7話…邂逅
ビルの階下には言いつけ通りにマナが待機していた。階段の踊り場に姿が見えたシンラを見て、緊張の表情がほぐれて安堵が顔を覗かせた。
「あ、にいさん! …と、だれ?」
「ただいま、マナ。こっちはイヴだ。襲われていた相手だよ」
「ハローです。はじめましてです」
言葉の端々に外国人訛りが聞こえるが、流暢と言えるイヴのあいさつにマナが戸惑ったように礼をする。
「はじめまして…えぇと…イヴ、さん?」
「はい」
降りてくる際にシンラから、妹がいると聞かされていたイヴには戸惑いはない。先ほどの出来事も、既に完璧に消化しきっているようだ。
一方で、マナからすれば唐突な出来事だ。
……いや。可能性としては、被害者がいた場合その保護は十分に考えられたのだが。
被害者が外国人であることと、イヴという名前と、つい先ほどの出来事を既に吹っ切っている図太さが、予想のかなり外側だった。
「イヴは、本人いわく、あのイヴらしい」
「…!」
シンラのその言葉に目を剥いたマナだが、シンラがあまり気にしていないようなので、そういうものかと受け入れる。
間違いなく世界一有名な学者の名前だが、聞きたい話は確かに、あまりない。
そういう俗物的な安っぽい好奇心があれば、きっと今頃死んでいるだろう。何となくそう思う。
「それより…」
「うん?」
イヴのことを説明する以上に口ごもり、言いにくそうにしていたシンラに、マナが首をかしげた。
シンラはしばらく唸りつつ迷っていたが、十秒もすると息を吐いて、なにかを諦めたように告げた。
「人が死んだ」
「……」
短い言葉だ。この短い言葉で、マナはシンラが誰かを殺したことを理解した。
それ以前に、階段から静かに降りてきて、そのあともこんな風に悠々と会話をする時間があることから、マナはその可能性を察していた。マナはシンラよりも聡明なのだ。
「りょーかい、理解したよ」
「…!」
「ああ、だから、今から穴掘って…出来れば薪とか集めて火葬をしたい。手伝ってくれ」
「りょーかい!」
あっという間に状況を理解したというマナの言葉を聞いて、一般的な理解速度よりも大分早い! とイヴは驚いた。
シンラの方は、マナが自分よりも賢いことをきちんと知っていたので、然もありなん、という気持ち。
妹に劣る兄というのは少し情けなくもあったが、現実は現実として受け入れていた。
「…は、早い…ですね」
あっという間に状況把握と、次の行動、そしてその指示を終わらせたことに、マイペースで有名だったイヴが軽く驚いた。
イヴのその呟きに、シンラとマナはお互いに顔を見合わせて、同時にイヴを振り返り。
「…なにが?」
不思議そうに首をかしげるのだった。