チートトリップ少年の場合
偶には街に出てみようと冒険者スタイルでギルドへ向かう。
何か面白いものは無いかなぁ?
あ!早速。
「買い取りをお願いしたいんだけど」
今時珍しい黒の詰襟の学生服姿の少年が、虚空から魔獣の死体を引きずり出している。
どうやらトリップ早々ギルドで冒険者登録を果たし、生活の基盤をと身分証の取得と
手っ取り早く現金を稼ごうとしている所のようだ。
「魔獣の買い取りはこのカウンターで無く廊下を出て右側の部屋になります」
受付嬢のお役所仕事っぷりば相変わらずだ、清々しいまでのアルカイックスマイル(笑)
何処ぞのテンプレギルドのトリップしたてのチート人間のステータスを見て
騒ぐ考え無しの馬鹿娘に爪の垢を飲ませてやりたい程だよ。
記憶を読めば少年の名は田中 浩司、仔猫を庇ってトラックに轢かれ此方にトリップした
定番のトラ転組らしい、他にも電車組や屋上からのダイブ組、寝落ち組なんてのもいる。
"鑑定"してみると詰襟少年のステータスはほぼカンスト、神に愛された〜、とか
祝福された〜、とかの称号も幾つか付いてるテンプレ通りのチートっぷりw
付いてって見てれば買い取りカウンターに無造作に魔獣の死体を積み上げる。
「買い取りですね」
「此処では狭いかも、沢山狩ってきたから」
ぶっきらぼうに何でも無い風を装ってワイバーンやヒュドラ、ユニコーンをぶち撒けた。
買い取りカウンターの係員が固まりカウンター周りで買い取り査定を待つ
冒険者達が絶句する、少年は周りの驚愕を自身のチート能力による狩りの成果に
向けられたものと、得意げな表情を押し隠しきれずに僅かに鼻をヒクつかせていた。
「コージさん、ちょっと…」
係員の兄ちゃんが少年をギルドマスターの部屋へと促す、さも当然といった態度で
少年は係員の後を追い掛けた。
馬鹿だなぁ〜(笑)
少年のチート能力にギルドマスターが勧誘してくるとか王家に報せて
早速囲い込むとか考えてる?そんなに世の中甘く無いよ、それがたとえ異世界でもねw
荒くれ者の冒険者達を束ねる海千山千のギルドマスターもそこまで阿保じゃ無いし。
「コージさん、とんでもない事を仕出かしてくれましたね」
巨乳を強調する大胆な衣装の女ギルドマスターがこめかみを揉みながら
苦々しい表情で吐き出す、その重々しい空気にコージ君がやっと
テンプレ展開じゃ無い事に気付いたっぽく
両手を挙げて大歓迎じゃ無い今の状況に戸惑ってるようだ。
「ワイバーンとはいえドラゴン種をこんなに大量に狩ってくるなんて…
魔の森の生態系を狂わせる馬鹿な真似を」
「竜王の怒りを鎮めねばなりませんし、ワイバーンやヒュドラの数が戻るまで
湧いてくるモンスターを討伐させる為に高ランク冒険者に指名依頼をかけて
国にも討伐と警戒で軍の出動を願い出なければなりませんな」
頭を抱えたギルドマスターと係員の兄ちゃんの言葉に焦るコージ君。
「え、その」
「君が何を考えてるのかは知らないが
生きていくのにドラゴン種をあんなに狩る必要は無いと思うが?
三頭も狩れば一生働かずに生きていけるぞ」
積まれた死体は200頭を超える、こりゃ森が相当荒れるぞ。
激おこギルドマスターは不機嫌を隠そうともせず荒々しく
通信魔道具に魔力を流し込んで起動する、そうして各所にトリップ少年のやらかした
ドラゴン種の乱獲を報告すると厳重に管理された魔道具の箱の封印を解除した。
「君が仕出かした後始末に幾ら掛かるか…幸い君のステータスを見れば
中々の実力がありそうだから生きている内に借金の清算は済むんじゃないかな」
箱から取り出された鉄輪、マスターの手によりに魔力が満ちる。
「な、何を!?それ何!?」
後ずさるコージ君の首にギルドマスターは素早くその鉄輪を装着した。
「隷属の首輪だよ、当たり前だろう?貴様の仕出かした後始末に国軍が動いて
何人もの高ランク冒険者を召集させねばならんのだからな。
その分の費用はやらかした貴様が用立てるのが道理だろう、支払い終わるまで
ギルドの名に於いて貴様を逃す訳にはいかん、さ、今日からしっかり働いて貰うからな」
顎をしゃくるギルドマスターに係員の兄ちゃんが乱暴にコージ君を引っ立てて連れて行く。
初めて降り立つ異世界なんだぜ?今までの常識が通用する訳無いじゃん。
よく解らない世界なら最初は慎重に様子を見る位思いつかないかなぁ。
まさかラノベやケータイ小説に書かれた事がそのまま通用するとか厨二臭い事考えてたとか?
恥ずかしい奴(笑)
ま、その甘い考えも隷属の首輪で拘束されながらの強制労働で少しは改善されるとイイね☆
結構なチート能力があるんだし自分が破壊しちゃった魔の森の生態系が整うまで
モンスター討伐を連日連夜やらされるのかな?
良かったね〜憧れのチート能力でバッサバッサとモンスター狩り三昧だよ。
ある意味予定調和ってやつかなw