6話…さらば2
人が死んだ。不器用な人間だった。
本当は優しい男だったのかも知れない。そんな彼にも死は平等に訪れる。
「なぁ、さっきの話は本当なのか?」
手の中から落ちていった命を確かめるように、シンラは右手を気にしていた。
「ほんとうです。ワタシの名前はイヴですし、人の魂は転生の際に清浄にされるです……苦痛をともなって。最もその時にもまだ、個としての自我が残っているとは思えないですが」
室内にいる、唯一彼の言葉を聞く少女は答える。その言葉を聞いて、そっと息を吐いた。
「そうか…」
しばし無言で手を握って考える。
きっと暴漢が自ら死ににいかなくても、シンラは彼を殺しただろう。手放すときにわずかに眉を顰ませたかもしれないが、動きをとめるほど躊躇いはしなかったと思う。
「ふぅん……」
人を死に追いやることが「赦し」であることを、すぐそばにいる少女によって証明された世界で、死に対する価値観は変わった。
殺人は正義ではないが、悪でもない。
殺人が悪でなくなった世界では、意外と簡単に人を殺せる人間が増えた。
生者に死を与える意味はなかったが、赦しを欲する人に死を与える意味はあった。自分を殺せない人を殺す人間はどこにでもいた。
「…そう、か」
そう呟いたシンラは何を思っていたのだろう。しばらく無言で目を瞑っていたが、そっと目を開けてイヴに問いかける。
「それじゃ、あの死体を何とかしないとな。悪いが一緒に来てくれ」
「はい、わかったです」
イヴとしても、死体を放置する事のまずさは理解していた。
魂の抜けた人体は、最低でも土葬をしなくては、蛆と細菌の温床となってしまう。自然に全てを委ねたのなら人体は腐り、溶け出し、空気中に毒素を振り撒くだろう。
別にこの場所を離れても良いのだが、それにしても放置は具合が悪い。そんな中でのシンラの提案は彼女にとって渡りに船だった。
「それじゃ、いこうか」
シンラはそう言うと、イヴを伴って階下に降りる。まずはマナと合流をすることにした。