前編 誕生と現状把握、そして覚醒
ある日ふと気付くと戦国時代にいた。
何が何だか分からなかったが、唐突に理解した。かも。
あ、これ夢だわ。
本当に夢かどうかは知らないが、そうだと認識しないと頭がおかしくなりそうだった。
理解できないことは無理に理解しようとせず、程々に折り合いをつけるのが長生きの秘訣だってじっちゃんが言ってた。
誰だよじっちゃんて。
俺は今、寺にいる。
そして目の前には坊主で白髭を蓄えたナイスガイが。誰だあんた。
ナイスガイ曰く、俺の父たちが死んでしまったらしい。たちというのは、叔父とか大叔父とかも一緒に死んだらしいから。
目の前のナイスガイは俺の曽祖父らしい。ひいじいちゃんってこんな若いもんなのか?
そして俺はひいじいちゃんに寺から連れ出された。
ひいじいちゃんって言いにくいな。祖父もういないらしいしもう爺ちゃんでいいか。
連れ去られてランランる…じゃなくて、なんかダンディなおじ様と爺ちゃんが話してる。
ダンディなおじ様のとこに居候することになったらしい。
なんで俺連れられてきたんだろうか。
聞くと殺される可能性があったかららしい。なんでさ。
光陰矢のごとし。一年後爺ちゃんは本懐を遂げたらしい。本懐を遂げるってカッコイイな。そして爺ちゃん死亡。九十三歳だったんだって。マジかよ。全然見えんかった。
爺ちゃんの遺言で俺、還俗。あ、還俗ってのは俗世を捨てて出家した僧侶が俗世に帰って来るという意味な。いわゆる出戻りだ。そして俺って僧侶だったんだ。確かに寺にいて、袈裟のようなものを着ていたような気がしなくもないが、襤褸と大差なくて気付かなかったわ。
ともかく還俗して元服して当主になっちゃったりしたらしいよ。意味わかんねえ。
そんな偉いさんだったのか、爺ちゃん。まあナイスガイだったからな。さもありなん。
あまり長生きするのはどうかと思わないでもないが、爺ちゃんみたいに元気なんだったらアリかも知れない。でも爺ちゃんみたいに最後まで苦労の連続と言うのは御免蒙りたい。
どうやら武家らしいので、息子が出来たら早々に家督譲って楽隠居したいもんだ。
俺は十七になった。らしい。周りはごちゃごちゃしてるがよくわからん。爺ちゃんの跡を継いで当主になったから色々やらされているが、まあ良く分らん。よくわからんなりに、適当にやれているから良いだろ。
本家の当主って人に会った。俺分家だったんだな。どっちでもいいけど。そんなことよりめちゃイケメンでしかも嫁さんはちっこくって可愛かった。これがリア充か。爆発しろ。
リア充爆発した。
いや、俺のせいじゃない。俺は何もしてない。ちょっと呪詛吐いただけだ。何もしてないぞ。
子供が女の子だけだったので跡継ぎがいないらしく、なんやかんやあって俺が継ぐことに。
なんで俺なんだ。わけわからん。そして結婚することになった。例のちっこくって可愛い嫁さんだった。お前は何を言っているんだ。
遠いところにいて、俺の後ろ盾してくれてたらしい足長おじさんが爆発した。足長てリア充だったのかな。顔も見たことないけど成仏してくれ。なんまんだぶ。
そしたらなんか城から追い出された。不満があったらしいが誰だお前は。
ダンディなおじ様と再会した。見た目がダンディなおじ様は中身もしっかりダンディだった。ゆっくりしていってね!ありがたや。
しばらくしてお城に戻った。ダンディなおじ様が力を貸してくれたらしい。なんてダンディなんだ。ゲッツ。
奥さんと仲直りした。喧嘩してた記憶がない。何が起こったというのか。
娘が結婚することになったらしい。妹のように接していたけど実は娘だったと昨日発覚した。それで奥さん怒ってたのか。正直すまんかった。
奥さんに構うことしきり。子供が出来た。やったね奥さん、家族が増えるよ。
そうか、俺も人の親となる日がきたのか。娘もいたような気がするが、あれは妹だった。いや娘だったか。どっちでもいいか。
爺ちゃんを精神的に追い詰めたヤクザな人たちがまたやってきたらしい。一度は追っ払ったらしいが。迷惑な奴らめ。
詳しくは知らんけど偉いシツコイようだ。頑固な汚れかてめえら。漂白すっぞ。
追っ払った。
俺がまもなく四捨五入で三十路に突入しようかと言う頃、叔父さんの従兄弟の嫁の弟にあたるらしい人がやってきた。遠すぎて最早他人じゃね?
言ってることは良く分らんかったが、まあ要するに一緒に暴れたいということだろうと思う。
大体同世代なので仲良く暴れたりするのも良いかも知れんね。
馬に乗っていざ行かん。馬ちっさ。って思ったけど乗ってみたら足つかねぇの。俺も小さかった。超ショック。俺ってこんなに小さかったっけ?疑問に思ったが家で立ってみても天井に頭をぶつけた記憶はない。手が届いた記憶もないからこんなもんなのだろう。つまり気のせいだ。気にしないは正義。
俺の一族でほぼ他人だが同世代のマッサンとは仲良くやっている。マッサンとは仮名である。本名は聞いた気もするが覚えてない。
マッサン(仮名)とは馬でよく遠乗りに出かける。後ろに何人かついてくることもあるようだが、あまり気にしてない。
海が見えた。どこだここ。
今回は弟が付いてきていた。いたんだな弟。俺に弟なんていたか?いたようだ。弟は元気いっぱいに走り回っている。なんか良い気分になったので一緒になって走り回った。後ろで誰かが何かを叫んでいるが、マッサン(仮)も一緒になって騒いでいるので大丈夫だろう。
怒られる時は一緒だぜ。
下の方に行った。
何を基準に下なのかは良く分らない。とりあえず海はもう見飽きたので山へ行こうと思った。
途中でもう一人の弟が合流してきた。何人いるんだ弟。これで打ち止めらしい。なんだ。
こっちの弟は随分大人しかった。仕方がないのでマッサんと一緒に連れまわした。
怒られた。
お城に戻ってきた。お城って言うけど、そんな立派なもんじゃないよね。なら家なのかと言うとそんな小さくもない。こまけぇこたぁいいんだよ!
再び奥さんに構うことしきり。また子供が出来た。的中率高いな。元気な証拠で何よりだ。
先に出来た子供とは男の子だった。長男だ。いずれ俺を楽させてくれるに違いない。楽しみにしてる。
マッさんにも子供が出来たらしい。結婚してたのかよ。そんな顔で出来るのかよ。殴られた。どうやらお互い様らしい。
お祝いに遠乗りに出かけた。今回は弟は来てない。はず。
川があったので越えてみた。沢山人が出てきた。よし、マッさン。競争だ。
なんの競争だったかはもう覚えてない。でもマッさーには勝てない。しかし楽しい。これが青春か。三十なってから青春とか。
お城に戻ったら超怒られた。あまりにやんちゃしすぎて近所の人からブーイングが酷いらしい。城から出るなと言われた。まっサーは知らん顔してた。むかついたのでまっさーのせいにした。ざまぁ。
一緒に怒られた。
弟分が出来た。弟は間に合ってます。無視された。
俺の父の義理の従兄弟の息子の弟らしい。義理って時点で他人じゃねーか。別にいいけんど。
まっさアは最近姿を見せない。寂しいぞ。代わりに弟分と遊んでおけと言われてた。子供が二人もいるのにこの扱い。
近所の人にはみんなでごめんなさいしたら許してもらった。まっサーは謝りに行ってたらしい。俺の代わりに。
うん。なんかごめん。今度から近所の人の迷惑にならない場所で騒ごうと思う。
しばらくお城で反省してたら子供が出来た。俺、頑張ったよ。奥さん可愛いから仕方ないね。
まっサにも子供が出来てた。仕方ないね。
近所の人の迷惑にならないように、今までよりもっと遠くに遠乗りに出かけた。
山と海が近い場所に出た。海は遠浅で潮が引いたら良い感じに遊べそうだ。そしてどこまでも続いてるように見えたので、どこまで続いているのか確認しに行った。弟分が泣きそうな顔してた。楽しまないと損だぞ。
でっかい船がいる。
こんなでっかい船を見るのは、えーと。久しぶりだ。この夢では初めてだ。あとでっかい人もいる。なんだここ。
俺、大興奮。マッサ、大興奮。弟分、泣きそう。
そんな俺たちを見て近寄ってきた人がいる。クリスちゃんって言うんだと。自分でちゃん付けとか。引くわー。
ともあれ、せっかくなのでそのクリスちゃんに色々案内してもらった。そして最後に教会に行った。
まっサと弟分は警戒していたが、俺は教会を知ってる。だから問題ない。
問題だらけだった。
売り飛ばすとか何言ってんだてめぇら。ここ教会じゃないだろ。実は協会だろ。教戒かよ。ぶっとばすぞ。
帰りは船に乗った。すごく親切な人がいて、なんか知らんが超笑顔で超持ち上げてきたから天狗になってみた。鼻は普通だ。弟分は警戒してたが、どうやら今度は問題なかったらしい。船に乗って弟分も随分はしゃいでた。うむ、それでいいんだ。
船の持ち主のお城に招かれた。謎の大歓迎を受けた。ひゃっはー。
一晩寝たら落ち着いた。間違いなく怒られる。どうしよう。
マっさに罪を被せるか。弟分に、いや止めておこう。流石に可哀そうだ。俺だって鬼じゃない。マッ佐に任せよう。うん