかに偉大な業績を積み重ねてきたかということはとうに我ら自身でそらんじることができるほどに聞いてきました。それがいかに尊き、美しき、素晴らしき過去の記憶であることも承知している、しかし今はどうなのだろうか。神はとっくの昔に朽ち果てて姿を見たことがないものが今この舞台の端から端まで埋め尽くしている。彼らはこれからの未来を欲してる今我らは何をするべきなのか指名とは何ぞや、いかに生きるのかを知りたがっているのです」
突然船底から鈍い音が響いた。一つ、二つと繰り返し外からたたかれた。三つとたたかれるとほんの小さな鋭き金属塊の一部が船底を貫いた。ゆっくりと引っ込むと一泊間をおいて四度目の打撃音が響いたなら先ほどの金属塊の全体をあらわに内部に勢いよく突っ込まれた大きくゆがんで広がった傷口を四本の大男の腕ほどの太さの指先が入り込んだ。
観衆は何が起こった様子なのか分かりかねてじっとその傷口を眺めていた。途端圧倒的な力が傷を広げてぬっと、体を押し込んで巨大、舞台の構造物でさえもかのものの前ではささやかな踏み台にすぎないほどの大きな大男が現れた。
誰もが大合唱に加わった悲鳴を背景に、我先にとその場にいたすべての人の波が奥へ奥へと流れ込んでいった。
新天地にもとから住んでいた巨人はウテナピシュティムに乗り込むと、深層部に入り込み、一人の神の少女を連れ去り帰っていきました。それは神と王を中心に物事を考えてきた人類にとって未曽有の大混乱の到来を意味していました。「神」を取り返しに宇宙船から出発した一団もありましたが直に見る巨人社会の発展具合に面食らい、たまたま接触した外の巨人の少女をとらえ、新しい神様としてウテナピシュティムの中に閉じ込めてしまいました。
はじめは女神さま扱いを受け女の子は気をよくしましたが、時間がたつにつれ長い長い星を渡る旅で疲弊しつくした人類の文明の退屈さを思い知り逃げ出そうとしましたがあっさりととっつかまってしまいました。
外の巨人が前より大勢でウテナピシュティムを襲います。ウテナピシュティム側は今度はかつての伝説時代の兵器で反撃し、巨人の側に出血を強いて撤退に追い込みました。
この第二次襲撃事件の後ウテナピシュティムの中では神の力を持たない外の巨人たちは神なのか?という議論が再燃して先ほどの巨人の少女も神であるとした神殿に批判が集まりそれに船室を有する船室貴族も乗っかり外から拉致した少女を裁く国民裁判が開催されました。ここでは女の子に神々しか使えないとされた兵器アイギスを使えるかどうか試し、神々の力とされるぬるま湯を湯気と氷に分離させられるかの二つの実験が行われ前者は成功し後者は失敗しました。しかし熱く議論されたのはそれらの問題の採決法についてでした。一人一票とする自由派と、一つの船室につき一票とする神聖派に真っ二つに分かれ議論は全然立ち行かなくなりました。
議論は末永く続くかに思えましたが、外からの砲撃で中断されました。何の反撃も取れず一方的になぶられこのまま破壊されるかにも見えましたが、突然ウテナピシュティムは動き、高いお空へ逃げ出しました。ウテナピシュティムを操艦できるのはアイギスも使える神だけのはずです。しかし外からの少女は今裁判の真っ最中でとても動けません、それでは誰がウテナピシュティムを動かしたというのでしょうか。それは船室貴族のエルノが内密に鋳造した人造人間でした。第一次襲撃で巨人が連れ出した少女は彼女の姉ともいえる存在でした。人造人間は神のように水を湯気と氷に分けられますがアイギスとウテナピシュティムを動かせませんでした。しかし外の巨人の少女を連れてきたおかげでウテナピシュティムはいつでも動力炉に火を入れられるようになり、水を湯気と氷に分ける能力を用いればずっと星の海を渡り続けることができるでしょう。
いきなり浮かんだウテナピシュティムに巨人はたくさんのミサイルを打ち上げ叩き落そうとしますが、女の子がまとったアイギスの力で痛くも痒くもありません。しかし周りは違います。墜落の影響で弱っていたことと今回のミサイルがとどめとなり、ウテナピシュティムはちょうど真ん中がざっくり割れて女の子を乗せた前部が崩れ落ちて海に落ちて行ってしまいました。残った後部はただゆっくりと上がり続け、宇宙の旅へとまた乗り出していきました。