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東方楽曲伝  作者: ホッシー@VTuber
第2章 ~外の世界~
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第45話 万屋『響』

「今日はここまで。気を付けて帰れよー」

 夏休み明け初日。担任の適当な帰りのホームルームも終わり、俺は帰る準備をしていた。

「響! 一緒に帰ろうぜ!」

 後ろの席から悟が声をかけて来る。その瞬間、周りのクラスメイトが悟を睨んだような気がするが何かの間違いだろう。

「すまん。これから仕事だ」

「え? 真っ直ぐ仕事場に行くのか?」

「ああ、そう言う命令されてな」

「そうか……わかった。じゃあ、また明日な!」

「おう」

 悟は残念そうな表情を見せるがすぐに笑顔になり、教室を出て行った。

(さてと……)

 これから俺は幻想郷に行かなければならない。今日の仕事は荷物運び、その他もろもろだ。問題はどうやってここから行くかだ。

「お、音無……君」

「ん? 何だ?」

 クラスの女子が赤面しながら声をかけて来た。慣れたので赤面についてはスルーし、顔を向ける。掃除中のクラスメイトが息を呑むような気配がしたが気のせいだろう。

「文化祭の事なんだけど……」

「文化祭? 何か話し合ったっけ?」

「夏休み前に話し合ったの。その時、音無君……休んでたから」

「え? マジ? どんなのになったの?」

 クラスメイトとして聞いておかなければならない。

「うん……ステージ発表になったの。何をやるかはまだ決まってないけど一つだけ決まったの」

 それから何故か女子は言いにくそうに体をもじもじさせる。

「ん? どうした?」

「えっと……決まったのは誰がステージに立つか、何だけど……その」

「誰?」

「……皆、音無君が良いって満場一致だったの」

「……Why?」

 思わず、英語で聞いてしまった。

「り、理由? そ、それは……き、きゃあああああああああああッ!?」

「お、おい!?」

 顔を両手で隠して女子は走り去ってしまった。

「何なんだよ……一体」

 俺が呆然とする中、掃除が終わり、帰ろうとしていたクラスメイトが『わかる、わかる』と言いたげに頷いていたように見えたが俺の勘違いだろう。


「……」

 ここは学校のトイレ。更に個室だ。もっと言うと旧校舎。誰も来ない――はずだ。スキホに紫に教えられた番号を打ち込み、PSPが入ったホルスターがスキホから飛び出す。夏休みの最後の日に紫にスキホを渡し、新たな機能を付けたのだ。その名も『簡易スキマ』。人間は無理だが、物をスキホに登録しておけばいつでも取り出せると言う物だ。便利である。

「移動『ネクロファンタジア』!」

 出来るだけ小声で宣言し、制服が紫の服に早変わり。急いでスキマを開き、幻想郷に向かった。

「お! 響ちゃん、よく来たな!」

 人里にワープすると道を歩いていた男にあいさつされる。

「こんちは~」

 テキパキとイヤホンを抜いて返事をする。人里の人たちは俺が幻想郷に住んでいると思っているので俺はスキマで幻想郷のどこかにある俺の家から来ていると勘違いしているのだ。

「お? 今日の服はいつもと雰囲気が違うね」

「はい、制服です」

 嘘じゃない。

「へ~! じゃあ、これからはその服で来るのかい?」

「だいたいは」

 紫からこの服装で来いと命令されているのだ。

「あら~! 響ちゃん!」

「あ、おばさん。こんちは~」

 人里の住人は俺の事をちゃん付けで呼ぶ。もう、気にならなくなってしまった。男してどうかと思うがどうでもよくなったのだ。

「じゃあ、依頼があるのでこれで」

 そう言って、おじさんやおばさんと別れ依頼主の家を目指し移動を始める。


「ちわ~す。万屋『響』です~」

 万屋の名付け親は紫である。どうでも良かったので採用した。

「おう! 来たな! これを守矢神社まで頼む」

 依頼主である男が大きな荷物をポンポンと叩いて言った。

「はい、わかりました……それにしてもすごい量ですね」

「ああ、命蓮寺までは歩いて行けるけどさすがにこれほどの荷物を担いであの山を登るのはきつい。今回はたくさん、寄付が人里から集まったから余計な」

 早苗はきちんと信仰は得られたようだ。命蓮寺は何かわからなかったがスルー。今日は依頼が9件あるので細かい事は気にしない。朝は5件だったが後になって増えたのだ。よくある。

「なるほど。では、移動『ネクロファンタジア』! 永遠『リピートソング』!」

 一度では運び切れない量なので何回かに分ける事にした。その為、時間がかかると踏みループを唱える。

「おお~!」

「……もしかして、これを見たいから依頼したんじゃ?」

 目をキラキラさせていた男にジト目で聞く。それを男は咳払いで誤魔化した。図星のようだ。

「まぁ、いいや。じゃあ、行ってきます。すぐに終わるのでここに居てください」

「ああ、わかった」

 スキマを開き、荷物を持って潜り込んだ。

「早苗~! 荷物、届いたぞ~!」

「は~い!」

 境内を掃除していた早苗は笑顔で俺の所まで駆け寄って来た。この依頼は今までにも何回かあったので早苗も慣れた手付きで俺から荷物を受け取る。

「まだあるからそこで待ってて」

「はい、わかりました!」

 それから4往復して荷物を運び終わった。

「響ちゃん、お疲れ様でした~!」

「おう。すまんが依頼があるからここで」

「そうですか……お茶でも出そうと思ったんですけど」

 早苗が残念そうに俯く。

「暇な時に来るよ」

 そう言って、人里に戻った。

「お疲れ。代金はどれくらいだ?」

「ちょっと待ってください」

 スキホを取り出して情報を入力する。代金は全てスキホに計算させているのだ。

「これぐらいです」

「……よし、これで丁度だ」

「はい、確かに。では、次の依頼があるので」

「ああ、頑張れよ!」

「ありがとうございます」

 頭を下げて次の依頼主の所を目指し、スキマを開く。


「疲れた~……」

 そう呟きながら縁側で横になる俺。

「ほら、お茶用意したからぐで~ってなんじゃないの」

 霊夢がお盆を持ちながら呆れ顔そう言った。今日、最後の依頼は博麗神社の屋根直しだ。雨漏りしていたらしく、偶に自分の家の雨漏りを直していた俺にとって苦痛ではなかったがさすがに8件もの依頼を熟した後だったから疲れた。腕時計で時間を確認すると午後3時。学校が終わったのが午前中で助かった。

(授業が始まったらどうなんだろう……考えないでおこう)

「さんきゅ。まだ時間、あるから少しゆっくりしていっていいか?」

「ええ。私もお茶、飲むつもりだし。この後も依頼?」

「いんや。紅魔館にな」

「フランと遊ぶの?」

 つい最近見たフランと魔理沙の弾幕ごっこを思い出し、震える。

「俺は無理。遊ぶなら平和的な遊びだ。紅魔館に行くのはパチュリーに魔法を習いに行くんだよ」

 2週間ほど前、平和的にしりとりでフランと遊んでいた所にパチュリーがやって来てトールについて聞かれたのだ。トールは本物ではなく大昔に儀式で作られた人工の魂らしく、興味があったとの事。本人にも確認した。

「お前って本物のトールなのか?」

「何を言っておる。そんなわけないだろう。我の力は本物に比べて……そうじゃのう。3割ほどか? まぁ、トールではある。でも、本物ではないと言うことじゃな」

 そう言う事らしい。パチュリーにトールについて話していると不意に――。

「なら、貴方は雷魔法とか使えそうね。トールと仲良くしてるみたいだし」と言ったのだ。

 試しに簡単な魔法を教えて貰い、使ってみるとあら不思議。使えてしまったのだ。吸血鬼から魔力を貰っているし、もしやと思ったが、吃驚した。因みにパチュリーには魂の事を話してある。一番、物知りそうだったし困った時に助けて貰うつもりだ。

「魔力、少ないのに?」

「うるさいなー。色々あんだよ」

 霊夢の言う通り、魔法を使ったその後すぐに倒れた。霊力などは消費していなかったので気絶はしなかったが体を動かせなくなってしまった。

「ごめんなさい。魔力“も”だったわね」

 霊夢がお茶を啜りながら呟く。

「ぐっ……」

 本当はそれなりに霊力があるのだ。でも、吸血鬼や狂気、トールからの力の供給が邪魔して表に出せない。そう説明したいのだが、吸血鬼たちの事は内緒にしておきたいので言えない。もどかしい。

「おっと! もう、こんな時間だ! 紅魔館へ行かなければ!」

「下手過ぎ」

「う、うるさい!」

 お茶をぐいっと飲み干してイヤホンを耳に装着し、スペルを唱えて紅魔館へ飛んだ。その後は普通に魔法を教えて貰い、数冊の魔導書を借りて、フランにタックルされ鎖骨を折って家に帰った。


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