厨二病を患った大公家嗣子の場合
最近の学園は痛い生徒ばかりが目立ち、可笑しな生徒の当たり年か!と学園長は控え目に
キレつつも王家にそんな恥ずかしい学園の内情を晒したくないと頑張ってはいたものの…
胃薬のストックと共にその気力も尽きたらしい。
「そりゃ"ネタ一家"の跡取り息子が入学した年なんだから無事はともかく平穏は無理じゃね?」
学園長室で茶を呼ばれて学園長の愚痴に付き合うが、そんなの何十年かに一度当たる波乱年なんだから
素直に諦めた方がいいよ、当たり年に学園長を勤め上げた人物はその後異様な出世を遂げてるのは
それが面倒に報いた国からのご褒美人事だからなんだけど。
「今年入学してきたシュバルツシルト家の跡取りはある意味大当たりだったのですよ…」
当たり、かぁ〜
そりゃ学園長もガックリだよな(笑)
シュバルツシルトって名字自体ネタ一家の名に相応しい命名劇だったし。
ウチの国は魔の森を挟んで魔界に隣している地理的条件から始まってあらゆる意味で
厄介事引き受け国、尻拭い国家として近隣諸国から面倒事を色々と押し付けられる代わりに
交易や国家間事業の負担金等で優遇を受けている。
その最たるものがシュバルツシルトという姓…元は別の姓を名乗る筈のウチの王家から
臣籍に降った一族なのだが、当主が代々大体厨二病罹患して世間に話題を提供している面白一家。
偶に正常な神経のマトモな当主が生まれる事もあるが代々やらかしてきた偉業wに
頭を掻き毟り引き籠るかアルコールに逃避する人生を送り、大体短命に終わるらしい。
その大公家の御子息様が学園長を悩ませる事をやらかしたのか?
「実は…シュバルツシルト家の家宝である書籍が学園の図書館に寄贈されてる筈だから返せと」
「あぁ…毎度の事ですよ、"シュバルツシルト家の命名の書"を
普通の感覚の次期当主が学園に寄贈して当たり年の次期当主が取り戻すイタチごっこは」
「はぁ…その家宝とはどのような書で?」
マトモな感性の跡取り息子はソレを精神を汚染する悪魔の道具と忌み嫌い、当たり年の厨二真っ盛りな
跡取り息子達はソレを"オラクルの書"と呼んで有り難がり常に小脇に抱えて手にしているのだ。
その正体は独和辞典、何でも聖女として召喚されてやって来た絶賛受験モードの受験生が持参した物。
聖女として使命を果たした受験生が、人生の進路を進学から王家への永久就職に変更した事で
聖女が嫁入道具の一つとして異世界の辞典という触れ込みで王家へ持ち込むが、その後何代か時を経て
臣籍降下する王弟の一人に下賜された…その王弟が重度の厨二病患者だったのだ。
これぞ福音!と叫び、辞典の編集者の名前の意味を調べ、カッコいいからという理由だけで
シュバルツシルトを姓としようと勝手に名乗りだすわ、独特なドイツ語の響きに魅了され
有り余る暇と魔力と迸るパッションでドイツ語で命名された魔法を開発しまくったりと
色々やらかした人生を送ったらしい(笑)
そんなヤンチャな厨二の血族、ミサワちっくな言い回しを好んだ当主もいれば
脳内で止めておけば平和だったものを魔獣や魔族を生体実験に供したり、光の戦士に俺はなる!と宣言して
発光の魔法で死の間際まで文字通り光っていた当主がいたりと大層バラエティーに富んでいる。
他国の王家や貴族でも厨二患者が出るとシュバルツシルト家に婚姻の形で押し付けるので
世界の痛い奴等の吹き溜まりwだからシュバルツシルト大公家はネタ一家と有名だったが
その間に変わり者?というのか突然変異種なのかマトモ感性当主が生まれる事もある。
そんなマトモ当主は先ず自身の姓の命名の経緯に絶望して学園に独和辞典を捨てに来る。
そして先代達の様々な武勇伝wに頭を掻き毟り一足早く毛髪を天に送ると
様々な理由で身体を壊して早死にする、そして次代の厨二当主が辞典を取り返しに
学園長に詰め寄るのがこの国とシュバルツシルト大公家と学園の歴史である。
「取り敢えずサッサと渡しちまえばいいさ」
「そうします」
電波浴を強制堪能させられた学園長に魔王ん所で仕入れたストレス性胃炎に良く効く
ガ◯ター的な胃薬をそっと差し入れた。




